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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ③
222/317

222話 王太子との出会い

一度、別の部屋へと転移し、それから、わたし達は王太子と出くわした。ルカが仕組んだことだけど。

ルカが頭を下げるので、わたしもそれに倣って頭を下げた。

ちらっと、コーディがいるのも見えた。まだ、王太子と一緒にいたらしい。

コーディも王子だから、王太子と一緒にいるのは意外だ。わたしの想像だと、かなり仲が悪そうなのに。

頭を下げている時に、風が吹き抜けたような音がした。

何かが顔に付いた。

少しだけ上を向くと、床に落ちた人の腕が見えた。

本当に人の腕か、目を凝らす。

「おい!」

わたしはライナスに腕を掴まれた。

片腕を失くした王太子がドサッと座り込む。

あの腕は王太子のものだ。

わたしの周りをライナスとメルヴァイナとルカが取り囲む。

王太子の護衛が二人、倒れ込んだ。

わたしには何が起こったかわからない。

ただ、血の赤が目にいっぱいに広がる。

もう何度目か。こんな光景を見るのは。

何より嫌なのは、それに段々と慣れてきていることだ。

男の叫び声が響く。

王太子はまだ意識があったらしい。

意識を失っていた方がよかったのに。

それよりも、王太子の側にいたコーディは!?

コーディは無事だった。それに安堵する。

今は、それをしたのが誰かということだ。

また、襲ってくるかもしれない。

わたしはコーディの視線を辿る。

そこには見覚えのある男がいた。

さっき見たばかりの男だ。

死体だと思っていた男。第3王子を殺した男だ。

その姿はやっぱり、血塗れ。

生気のないような顔は、死体のようだ。

不気味だ。死体が動いているようにしか見えない。

シンリー村で見たようなのに近い。

まだ残っている護衛達が剣を構える。

ただ、どうにも及び腰だ。

当然だと思う。あんな得体の知れない相手と戦いたくなんてない。

死体のような男が離れた位置で剣を振るう。

戦う間もなく、護衛が全員、声もなく、倒れた。

「メル、ライナス様。メイ様の護衛を。あれは私が相手をしよう」

ルカがそう言って、瞬時に死体のような男と対峙した。

「王太子殿下を死なせはしません! 私が相手です!」

ルカが宣言する。

ルカにしては、少し不自然だ。

ルカは倒れている護衛から剣を2本奪うと、死体のような男に突っ込む。

戦い方もルカらしくない気がする。

ルカは素早く死体のような男と距離を詰めた。剣を両手に持ち、斬り込む。

死体のような男はそれを1本の剣で防ぐ。

ルカが死体のような男を圧している。

ルカは死体のような男の手首を斬り落とした。

死体のような男は一歩下がると、即座に姿を消した。

それは、間違いなく、転移魔法だった。

「逃げられてしまいました。追うのは止めましょう。それよりも、メイ様、王太子殿下の治療をお願いできますか」

「は、はい! わかりました」

わたしはこの時、治癒魔法が使えることが頭から抜け落ちていた。

ライナスが落ちていた王太子の片腕を拾い上げ、無理やり王太子の腕の切り口に押し付ける。

王太子は痛みでそれどころではないようなので、文句は言わない。

わたしはその腕の継ぎ目に手を翳す。本当は翳す必要なんてないけど、この方が集中できる。

淡い光がわたしの手を中心に広がる。

ちゃんと成功したらしい。

苦痛に悶えていた王太子の顔は今、呆気にとられたような顔つきだ。

「痛みがなくなった――貴女は女神なのですか?」

王太子がわたしの顔を思いっきり見てくる。

聖女の次は、女神?

間違ってないとは言えないかもしれないけど。魔王国では魔王は神のようなものらしいから。

それでも、聖女と言われるより更に嫌だ。

「腕が治っている……信じられない……奇跡だ! やはり女神しかありえない!」

「いえ、単なる治癒術師です」

わたしは王太子相手に普通に真顔で否定した。

王太子の腕はしっかり治っているらしい。

斬り落とされた方の腕も使って大袈裟なジェスチャーをしているくらいだから、もう大丈夫だろう。

「王太子殿下、護衛は亡くなっておりますので、私が安全な場所までお送り致しましょう」

ルカが恭しい態度で王太子に言う。

周りで倒れている護衛達はすでに亡くなっていたらしい。

「ああ、どうだ? 私の専属騎士にならないか」

王太子がルカを勧誘する。

「残念ながら、私は騎士ではございません。今回は偶々、運が良かっただけなのです。そんな私が専属騎士など、恐れ多いことでございます」

「それより、女神よ。是非とも、この私の妃となっていただけませんか?」

王太子はわたし相手にそんなことを言ってきた。しかも、わたしの前に跪いて。

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