236話 王城での再会
王城に行くことになった日の朝、メルヴァイナから伝えられた。
その前日に魔王国から王国に申し入れをしたということを。
具体的にはメルヴァイナも知らないらしい。
だから、王国にどう要求を言ったのかはわからない。
それがあって、コーディは王城に呼ばれることになったそうだ。
王国側はコーディを説得するつもりなんだろうか?
メルヴァイナは、捕らえて監禁して魔王国に引き渡すつもりじゃないかと言う。
王国側がどう動くのか、という情報はないと聞いた。
「わたしも一緒に連れて行ってください」
わたしはメルヴァイナに頼んだ。
コーディとは6日間会っていない。
さすがに今日は戻ってくるだろう。
午後になり、王城へと向かう侯爵家の馬車に乗り込む。
馬車には既にコーディが乗っていた。
コーディは正面を向いたまま、わたしに一切、目を向けない。何の反応もしない。わたしに全く気付いていないようだ。
ヴェールのせいかと思い、ヴェールを外してみるが、コーディの様子は変わらない。顔色一つ変えない。
泣きそうになる。
馬車の中で立ち尽くすわたしに後ろから声が掛かる。
「早く座ってくれないか。邪魔だ」
ライナスがわたしに容赦のない言葉を投げつけてくる。
仕方なく、わたしはコーディの向かいの席に座る。
ライナスが馬車に乗ってくる。
ライナスはコーディの従者ということで同行する。
馬車が出発する。
誰も声を発しない。
わたしは俯いたまま。
空気が重い。
「私はこの偽物と国王に会って来る。王城ではメルヴァイナが待っている。それと行動しろ」
出発からしばらくして、ライナスがわたしに言う。
ん? 偽物? わたしは顔を上げ、コーディを見る。そう言えば、人形みたいだ。見た目はコーディそっくりだけど、表情は変わらない。
「本物のコーディは?」
「知らない。王都にはいない」
ライナスは素っ気なく答える。
「わたしやイネス達のことは何も言われていないんですか?」
「呼ばれているのはコーディだけだ」
コーディの偽物は本当にコーディそっくりだ。
コーディの唇を見ると、あのことを思い出した。
結局、また、俯くことになった。
馬車が止まり、ライナスにヴェールを掛けられる。
馬車のドアが開かれ、ライナスとコーディが先に降り、偽物のコーディが無表情のまま、わたしが降りる時に手を差し出してくる。
その手を取り、わたしも馬車を降りる。
確かにこれはコーディではない。
わたしは偽物のコーディにエスコートされた。
イネスに教わった通り、コーディの手に手を重ねる。
本物のコーディがよかった……
そんなことを考えている余裕はない。
転ばないようにしないといけない。
わたしやライナスが止められることはなく、王城内を進む。
上階まで来て、前に見知った人を見つける。
はっきり言って、会いたくなかった。
それは王太子だった。
わたしは警戒するが、王太子が見ているのはコーディの方だ。
わたしには一向に目を向けない。
「フィニアス、私と来てくれ」
王太子は簡潔にそれだけ言うと、踵を返す。
わたしには一言も声を掛けてこなかった。
呆気にとられるわたしを残し、コーディとライナスは行ってしまう。
そう言えば、わたしはヴェールを着けていた。メルヴァイナから渡されたものだから、おそらく魔法が掛かっている。
相手からどう見えているのかわからない。
「メイさま」
声のする方。そこには上品な薄紫のドレスを纏ったメルヴァイナがいた。
いつもの派手な雰囲気じゃなく、全体的に落ち着いた雰囲気だ。
声でメルヴァイナだとわかったけど、印象が違って、凝視してしまった。
さすがにこんなところではこの場に合わせた格好だ。
「中にレックス殿下がいます。せっかくなので、お話しするのはいかがですか?」
わたしのすぐ側には両開きのドアがある。
ドアの両側には騎士だと思うけど、二人の男が警護の為か、直立不動で立っている。
わたしが入っていいの?
と思ってしまうほど、わたしには場違いな気がする。
しかも、ドアの向こうにロイがいる。
ロイに返事をしないといけない。
ロイがいるとは思っていなかったわたしには急で心の準備が万端じゃない。
メルヴァイナがドアの両側の男と話し、一人の男が部屋の中へ呼び掛け、ドアが開けられる。
「メイさま」
メルヴァイナに呼び掛けられる。
仕方なく、わたしは部屋に入る。メルヴァイナも一緒に入ってくる。
「メイさまをお一人にするわけにはいきませんので」
メルヴァイナがこそっと耳打ちしてくる。
部屋には確かにロイがいた。
これまでとは違い、高そうな服を着ている。わたしもドレスだから、当然だけど。
わたしはヴェールを外した。
「メイさん!」
ロイは驚いたような表情だ。
「先日は申し訳ありませんでした。貴女を困らせるようなことを……ですが、あの時に言ったことは後悔しておりません。私は貴女と結婚したいと思っております」
わたしはちゃんと返事をしないといけない。
断ることはもう決めている。
ちゃんと言わないといけない。
「申し訳ありません。そう言ってくれて、うれしいです。でも、わたしには他に好きな人がいます。本当にすみません……」
ロイの表情が曇る。
「そうおっしゃられると思っておりました……良き友人でいて下さいますか」
泣きそうな表情のロイに胸が締め付けられる。
「もちろんです」
「メイさん、素敵なドレスです。よくお似合いです」
涙を堪えるようにロイの声は少し、震えていた。
「ありがとうございます、ロイ」
ロイはすごくいい人だ。
できれば、友達でいたい。
「そろそろ行きましょうか。私達にはすることがありますから」
メルヴァイナが言う。そう言えば、いることを忘れていた。
わたしはメルヴァイナに頷いてから、ロイに言った。
「会いに行きます。コーディも一緒に」
「お待ちしております」
ヴェールを被り直して、ロイの前から立ち去った。




