219話 王城に行きたいわたし
「あなた達はルカお兄さまに引き渡すわ。その実力ではしばらく王城には行かない方がいいわね」
メルヴァイナがマデレーンとエリオットに向き直って言う。
「そのようですわね。ところで、ジャンお兄様を殺す理由は何でしょう。私はお兄様が本当に殺されるとは思っておりませんでしたわ」
「わからないわ。王族に恨みでもあるんじゃないの? あなた達にはもう、関係のないことでしょう」
「確かに、もう、関係ありませんわね。王女の私は死んだことになってしまいましたから。ジャンお兄様のことも悲しむ程、親しかった訳ではありませんもの。ルカ・メレディス様の元に戻りますわ」
「君も気を付けて」
エリオットがわたしに声を掛けて、マデレーンと共に去っていく。
「寄り道をしてしまい、申し訳ございません。フォレストレイ侯爵邸に帰りましょう」
「コーディは王城から帰っているんですか?」
「まだだと思いますよ」
コーディは大丈夫だろうか。
コーディは強いし、再生能力もあるけど。同行者は頼りなさそうなアーリンっていう男だ。
「メル姉。メル姉はわたしを送った後、王城に行くつもりなんですか?」
わたしがいても足手纏いなのはわかってる。
「そう、ですね……第3王子のことは気になります。ルカお兄さまにはあの二人から伝わりますので、ルカお兄さまも動くと思いますし。不本意ですが、ライナスも連れて行きます」
「……その、第3王子ではない方の人は人間なんですか?」
引き延ばすように、メルヴァイナと会話を続ける。
このまま、わたしだけ帰る?
でも、わたしがいても、役に立たない。
むしろ、死なないにしても、痛い思いをするかもしれない。
「おそらく、ただの人間だと思います。詳しく調べないと断定はできませんが」
「そ、そうなんですね………………それで、あの、セイフォードの神官長は無関係なんですか? 何か、神官長が独自に調べているとか」
わたしは侯爵邸に帰るべきなんだろうか。
もちろん、メルヴァイナへの質問は知りたいことではあるけど、判断を先延ばしにしたいだけだ。
「申し訳ありませんが、私は知りません。彼とは数回、情報のやり取りをしたぐらいなのです。指揮命令系統が異なりますので、ほとんど関わりがないのです」
神官長が何をしているのかは一切、わからないということだ。宰相に聞けば、教えてもらえるのかもしれない。
「宰相に聞いて、他の情報も合わせた方がいいんじゃないですか」
「……そう、ですね……」
メルヴァイナはどうも歯切れの悪い返事をする。
種族が違うから、色々あるのかもしれない。
そもそも、わたしの護衛が主な仕事だからなのかもしれない。それはメルヴァイナのしたいことではないのかもしれない。
「魔王国にはしばらく戻らないんでした。それで、えーっと――」
「メイさま、フォレストレイ侯爵邸に帰りたくないのですか?」
次の質問を探している時、メルヴァイナに核心を突かれた。
「えーと、その……」
メルヴァイナにはバレていた。
わたしは帰るか帰らないか迷っていた。
ただ、その割合は帰らないという方が高い。
帰りたくないから迷っていたのだ。
一人、除け者になるのが嫌だとか、コーディがいるからとか、帰る決断ができない。
「わたしがいた方が、囮というか、あの聖騎士も現れるかもしれません……だから……」
「わかりました。確かにメイさま一人にしておく方がリスクがあります。ひとまず、ライナスを呼びます」
メルヴァイナがわたしに言った直後、
「メル、まだここにいたのかい?」
ルカの声が聞こえて来た。
ルカが姿を見せ、その後ろにマデレーンとエリオットもいた。少し遅れて、ライナスもやってきた。
「もしかして、また、王城に行くつもりなのかい?」
「どうでしょう。お兄さまには関係ないでしょう? 出掛けるのなら、どうぞ」
「私にはメル、君が大人しく帰るとは思えないのだよ」
ルカの見立ては正しい。
メルヴァイナが興味を持っていないはずがないのだ。
「勝手をされるくらいなら、私達と行こう」
ルカが促してくる。
「仕方ないわね、お兄さま。一緒に行くわ」
ルカが強引に誘ってきたかのようにメルヴァイナが答えた。
わたし達は六人で再び、王城に行くことになった。




