231話 揺らぐ決意と魔獣退治
宿の自分に割り当てられた部屋の前。
今日一日、新たな仕事のことを考えて過ごしていた。
このままでいい訳がない。
メイに結婚を申し込んだ。
ただ……答えは聞くことができていない。
僕は王都の自室に転移した。
昨日のことが思い出される。
メイに会って、はっきりさせたい。
このままでは夢で終わってしまいそうだ。
夜に訪ねるというのは非常識ではあるが……
メイの部屋は知っている。おそらく、そこにいるだろう。
僕はメイの部屋へと向かう。
「帰ってきたのね。ルカお兄さまの仕事を手伝うと聞いていたけど」
「お前も大変だな。ヴァンパイアは軽くあしらえ」
背後から声を掛けてきたのはメルヴァイナとライナスだ。
今の今まで背後に気配はなかったはずだ。
こういう所でも、まだまだ彼らに及ばないのだと実感する。
ただ、今はそのことは置いておく。
「メイはいますか?」
「メイさまならご自分のお部屋にいらっしゃるわよ。でも、今から行くべきではないわ。それぐらいのこと、わかってるはずでしょう?」
わかった上で来ている。
「承知しています。それでも、メイに会わせてもらえませんか」
「許可してあげたいけど、だめよ。勘違いしているかもしれないから、言うわ。メイとの婚約は実際にする訳ではないのよ。婚約者のふりでいいの。暴走しないでね」
婚約者のふり……
あれは、婚約者のふりをする為だったのか?
いや、それはない、はず……
決意が揺らぐ。
僕はどうかしている。
メルヴァイナの言うように、暴走しているのかもしれない。
正確な判断ができなくなっている。
僕はメイを抱き締めてキスをしてしまった。
メイに嫌悪されたかもしれない。
イネスとミアからの罵倒は正しかったのかもしれない。
メイに酷いことをしてしまった。
今、メルヴァイナとライナスが立ち塞がるのは、メイが僕に会いたくないと拒んでいるのか。
血の気が引く。
「部屋に戻って、寝るといいわ」
「わかりました」
僕は無意識に近い状態で、宿の部屋に戻った。
それから、5日が過ぎた。
その間、一度も王都には戻っていない。
王太子の周辺はどうなっているのか気になる。
王太子が不在ということは知られているのか。
町では王太子が行方不明だというような噂は聞かない。
今回の目的は、王太子を王都から遠ざけることではないか?
今、王都にいる王位継承権も持つ王族は第7王子のレックスだけだ。
後は全員、死んでいるか、ここにいるかのどちらかだ。
とは言っても、魔獣退治も嘘ではないだろう。僕達の訓練という意味合いもあるかもしれない。
王太子もエリオット、マデレーンも魔獣退治において、様にはなってきた。
勿論、剣術の腕が上がった訳ではない。闇魔法は中級習得中だ。戦いの中での上級の闇魔法の習得は無理だった。
森の中で幾度か、魔獣に遭遇した。
頻度としては確かに多すぎる。
町の人に危害が及びかねない。
この日も、森の中で魔獣を探索中だった。
昨日から天気が悪い。降ってくる雨にマデレーンが文句を言っている。
普段は口を出してこないアーリンが僕達に近づいてきた。
「町に戻りましょう。町に続く街道で魔獣が出たようです」
アーリンの言葉で即座に町の近くに転移する。
魔獣はすぐに見つかった。
町の入口の目と鼻の先だ。
町の警備隊と魔獣退治人が既に対峙していた。
服装が違うのですぐにわかる。
町の近くの後方に警備隊三人、実際に戦っているのは、魔獣退治人の六人だ。その内の三人は獣人。
これまでの魔獣ならば、十分な戦力だ。
だが、今は苦戦を強いられている。
魔獣は2頭。四足歩行の肉食獣型。僕達が森で戦った魔獣より一回り大きい。
丁度、戦っていた二人が魔獣に弾き飛ばされる。
魔獣の内の1頭が魔法を使おうとしている。
魔獣は魔法を放つまでに時間を要する。なので、それまでに決着をつけるのが普通だ。
ただ、今の魔獣は魔法を使わなくても脅威だ。
「これは私達の出番だな!」
王太子は言うや否や、飛び出した。
僕がアーリンに目を向けると、彼は軽く頭を下げる。よろしくとでも言うように。
王太子を放っては置けない。
エリオット、マデレーンに視線を送ると、王太子を追った。エリオット、マデレーンも僕について来る。
王太子は躊躇いなく、魔獣目掛けて大剣を振るう。
僕はそれを闇魔法で支援する。
王太子の大剣は勢いと重量を得て、魔獣に傷を負わせる。
傍から見ると、魔法を使っているとは気付かないだろう。
それにより、魔獣の魔法を阻止する。
そこへ僕達三人も加わる。
魔獣は多少大きいが、戦い方は同じだ。
ただ、唯一、違うのは闇魔法を大っぴらに使えないことだ。
魔獣を倒した時には、返り血と跳ねた泥で酷い姿になった。
他の魔獣退治人も泥だらけだった。
「助かった」
獣人の一人が僕達に言う。
倒れた二人は助け起こされていて、意識もあるようだった。




