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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ④
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227話 新しい任務

朝、僕を迎えに来たのは、アーリンだった。

眠れなくても、体調に問題はない。

アーリンの転移魔法での転移先は、どこかの町の近くだった。

町が見えているが、おそらく、僕の行ったことのない町だ。

昨日、マデレーンが言っていた王都の東にある町ではないかと思う。

ということはこれから向かうのはこの近くの森ということだ。

「森で何をするのですか?」

「魔獣退治です。最近、魔獣が増えてきていて、手が足りておりません」

僕の質問に真っ当な答えが返ってきた。

アーリンに案内された先にいたのは、ルカ・メレディス、それに、エリオットとマデレーン、他にも――

本当になぜここにいるのかわからない相手がそこにいた。

いたのは王太子だった。

王太子然とした服装ではなく、多少、見栄えのするものではあるが、動きやすそうな服装だ。

ただ、一番目に付くのは、王太子の持つ大剣だ。

とても王太子が扱えるとは思えない。闇魔法で作られた剣なら可能かもしれないが、そうでなければ僕でも重くて扱えないと思われる。それに実際に大剣で戦うのは力のある獣人ぐらいだろう。

すぐになぜいるのか問わないのは、いるものは仕方ないと思うからだ。

エリオットとマデレーンも同様だ。

「第6、すぐに会うことになるとは思わなかった。女神は安全な場所にいるのだろうな?」

王太子が大剣の切っ先をわずかに僕に向けてくる。

「勿論です、王太子殿下」

「今は、王太子と呼ぶな。そうだな、セルウィンお兄様と呼ぶといい」

「承知致しました。セルウィンお兄様」

兄とは全く思っていないが、呼ぶだけならなんとでも呼べる。

「このような所にお越しいただき、誠に感謝しております」

ルカ・メレディスは王太子に大袈裟な程、頭を下げる。

「私達の願いはこの周辺の魔獣の被害をなくすことです。魔獣は特にこの森に潜伏しております。腕試しには最適かと存じます」

ルカ・メレディスが森の奥を指し示す。

「エリオット殿下、マデレーン王女殿下、フィニアス殿下は多少、闇魔法が使えます。王太子殿下にも闇魔法の素質がございます。すぐにでも、上達するでしょう」

普通の人間には素質どころか、闇魔法は使用できないはずだ。

使えるとすれば、人間以外の血が混じっているか、僕と同様、眷属となったか、のどちらかだろう。

おそらく、後者だ。

ただ、王太子も眷属になっているのだろうか?

王太子が不老となると、王位継承に差し支えないか。

実際には眷属になっておらず、出任せの可能性もある。

そもそも王太子がこんな所にいていい訳がない。

現在、王城には影武者でもいるのかもしれない。

それを用意したのが魔王国なら、本物を排除して成り代わることも可能だ。

それが悪いことなのかと問われれば、返答に困る。

今の僕は、魔王国側だ。

また、今の僕の役目が何かということも不明だ。

本当にここで彼らと魔獣退治するだけなのだろうか?

「セルウィンお兄様自ら、戦う必要はないのではありませんか?」

「私もそう思っていた。だが、昨日、殺されかけた。女神を護る力もない。私自身が強くなるのも良い。私も多少は剣術を嗜んでいる。遅れは取らない」

王太子は不安などの負の感情を全く感じさせず、自信に溢れた様子だ。

僕にとってはそれが逆に不安だ。

王太子が魔獣退治などしたことがないだろう。

魔獣を見たことがあるかも疑わしい。

それはエリオットとマデレーンも同様だ。

二人がいつから、ルカ・メレディスと関わっていたのかはわからないが。

「私とエリオットお兄様は闇魔法の初級までは習得しておりますわ」

マデレーンが胸を張って、よく響く声で言う。

初級というのは、黒い点を出すぐらいだろうか。

「見ていてくださいませ」

マデレーンはそう言うと、黒い霧を発生させた。

「これが初級の闇魔法ですわ。視界を遮るのに使用します」

闇魔法は危険なものだと聞いた。

僕はそんな闇魔法を教わったことはない。

僕達は初級を飛ばしていたことになる。

「フィニアス、あなたもここまではできますの?」

したことはないが、出来そうな気はする。

試しに同じようにすると、黒い霧を発生させられた。

「ここまではできますのね。私とエリオットお兄様はこれ以上はまだ習得できておりませんの」

この黒い霧で攻撃できるとは思えない。

霧を無数の針にして突き刺せば可能かもしれないが、視界は奪えても魔獣は倒せない。

現に、マデレーンは視界を遮るとしか言っていない。

後は、視界を遮った上で、剣などの武器で攻撃するしかない。

「フィニアス殿下、彼らに戦い方と闇魔法の使用方法を教えていただけますか?」

ルカ・メレディスが爽やかな笑顔でそう言った。

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