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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ④
233/316

233話 魔王の噂 二

昨夜、何とか三人を連れて、宿へと戻った。

今朝、その三人は未だに起きてこない。

アーリンに言うが、この日は休みにすると言われた。

朝食後、町に出てみる。これまでと町の雰囲気は変わらない。

昨日聞いた魔王の噂を調べる為、町の出入口まで、警備隊に話を聞けないかとやって来た。

町の門は開いていた。封鎖はしないらしい。

門の側まで来ると、「おい、あんた!」と呼び掛けられる。

呼び掛けたのは、魔獣退治のリーダーのヒューだ。その横にはドルフと名乗った獣人がいる。

「後の三人はどうした? まだ、つぶれてんのか?」

ドルフが親し気に話しかけてくる。

「そうですね。今日は休みになりました」

「こっちも似たようなもんだ。正直なところ、このまま魔獣退治なんて辞めちまおうかってな。昨日みたいな魔獣じゃあ、割に合わねぇ」

いくら人間よりは頑丈な獣人とはいえ、あの魔獣相手では死んでしまう可能性もある。

ただ、彼らは魔獣退治において、以前の僕より遥かに役に立つ。

辞めるもの続けるのも彼らの自由だ。僕が口出すことではない。

ミアの父親も優秀な魔獣退治人だったそうだ。それでも、大怪我を負い、魔獣退治を続けられなくなった。

「あんた達は兄弟なのか? なんで魔獣退治なんてやってるか知らねぇけどな、もっと真っ当な職にありつけるだろ。俺みたいな獣人じゃあ、次の職があるかわからねぇ。それに比べたらな、ずっとましだ。魔獣退治なんて辞めろ」

「僕にとっては必要なことです。それに魔獣を放っておくこともできません」

「そうバカまじめじゃあ、損しかしねぇぞ。声張り上げて、我を通せ。俺が生きてきて学んだことだ。あんた達は強い。それでも死んだら終わりだ」

ドルフの口調は軽快だが、真剣だ。

「知り合いの人間は魔獣退治でしくじって死んだ。あんた達の死体を見るのはご免だからな。直に騎士団が来るだろ」

僕達を心配してくれているのだろう。

「魔獣退治をするのは今だけです。決して、死んだりしません」

「それならいいがな」

ドルフはそれ以上、言ってはこなかった。

「あの、魔王が攻めてくるという噂のことを出処など詳しく知りませんか?」

昨日、詳しく聞けなかったことだ。

わかるのであれば、もう少し詳しく知っておきたい。

「気になるのか? まさか、魔王を倒そうなんて考えてんじゃないだろうな?」

そう確認してきたのは、ヒューだ。

「いえ、考えていません」

「まあ、倒す以前に魔王なんかに会えるわけねぇな。会えても、一瞬で消滅か、嬲り殺しじゃねぇか」

以前の僕と同じように魔王は悪逆なものとしてヒューは言う。

魔王や魔王国のことを知らないのだから、当然だ。

それでも、魔王が悪く言われるのは辛く感じる。

魔王はメイだから。

メイが悪く言われているようで……

「第一、噂の出処っつてもなぁ。魔王と結びつけんのは当然だろ。誰でもそう思ってんじゃねぇか。魔獣は魔王の配下とかだろ。で、今までと違う魔獣だ。だから今の話題っつったら、それだろ? 誰だってしゃべってる」

そんな事実はない。

すぐに否定したい。

だが、そんなことはできない。

「そう、ですね」と肯定するしかない。

「特に今はきな臭い。強ち噂も間違ってねぇのかっ、てな」

「それは、王家のことですか」

「こんな往来でめったなことは言うなよ」

この地で王位継承者の死がどこまで伝わっているかはわからない。

王弟の死は既に伝わっているだろう。

王弟以外の葬儀は未だ行われていない。公表すらされていないケースもある。

今の王家は異常だ。

そもそも、王太子がこんな所で酔いつぶれている時点で異常だが。

どう状況が動くか不明だ。

やはり王都を離れるべきではなかったかもしれない。

何かが起こっていることは確実だ。

魔王であるメイに影響はないだろうか?

メイが心配でたまらなくなってくる。

メイの傍にいたい。

「なあ、もう一度、聞くがな。俺達と組まないか?」

「ああ、あんた達なら、歓迎だ」

ヒューとドルフが再び、誘って来るが、答えは決まっている。

「申し訳ありませんが、できません」

「だろうな。じゃあ、またな。俺達はもうしばらくこの町にいるつもりだ」

ヒューとドルフとは別れ、警備隊の元へと向かった。

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