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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第1章
22/316

22話 魔王との邂逅

ドアが開き始めると、中から音が漏れ聞こえてくる。

聞こえてきたのは、何かが破壊されたような不穏な衝撃音。

ミアの手をぎゅっと握ってしまう。ミアも握り返してくる。

何かがいるのは間違いない。

ドアが開いていくと、その中にわたしは見覚えのある後ろ姿を見つけた。

最初に見えたのは、グレンだった。コーディとイネスの姿も見えた。

その背に向かい、歩を進めていた。

中は、暗い陰鬱な雰囲気がある。豪華絢爛な玉座の間などではなかった。

今までの雰囲気とはまるで違う、正に魔王城という言葉がぴったりだ。

部屋の中へと完全に入ると、後ろから、小さく音が聞こえた。

ドアは閉じてしまっていた。

まあ、想像通りだ。

念のため、開くか確認してみた。ミアと共にドアを引いてみるが、びくともしない。単に力が足りないだけなのかもしれない。

勇者パーティの三人は、わたしとミアに気付いていない。

その対峙する相手は、動きを止めた。わたしとミアに、気付いているに違いない。ここの主なら、気付いていない方がおかしい。

あれが魔王だろうか。

形だけならば、人に見えなくもない。ただし、大きさは人の5倍ほどはある。

纏っているローブやマントも、魔王そのものも、その全てが闇のように黒い。

何より、目につくのは、その背から生える五本の尾のようなものだ。

長く、それぞれが意志を持つかのように、蠢いている。

闇で形作ったような魔王にまともに攻撃が通じるのか。霧を相手にするような感覚がする。

「揃ったようだ。歓迎しよう、勇者諸君」

魔王が声を発する。その声までもが、低く陰鬱だった。不協和音のように気持ちが悪くなる。

口に当たる場所は全く動いていないので、どこから声を発しているかはわからない。

「話せたのか」

グレンが呟く。

グレンの反応から、魔王は全く言葉を発せず、いきなり、戦闘にもつれ込んだのだろう。

「五人で協力でもして、我を倒してみるといい。期待している、勇者諸君」

「五人? 俺達は三人だ。もっと言葉を学んだらどうだ。平民以下のクズが」

グレンは吐き捨てるように言い、悪態を付く。

魔王はいいとして、勇者はかなり残念だ。

見栄えはいいだけに……中身が勇者じゃない。

もちろん、今は勇者というより、生贄だと理解している。

生贄だと知った上で、ここまで来なければならなかった。それは、どんなに辛いかわからない。

――今はそんな場合じゃなかった。

魔王と対峙して切羽詰まっている状況だというのに、なぜか、わたしは冷静、というか普段通りだ。

「そなたは道義を学んだ方がいいとみえる」

魔王に諭される勇者って……

「魔王が何を言っている!」

怒気をはらんだグレンのその言葉を魔王は受け流す。

「その怪我だ。万全ではあるまい。そちらの淑女に治癒魔法を頼むといい。そののち、相手をしよう」

全然、淑女とは言えないが、多分、わたしのことだ。

グレンと比較すると、魔王が紳士すぎる。

というか、魔王はわたしが治癒魔法を使えることをなぜか知っている。

それに、グレン達を見ると、たしかに負傷しているようだ。

魔王がわたしを見ている気がする。

そのことで、ずっと魔王を注視していたグレン、コーディ、イネスが振り返る。

「メイ……ミア……」

コーディが呟く。

コーディの視線に居たたまれない。わたしは彼を裏切ってしまった。

それでも、彼らが無事でいたことはうれしかった。

「コーディ……その、ごめんなさい」

「――いえ……あなたを責めたりは……」

コーディは、困ったように笑う。

わたしはコーディに抱きついた。

コーディは優しく抱きしめてくれる。

コーディの温もりと鼓動を感じる。

コーディはデリアと共に、この世界での身内のようなものだ。

お願い、治癒魔法、発動して。

わたしには、未だに、どうすれば治癒魔法を発動できるのか、わからない。

わたしは何かに強く祈り、願う。

コーディとイネスとグレンの傷を癒して。

強く祈っている内に、前と同じように淡い光が現れた。

光は、すぐ傍のコーディ、そして、イネスとグレンを包んでいく。

「発動できた」

ほっとして、声が漏れた。

わたしは戦う力がない。これくらいしか役に立たない。

「ありがとうございます、メイ。後は僕達で何とかします」

コーディが優しい声で言うと、わたしを離す。

今の今まで、イネスがいることに考えが至っていなかった。

兄のようなものだから、大目に見てほしい。

「そろそろいいだろうか」

魔王は本当に待っていてくれた。

魔王というからには、言葉を違え、攻撃してきてもおかしくはなかった。

「魔王よ。彼女は治癒魔法が使える。有用な人材だ。その獣人も彼女の従者として必要だ。この二人は助けてほしい」

コーディが魔王に堂々とした口調で言う。

「我が欲しているものによる。それが手に入ったなら、他の者は助けてやろう」

魔王は胡乱な言い方をする。

魔王が欲しているもの……

考えるのは、止めた。

「要は、お前を倒せばいい」

グレンが剣を構える。

「その通りだ。再開といこう」

魔王の言葉を合図に、グレンは炎を剣に纏わせ、斬りかかり、同時に、炎の矢を魔王の頭を目掛け、叩き込む。

攻撃を加え、すぐに引く。

グレンにあの長い尾が襲い掛かってきたのだ。

「コーディ、イネス」

グレンが二人の名を呼ぶと、コーディとイネスはその尾に狙いを定め、攻撃する。

コーディとイネスで5本の尾を対応し、グレンが本体を叩く気なのだろう。

戦う彼らは、正しく勇者パーティのように見えた。

彼らは魔王相手に怯まず挑む。

今回は一応、連携を取っている。

グレンは、魔王に斬りかかる。

グレンの攻撃は魔王本体に届いてる。

だが、魔王はダメージを受けていない。

すると、今まで場所を移動しなかった魔王が動いた。

魔王の体が1メートル程浮き上がる。

魔王がグレン達の背後に回り込むように、高速で移動した。

グレンが振り向き、忌々し気に睨みつける。

魔王は、グレン達三人とわたし、ミアの間にいる。

グレン達の方を向いていた魔王がふいに向きを変える。

魔王と目が合っている気がする。

ああ、魔王の狙いはわたしなんだ。そんな気はしていたけれど。

わたしが捕まれば、みんなは解放してくれるのだろうか。

「メイ!」

「メイ! 逃げて!」

コーディとイネスの声が遠くで聞こえる気がする。

わたしの体は縫い付けれてたように動かない。

グレンが魔王に斬りかかるのが見えた。

その間にコーディとイネスが左右から回り込んでくる。

魔王の尾をいなし、魔法の矢を叩き込む。

それでも、魔王に攻撃が効いている気がしない。

グレンも回り込んで来た。

三人がわたしと魔王の間に来る。

勇者パーティが劣勢な気はしない。攻撃は届いている。

それでも……

攻撃が効いていないのでは意味がない。

攻撃の効かない相手にどうすればいいのか。

封印してしまえばいい。

そんな都合よく、封印できるようなものがあるなら……

そんなのない。

このまま、消耗したところを……

皆、殺されてしまうのか……

わたしの手がぎゅっと握られる。

ミアだ。

「ボクも頑張る。ボクも戦える」

ミアの手が離れた。

ミア、危ないから、だめーー

声が出ない。ミアを引き留めないといけないのに。

あの時の血だらけのミアの姿が浮かぶ。

わたしは怖いーー

全てが……もう、何も見たくない……

痛いのはいやだ……大切なものを失くすのはいやだ……

どうしようもなく、怖いーー

いやだ。いやだ。いやだ。

もう、許して。悪夢なら、覚めて。

ミアを、コーディを、イネスを、グレンを死なせないで。

もう、こんなの、嫌だ。

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