235話 宰相への依頼
わたしは王城にいた。次に来るのは国王の誕生祭の日だと思っていた。
侯爵夫人とのお茶会の翌日。
なぜかというと、コーディが王城に呼ばれたからだ。
だからと言って、わたしが行く必要は全くない。
わたしは呼ばれていない。
それに、そもそもコーディ本人がいない。
今回は忍び込んだ訳ではなく、堂々と馬車で正面から来た。
その為にドレスを着ないといけなかった。
この国で流行しているというドレスで重くて歩きにくい。
せめて落ち着いた色にしてほしいと、ドレスは深緑になった。ただ、フリルは多い。
マナーを勉強し始めて日が浅すぎて、全然できていないと自分でも思う。
顔はヴェールで覆っている。
それでも、緊張で落ち着かない。
この展開はやっぱり、わたしのせい、なんだろう。
3日前に、わたし達の計画を宰相に伝えた。
わたしは一時的に魔王国に戻っていた。
王国に来て何もできていない今、一時的でも戻ることは躊躇ったけど、わたしから言うべきだと思う。
わたしは転移魔法が使えないし、イネスもミアもグレンも転移魔法は使えても、魔王国には転移できないらしい。
なので、メルヴァイナとライナスに協力してもらうしかない。
王城での出来事は二人も知っている。
わたしがお願いすると、愉快そうに顔を輝かせて、メルヴァイナは協力すると即答した。
ちなみにライナスはやっぱり微妙な顔をしていた。
ということで、メルヴァイナとライナスと共に魔王国に戻ったというわけだ。
今回は宰相の執務室ではなく、ソファとテーブルの置かれた豪華な部屋だ。夜だけど、煌々と明るい。
メルヴァイナとライナスは部屋の外で待っている。
わたしは王国にわたし達を含めてコーディを引き渡すように要求したいと話した。
「これまで、魔王国が王国に公式に接触したことはございません。そもそも、王国ではこちら側に国があるという認識もないでしょう」
宰相は丁寧な口調で言う。
「王国に信じてもらえないということですか?」
「平和的に使者を立てたとしても追い返されることでしょう」
「魔王だと信じてもらわないといけないんですね」
魔王の力を誇示するとか? でも、わたしは強くない。
「死んだことにした方がよろしいでしょう。他の王族もまた、死んでいるのですから」
確かにその通りだ。マデレーンやエリオットのように死んだことにすることはできるだろう。
でも、嘘でも死んだことにするのは抵抗がある。
ミアはまだ、家族に会えていないそうだし。他にも色々、まだ、王国ですることがある。
「それでも――」
「覚悟はございますか? 王国の言う魔王となることへの覚悟でございます」
王国での魔王の評判は悪逆非道だ。
「それは恐怖を味わわせるということですか?」
魔王国がしようと思えば、王国を滅ぼせる。
安易に言うべきことじゃなかった。
わたしはめちゃくちゃ怖気づいた。
「何も王国の者を殺すわけではございません。手段はいくらでもございます。勿論、お望みでしたら、都市の一つや二つ消しても差し支えございません」
「いえ、そんなことは望んでいません!」
わたしはすぐに否定した。そんなことをされては本当の悪逆な魔王になる。
「それに、これはまだ先の話です。まだ、その、フォレストレイ侯爵とほとんど会えていません」
「いいえ、十分でございます、魔王様。フォレストレイ侯爵家の方々とは親しくなられたご様子、お伺いしております。それに、もし、私の弟が黒幕であれば、魔王国が動けば、必然と向こうも動かざるを得ません」
そこで、宰相は礼をする。
「私にお任せいただけませんか、魔王様。最善の結果となるよう力を尽くしましょう」
わたしには選択肢はない。宰相に任せるしかない。
下手にわたしが何かすると、どうなるかわからない。
無関係な人達を巻き込んでしまうかもしれない。
「お願いします」
「承知致しました、魔王様」
「あの、聞きたいことがあるんです。その……コーディを……王配にすることはできるんですか? その、まだ、決まったわけじゃなくて、もしもの話なんですが」
「魔王様が望まれるのでしたら、如何様にも」
「わかりました。ありがとうございます」
宰相と話が付き、わたしは王国へと戻って、早々に寝た。




