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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑤
234/316

234話 二人のお茶会

わたしは今日もマナーとダンスの練習だ。

マナーだけでなく、ダンスも男性パートも踊れるイネスが教えてくれる。

剣術も勉強もダンスもできるイネスはすごい。

ミアもわたしへのダンスレッスンに付き合ってくれている。

運動が苦手なわたしはもちろん、すぐに上達するというわけにはいかない。

たった1か月でできるのかと考えると、頭を抱えたくなる。

でも、あれだけ啖呵を切ったのに、無理でしたなんて言いたくない。

コーディとお城でダンスをしてみせるのだ。

ただ、そのコーディを見ていない。

森に行くと言っていたけど、まだ、戻っていないんだろうか。

それとも……逃げられた?

誰に聞いても、知らないと言う。ちなみにルカにも会えていない。

皆、わたしに気を遣ってる?

そうではないと信じたい。

コーディと最後に会って5日が過ぎていた。

グレンもコーディには会っていないらしい。

コーディは転移魔法も使える。ここに戻ろうと思えば戻れるはずだ。

前に閉じ込められた時のような状況でなければ。

メルヴァイナに聞いても、むしろ連絡がないなら無事だというだけだ。

敵にも動きがない。

魔王にとって、敵と言えるかはわからないけど。

あの聖騎士達はわたしを攻撃しなかった。

被害があるのは、この王国の方だ。

ただ、関係がないわけじゃない。

彼らをあぶり出すにはわたしかこの国の王族が動くしかないと思う。

国王の誕生祭に何かあるかもしれない。

その前に王太子に接触した方がいいんだろうか。

正直言って、これ以上、王太子に関わりたくはない。

後はロイだ。

ロイにまだ、返事ができていない。

断ることは決めている。

本当は一刻も早くロイに返事をしないといけない。

ただ、言いづらくて先延ばしにしているだけだ。

何度も、しないといけない、しないといけないと思うけど……

まあ、できていないのである。

この日は午前中、マナーを教わり、午後からは別の予定が入っていた。

そう、予定。

なんと、コーディのお母さんにお茶会に誘われたのだ。

コーディのお母さん、つまり、フォレストレイ侯爵夫人だ。

怖い人だったらどうしよう。

マナーを間違えて怒られるかもしれない。

しかも、誘われたのはわたし一人だ。

イネスにフォローしてもらうこともできない。

急にやることが増えたわたしはちょっとパニック状態だ。

全部、わたしのせいだけど。

だから、文句は言えない……

午後になり、わたしはいつもの制服のような服装ではなく、紺色の上品そうなワンピースに着替えた。

イネスに選んでもらった服だ。大人っぽくなった気がする。

でも、今日は友達とお茶を飲むのではない。

頭の中でマナーの復習をする。

ちゃんとトイレにも行っておく。

全然、完璧じゃないけど、行くしかない。

イネスとミアに見送られ、侯爵邸の庭に向かう。

少し雲があって、快晴とは言えないけど、晴れている。気持ちのいい日だった。

庭にはテーブルとイスが用意され、既に侯爵夫人がいる。

お茶会といっても、わたしと侯爵夫人の二人だけだ。

「あなたがメイさんなのですね」

侯爵夫人から声を掛けられ、わたしは即座に挨拶を行う。

侯爵夫人はメアリー・リラ・フォレストレイという。

茶色の髪に茶色の瞳の美しい女性だ。

侯爵夫人の声は穏やかで優し気だ。表情も柔らかい。

「一度、お会いしたいと思っておりました。夫に止められていましたのよ」

「許可は出たのですか?」

わたしが聞くと、侯爵夫人はふふと上品そうに笑った。

まだ、侯爵に止められたままなんだろう。

「どうして、あなたのような可愛らしい方と会ってはいけないというのでしょう? 私は不思議です。ウィリアムとジェロームにもあなたのことは聞いておりますのよ」

さすがにわたしが魔王だということは言っていないのだろうか。

それとも知った上で言っているのだろうか。

わたしには判別不可だ。

「あら、ごめんなさい。話し過ぎました。お茶とお菓子をどうぞ」

侯爵夫人はお茶に口を付ける。

それを見て、わたしもお茶を飲む。

「あなたはコーディと仲良くしていると聞きましたわ」

「は、はい」

侯爵夫人はわたしとコーディが仲良くすることに反対で、牽制するために呼んだんだろうか?

「コーディはどうしているかしら? 全く戻って来ませんのよ」

それはわたしの方が聞きたい。

「す、申し訳ございません。わたしも仕事でどこかに出掛けているということしか知らないんです」

すみませんと言い掛けて、言い直したから、変な言葉になる。

わたしは正直に答えた。

「お菓子もどうぞ」

侯爵夫人はシンプルなケーキを一口、口に運ぶ。

お茶もゆっくりと飲んだ後、

「コーディという名前はフォレストレイ侯爵家初代当主の名からつけましたのよ。実名ではありませんが、本当の家族となれるように」

それから、ほぼ、コーディの話で今回のお茶会は無事に終わった。共通の話題がそれしかないのもある。

そこまでの失態はしていないはずだ。

侯爵夫人の今回の誘いは、要は、コーディに会えないけど、どうしているかということだった。

多分、そのはずだ。

怒られなくてよかった。

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