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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ③
224/316

224話 わたしの婚約者

着いた先はおそらく、フォレストレイ侯爵邸だと思う。

ゆったりとした広さで、内装や家具はシンプルだけど、高級そうだ。

ここがコーディの自室なんだろう。

当然、わたしとコーディの二人だけだ。

「前にも言いましたが、女性一人で異性の部屋に来るものではありません」

コーディに小言を言われた。

「すみません」とわたしは素直に謝る。

前にコーディと宿に泊まったことを思い出す。

コーディは怒っているとか、そんな風には見えない。

この期に及んで、わたしは言いたいことがまだ整理できていない。

婚約者なんて言ったこと、これまでのわたしのわがままへの謝罪、それに……

コーディが好きだと……

それでコーディに拒絶されるなら、わたしはもうコーディには会わない。

「僕から言っておきたいことがあります。先によろしいでしょうか?」

コーディからそう提案され、わたしは頷いた。

何を言われるのかわからない。すごく不安だ。

でも、しっかり聞かないといけない。

コーディはわたしの前に跪く。

「メイ……」

コーディがわたしを呼ぶ。メイ様じゃなくてメイと。

わたしはコーディを見つめる。

「僕はあなたを愛しております。僕と結婚して下さい」

何て言われたか一瞬わからなかった。

け、結婚!?

そんなことを言われるなんて、予想してなかった。

体が一気に熱くなる。

頭が全然働かない。

返事が出てこない。

何か言わないと。勘違いされてしまう。

結婚はまだ早いと思うけど、コーディと一緒にいられる。

これはやっぱり、夢なんだろうか。

なんだか、ふわふわする気がする。

「メイ……」

寂しそうにわたしの名を呼ぶコーディの唇にキスをした。

わたしは何をしてるんだろう?

自分で自分がわからない。

わたしがしたかったからって。

これで嫌われたかもしれない……

「す、すみません……」

「い、いえ……」

もう、夢か現実かよくわからない。

コーディの顔が赤く染まっている。多分、わたしの顔も。

「そ、その、わ、わたしも愛しています、コーディ」

色々言わないといけないことは全て吹っ飛んでいた。

コーディがわたしを抱き締める。

「メイ」

コーディに呼ばれて、顔を上げる。

コーディからキスをされた。

その時、この部屋のドアが勢いよく開いた。

「コーディ」

わたしからは姿は見えないけど、コーディを呼ぶ声でイネスだとわかる。

いつも、こんな時に……

恥ずかしすぎる……

コーディの胸に顔を埋めた。

「コーディ」

イネスが少し怒っているような口調でもう一度、コーディを呼ぶ。

「心配して来てあげたのに、何をしているのかしら?」

やっぱり、イネスは怒っている気がする。

本当はイネスもコーディが好きだった?

コーディとのいい感じの雰囲気は霧散した。

浮気とか不倫がバレたような気分だ。もちろん、そんな経験はない。恋人はいたことがないし、キスも初めてだった。

こういう場合、どうしたらいいのか? わかるわけがない。

「……イネス」

コーディがドアの方に顔を向ける。

わたしはコーディにぎゅっと抱き締められる。

「フラれて傷心かもしれないけれど、すぐに別の女を連れ込むなんてどういうつもり?」

「ボクも見損ないました。メイにあれだけ、一途だったじゃないですか!」

「放っておいてやれよ。これでメイのことは忘れればいいだろう」

三人の声が聞こえてくる。イネスだけじゃなかった。ミアとグレンもいる。

それに、三人は誤解していそうだ。

ミアは獣人で感覚が鋭いから、わたしだと気付いてもよさそうなのに、気付いてくれてないらしい。

はっきり言って、出づらい。

そもそも、コーディが放してくれない。

わたしが出て行かないと、コーディが困りそうだ。

ドレイトン先生と同じような不名誉?な噂が立ちそうだ。

ドレイトン先生の場合、噂じゃなくて事実で、本人が全く気にしていない。

あれはどうなんだろう?

今はそんなことを考えている場合じゃなくて、どうしよう……

「あれ? メイ?」

ミアが唐突にわたしの名前を呼んでくる。

お願いだから、今はそっとしておいてほしい。

そう、見なかったことにしてほしい。

でも、それはちょっと、むりそうだ。

「コーディ」

わたしはこそっとコーディに声を掛けた。

「その、申し訳ありません。気が動転して……」

コーディが慌てて、わたしを解放してくれた。

困ったような、照れたような複雑な表情を浮かべているコーディはすごくかわいい。

「メイ?」

ミアにもう一度呼ばれ、正気に戻る。

コーディに見惚れていた。

「ミア」

わたしはミアに返事をした。

コーディの体に隠れて見えてなかったけど、顔を出すと、ミアと目が合った。

「コーディ……まさか、メイに無理やり……」

イネスが愕然と呟く。

「メイ! コーディに襲われたの!?」

ミアが目を見開く。

「最低です! ケダモノです! メイから離れなさい!」

ミアがコーディにすごい剣幕で捲し立てる。 

「違うの! わたしが襲ったんです!」

とっさに、そう叫んだ。

「……メイ」

コーディはさっきより顔を赤らめて、片手で顔を隠し、わたしを呼ぶ。

うん、さすがにあれはなかった。

でも、残念ながら、もう取り消せない。

わたしから襲ったのは――事実だった。

コーディを助けるつもりでとっさに言ったけど、余計に悪かった気がする。

言ってしまったものは仕方ない。

「メイ、ボクの誤解だった?」

わたしはコクコクと頷く。

これ以上、何か言うと、よりひどくなりそうだ。わたしとコーディの立場が……

「ひどいことを言って、ごめんなさい」

「そう、誤解だったのね。悪かったわ」

ミアとイネスはコーディに謝ってくれた。

恥ずかしいところを見られたことは消えないけど。

「コーディとちゃんと話し合えました」

話し合えたかはよく考えると、微妙だった。キスしたことしか浮かんでこない。

「コーディと仲直りできたんだね」

仲直りというか、喧嘩していたわけじゃないし、結婚――あれ? 結婚について、答えてない気がする。

結婚はさすがにちょっと早い気がするし。

コーディと結局、これからどうするんだろう?

さっきのことでやっぱりいやになったって、コーディに言われたらどうしよう……

わたしの頭の中はぐちゃぐちゃで爆発寸前だった。

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