221話 王城の死体 二
死体は王太子の目の前に落ちる。
まさに衝撃的だった。
ぶつかってはいないから王太子に怪我はないだろう。
王太子は足を止め、全く動かず、死体を見つめていた。
護衛の人達が慌てて、王太子を下がらせ、警戒する。
彼らはわたし達の方にも視線を向けたが、わたし達に気付く様子はない。
「何の反応もないようです」
ルカは何でもないように言う。死体を投げ落としたのは、間違いなくルカだ。
全く知らない人でも投げ落とすのはあんまりだと思う。酷いと思う。死者の冒涜だと思う。
さすがに何の理由もなくしたわけではなさそうだ。
でも、あんまりだと思う。
「王太子殿下」
聞き覚えのある声が響く。コーディの声だ。
コーディは王太子に駆け寄る。コーディの後ろには知らない男がいる。
「何があったのですか」
コーディは死体のある方を見る。
コーディは落ち着いているように見える。
死体に気付かないわけはないだろう。
さらに、コーディはわたし達のいる方にも視線を向ける。
コーディと目が合った。
わたし達のことはすでに気付いていたようだ。
コーディにわたし達が関わっていると知られた。軽蔑されたかもしれない。
色々、衝撃的なことがあっても、コーディに嫌われる方がいやだ。
王太子は護衛に連れられて、建物の中に入っていったようだ。
死体には誰かの上着が被せられているが、そのまま置かれている。
コーディは王太子に付き添って行ってしまった。
「もう、ここに用はありません。ここにも調査が入るでしょうから、戻りましょうか。ああ、その前に、コーディとアーリンを回収しなくては」
ルカはバルコニーから部屋の中へと入っていく。
わたしはまた、メルヴァイナに抱き上げられ、いつの間にか部屋の中にいた。
やっぱり、わたしはかなりのお荷物である。
わたしがいなければ、もっと楽に仕事ができるのかもしれない。
ただ、彼らのやり方も強引だ。
わたしにどうにかできるかはわからないけど、犠牲者は少ない方がいい。
魔王国が裏でどう動いているのか、わたしは全く知らない。
それでいいのかと思う。
わたしは魔王、魔王国の王のはずなのに。
魔王国がこの王国をどうしたいのか。
何も知らない。
魔王国にとって、わたしは単なる発電機。それでも発電機は大事だから、護っている。
だからこそ、わたしも魔王国を利用しようと思った。
わたしにはそれも思うようにできていない。
魔王国の裏をかくとか、すごい策略は凡人のわたしにはできない。
それでも、わたしにもできることをやっていくしかない。
わたし達はルカに案内され、部屋を離れた。
「メイ様、せっかくですから、挨拶をしていきましょうか」
ルカはわたしに声を掛けて来た。
誰に挨拶するというのだろうか?
もちろん、わたしには嫌な予感しかしていない。
多分、王太子に挨拶するのだ。
「わたし達が疑われませんか?」
「心配には及びません。逆方向に移動致しますから」
「わたしは挨拶のマナーを知りません」
「気にされる必要はありません。女性には優しい方ですから」
多分、断ることはできたと思う。
ただ、こんなことを思うのはなんだけど、会うのが王太子なら、利用価値があると思う。
何に必要かはわからないけど。
わたしは大人しくルカに従った。
 




