227話 新しい任務
朝、僕を迎えに来たのは、アーリンだった。
眠れなくても、体調に問題はない。
アーリンの転移魔法での転移先は、どこかの町の近くだった。
町が見えているが、おそらく、僕の行ったことのない町だ。
昨日、マデレーンが言っていた王都の東にある町ではないかと思う。
ということはこれから向かうのはこの近くの森ということだ。
「森で何をするのですか?」
「魔獣退治です。最近、魔獣が増えてきていて、手が足りておりません」
僕の質問に真っ当な答えが返ってきた。
アーリンに案内された先にいたのは、ルカ・メレディス、それに、エリオットとマデレーン、他にも――
本当になぜここにいるのかわからない相手がそこにいた。
いたのは王太子だった。
王太子然とした服装ではなく、多少、見栄えのするものではあるが、動きやすそうな服装だ。
ただ、一番目に付くのは、王太子の持つ大剣だ。
とても王太子が扱えるとは思えない。闇魔法で作られた剣なら可能かもしれないが、そうでなければ僕でも重くて扱えないと思われる。それに実際に大剣で戦うのは力のある獣人ぐらいだろう。
すぐになぜいるのか問わないのは、いるものは仕方ないと思うからだ。
エリオットとマデレーンも同様だ。
「第6、すぐに会うことになるとは思わなかった。女神は安全な場所にいるのだろうな?」
王太子が大剣の切っ先をわずかに僕に向けてくる。
「勿論です、王太子殿下」
「今は、王太子と呼ぶな。そうだな、セルウィンお兄様と呼ぶといい」
「承知致しました。セルウィンお兄様」
兄とは全く思っていないが、呼ぶだけならなんとでも呼べる。
「このような所にお越しいただき、誠に感謝しております」
ルカ・メレディスは王太子に大袈裟な程、頭を下げる。
「私達の願いはこの周辺の魔獣の被害をなくすことです。魔獣は特にこの森に潜伏しております。腕試しには最適かと存じます」
ルカ・メレディスが森の奥を指し示す。
「エリオット殿下、マデレーン王女殿下、フィニアス殿下は多少、闇魔法が使えます。王太子殿下にも闇魔法の素質がございます。すぐにでも、上達するでしょう」
普通の人間には素質どころか、闇魔法は使用できないはずだ。
使えるとすれば、人間以外の血が混じっているか、僕と同様、眷属となったか、のどちらかだろう。
おそらく、後者だ。
ただ、王太子も眷属になっているのだろうか?
王太子が不老となると、王位継承に差し支えないか。
実際には眷属になっておらず、出任せの可能性もある。
そもそも王太子がこんな所にいていい訳がない。
現在、王城には影武者でもいるのかもしれない。
それを用意したのが魔王国なら、本物を排除して成り代わることも可能だ。
それが悪いことなのかと問われれば、返答に困る。
今の僕は、魔王国側だ。
また、今の僕の役目が何かということも不明だ。
本当にここで彼らと魔獣退治するだけなのだろうか?
「セルウィンお兄様自ら、戦う必要はないのではありませんか?」
「私もそう思っていた。だが、昨日、殺されかけた。女神を護る力もない。私自身が強くなるのも良い。私も多少は剣術を嗜んでいる。遅れは取らない」
王太子は不安などの負の感情を全く感じさせず、自信に溢れた様子だ。
僕にとってはそれが逆に不安だ。
王太子が魔獣退治などしたことがないだろう。
魔獣を見たことがあるかも疑わしい。
それはエリオットとマデレーンも同様だ。
二人がいつから、ルカ・メレディスと関わっていたのかはわからないが。
「私とエリオットお兄様は闇魔法の初級までは習得しておりますわ」
マデレーンが胸を張って、よく響く声で言う。
初級というのは、黒い点を出すぐらいだろうか。
「見ていてくださいませ」
マデレーンはそう言うと、黒い霧を発生させた。
「これが初級の闇魔法ですわ。視界を遮るのに使用します」
闇魔法は危険なものだと聞いた。
僕はそんな闇魔法を教わったことはない。
僕達は初級を飛ばしていたことになる。
「フィニアス、あなたもここまではできますの?」
したことはないが、出来そうな気はする。
試しに同じようにすると、黒い霧を発生させられた。
「ここまではできますのね。私とエリオットお兄様はこれ以上はまだ習得できておりませんの」
この黒い霧で攻撃できるとは思えない。
霧を無数の針にして突き刺せば可能かもしれないが、視界は奪えても魔獣は倒せない。
現に、マデレーンは視界を遮るとしか言っていない。
後は、視界を遮った上で、剣などの武器で攻撃するしかない。
「フィニアス殿下、彼らに戦い方と闇魔法の使用方法を教えていただけますか?」
ルカ・メレディスが爽やかな笑顔でそう言った。




