233話 魔王の噂 二
昨夜、何とか三人を連れて、宿へと戻った。
今朝、その三人は未だに起きてこない。
アーリンに言うが、この日は休みにすると言われた。
朝食後、町に出てみる。これまでと町の雰囲気は変わらない。
昨日聞いた魔王の噂を調べる為、町の出入口まで、警備隊に話を聞けないかとやって来た。
町の門は開いていた。封鎖はしないらしい。
門の側まで来ると、「おい、あんた!」と呼び掛けられる。
呼び掛けたのは、魔獣退治のリーダーのヒューだ。その横にはドルフと名乗った獣人がいる。
「後の三人はどうした? まだ、つぶれてんのか?」
ドルフが親し気に話しかけてくる。
「そうですね。今日は休みになりました」
「こっちも似たようなもんだ。正直なところ、このまま魔獣退治なんて辞めちまおうかってな。昨日みたいな魔獣じゃあ、割に合わねぇ」
いくら人間よりは頑丈な獣人とはいえ、あの魔獣相手では死んでしまう可能性もある。
ただ、彼らは魔獣退治において、以前の僕より遥かに役に立つ。
辞めるもの続けるのも彼らの自由だ。僕が口出すことではない。
ミアの父親も優秀な魔獣退治人だったそうだ。それでも、大怪我を負い、魔獣退治を続けられなくなった。
「あんた達は兄弟なのか? なんで魔獣退治なんてやってるか知らねぇけどな、もっと真っ当な職にありつけるだろ。俺みたいな獣人じゃあ、次の職があるかわからねぇ。それに比べたらな、ずっとましだ。魔獣退治なんて辞めろ」
「僕にとっては必要なことです。それに魔獣を放っておくこともできません」
「そうバカまじめじゃあ、損しかしねぇぞ。声張り上げて、我を通せ。俺が生きてきて学んだことだ。あんた達は強い。それでも死んだら終わりだ」
ドルフの口調は軽快だが、真剣だ。
「知り合いの人間は魔獣退治でしくじって死んだ。あんた達の死体を見るのはご免だからな。直に騎士団が来るだろ」
僕達を心配してくれているのだろう。
「魔獣退治をするのは今だけです。決して、死んだりしません」
「それならいいがな」
ドルフはそれ以上、言ってはこなかった。
「あの、魔王が攻めてくるという噂のことを出処など詳しく知りませんか?」
昨日、詳しく聞けなかったことだ。
わかるのであれば、もう少し詳しく知っておきたい。
「気になるのか? まさか、魔王を倒そうなんて考えてんじゃないだろうな?」
そう確認してきたのは、ヒューだ。
「いえ、考えていません」
「まあ、倒す以前に魔王なんかに会えるわけねぇな。会えても、一瞬で消滅か、嬲り殺しじゃねぇか」
以前の僕と同じように魔王は悪逆なものとしてヒューは言う。
魔王や魔王国のことを知らないのだから、当然だ。
それでも、魔王が悪く言われるのは辛く感じる。
魔王はメイだから。
メイが悪く言われているようで……
「第一、噂の出処っつてもなぁ。魔王と結びつけんのは当然だろ。誰でもそう思ってんじゃねぇか。魔獣は魔王の配下とかだろ。で、今までと違う魔獣だ。だから今の話題っつったら、それだろ? 誰だってしゃべってる」
そんな事実はない。
すぐに否定したい。
だが、そんなことはできない。
「そう、ですね」と肯定するしかない。
「特に今はきな臭い。強ち噂も間違ってねぇのかっ、てな」
「それは、王家のことですか」
「こんな往来でめったなことは言うなよ」
この地で王位継承者の死がどこまで伝わっているかはわからない。
王弟の死は既に伝わっているだろう。
王弟以外の葬儀は未だ行われていない。公表すらされていないケースもある。
今の王家は異常だ。
そもそも、王太子がこんな所で酔いつぶれている時点で異常だが。
どう状況が動くか不明だ。
やはり王都を離れるべきではなかったかもしれない。
何かが起こっていることは確実だ。
魔王であるメイに影響はないだろうか?
メイが心配でたまらなくなってくる。
メイの傍にいたい。
「なあ、もう一度、聞くがな。俺達と組まないか?」
「ああ、あんた達なら、歓迎だ」
ヒューとドルフが再び、誘って来るが、答えは決まっている。
「申し訳ありませんが、できません」
「だろうな。じゃあ、またな。俺達はもうしばらくこの町にいるつもりだ」
ヒューとドルフとは別れ、警備隊の元へと向かった。




