表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ③
223/316

223話 王太子との出会い 二

美形の次期国王に跪かれると、逆に恐怖しかない。

顔が青ざめているんじゃないかと思うほど。

コーディにされれば、うれしいけど。

コーディがそんなこと言ってくれるわけがない。

助けを求めるように、ルカを見る。

ルカはよかったねとでも言いたげに微笑んだだけで、何も言ってくれない。

妃なんてなれるわけがない。

断るしかない。

でも、断っていいものなの?

それとも、リップサービスっていうのだろうか。

わたしの頭の中は大混乱だ。

ロイに同じようにされた時もどうしていいかわからなかったのに。

ロイへの返事もまだできていないし。

「王太子殿下」

跪く王太子に声を掛けたのはコーディだった。コーディが王太子の傍に来る。

王太子は顔を上げ、コーディに顔を向ける。

「殿下、ご無礼をお許しください。彼女は――」

「なんだ、第6。ああ、この素晴らしい女神を知っているのか」

王太子が立ち上がると、再び、わたしに向き直る。

「女神よ。私の愚弟とはどのようなご関係なのですか?」

王太子がわたしに尋ねてくる。女神って言ってるけど、多分、わたしだ。

なんでそんなことを聞くのか。

「彼は、わたしの……」

王太子はわたしの言葉に耳を傾けてくれている。

逆に今は何か言ってくれた方がいい。

コーディはわたしの護衛……あれ、今は護衛でもない? 何にしても、それは魔王国側の話だ。

コーディはこの国の第6王子。

護衛というのはまずい気がする。

友達? 仲間? 恋人? こ、婚約者とか?

最後の2つは、わたしの願望だ……

「女神よ、どうされましたか?」

いいかげんに女神呼びは止めてほしい。

「既に私の愚弟と婚約されているのですか?」

「そうです! 彼は婚約者です」

「それでは仕方ありません。私の方がいいのでしたら、私を選んでいただければ幸いなのですが。貴女は私を救ってくださった女神に変わりありませんので、貴女の希望通りに」

優し気な口調で王太子がわたしに言う。

わたしは何を言ったのかと後悔した。

婚約者って……わたしの願望……

王太子は引いてくれたけど。

調べれば、バレそうだし。コーディにも迷惑を掛けてしまう。またしても。

これ以上、わたしがコーディの負担になってどうするんだろう。これまで、嫌われてないにしても、さすがに愛想が尽きそうだ。

「私はもう行く。護衛をするように」

王太子はルカに言う。

続けて、

「第6、女神をしっかり護るように。彼女は国の至宝だ」

コーディに強い口調で言う。

「女神よ、私にできることがありましたら、何なりと。それでは、本日は失礼致します」

王太子は最後にわたしに別れの挨拶すると、ルカと共に、廊下を歩いて行ってしまった。

わたし達は護衛の人達の死体と共に残された。

コーディも残ったままだ。

ひどくまずい状況じゃないかと思うのは気のせいなんだろうか。

まだ、第6王子がいるだけましかもしれない。

誰かに見つかったら、わたし達が護衛の人達も殺したみたいだ。

「メイさま、私達は戻りましょうか。王太子とルカお兄さまがここの状況を伝えるでしょうから。余計な詮索をされるのは面倒です。あなた達も一緒に戻るのよ」

わたしの他に、メルヴァイナはコーディともう一人の男にも言う。

わたし達はその場で、転移魔法により、街中にある魔王国所有の建物に戻った。

戻った先で、

「メイさま、せっかくですから、あの王太子を味わってもよかったのではないですか? 無能と言われていますが、顔はよかったですし。まあ、私はどちらかと言えば、年下が好きなのですが」

メルヴァイナから余計なことを言われた。それに、メルヴァイナの嗜好はどうでもいい。

わたしになんて答えろと言うんだろう。

しかも、コーディや知らない男のいる前で。

「それと、メイさま、いつ、あの子と婚約されたのですか?」

メルヴァイナは婚約していないことぐらい知っているはずだ。

その場しのぎの嘘だ。

今、一番、触れてほしくないことだ。

わたしはコーディの方を向いて、頭を下げた。

「すみませんでした。あんなことを言ってしまって」

「……いえ、かまいません……」

コーディは何だか、小さな声で答えた。

余程、いやだったんだろうか……

わたしが魔王だから、抗議はできないんだろう。

コーディの気持ちになれば、確かにいやだと思う。

嘘でも、婚約したとか言われて、もし、それがコーディの本当に好きな人に伝わってしまったら……

わたしが全力で、彼女か彼に否定しよう。つらいけど。

わたしが頭を上げると、コーディと目が合った。

コーディの顔は少し赤い気がする。

照れたようなそんな表情が、何だか、すごくかわいい。反則だと思う。

ずっと見ていたい――けど、視線を逸らせた。

「メイさま、国王の誕生祭のパーティーにはメイさまがコーディと出ていただかなくてはなりません」

そんなわたしに、メルヴァイナが一歩近づいて言う。

「え?」

「嘘でも、表向きは婚約していることにしなくてはなりませんから」

パーティーに、コーディと……

豪華なホールでコーディと踊っているところを想像する。

ただ、わたしにダンスはむりだ。

「メル姉、わたし、ダンスが……」

「大丈夫です。何とかなります。ああ、替え玉を用意しましょう。メイさまが危険に晒されるかもしれませんから」

「いえ、わたしが出ます。わたしが悪いんですし。ちゃんと責任は取ります。ダンスも猛特訓します」

「わかりました。どうしても無理なようでしたら、おっしゃって下さい」

というわけで、わたしがコーディのパートナーになった。

なったはいいけど、コーディには無断で決めてしまった。

責任を取ると言っておきながら、完全にわたしのわがままだ。

最低なことをしているとわかってる。

コーディは何も言ってこない。

コーディはきっと、わたしが魔王だから、拒否しないんだろう。

コーディがいやだと言うなら、替え玉にしてもらう。

「コーディ、この後、何か予定はあるんですか?」

わたしの問いにはコーディではなく、隣にいた知らない男が答えた。

「本日、予定はございません」

「あの、あなたは?」

この知らない男は一体誰なんだろう。

「アーリン・ベールと申します」

彼は頭を下げ、丁寧に挨拶してくれた。

というより、アーリンって、午前中に会ったあの頼りなさそうな男?

全然雰囲気が違ってわからなかった。

「コーディ、話があるんです。コーディの部屋に行ってもいいですか?」

コーディと二人でちゃんと話さないといけない。

今日こそは、逃してはいけない気がする。

他の人にも邪魔されたくない。

「僕の部屋、ですか?」

「はい。二人で話したいので」

「……しかし……」

コーディに渋られる。けど、ここで逃がすわけにいかない。

「お願いします。どうしても」

「……わかりました」

コーディは渋々といった様子だけど、了承してくれた。

ただ、勢いで言ってしまった。

これから、コーディと話さないといけないと思うと、緊張してくる。

「でも、少しだけ、待ってもらえますか? メル姉、コーディを捕まえていて下さい」

わたしはとりあえず、先にトイレに行った。

ここのトイレも魔王国と同じで、水洗で清潔だ。

今はそんなこと、どうでもいいと思いながらも、ちょっと、現実逃避してしまう。

もしかすると、これで、コーディとは最後になるかもしれない。

もう会えないかもしれない。

元の部屋に戻ると、メルヴァイナがしっかりコーディの腕を掴んでいた。

「待たせてすみません。メル姉、少し行ってきます。コーディ、転移してもらえますか」

「……はい」

やはり、渋々というように、コーディは転移魔法を使った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ