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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ③
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218話 第3王子 二

心の準備はさせてほしい。

言って、すぐにドアを開けないでほしい。

まあ、何もないんじゃないかと思う。

きっと、あの聖騎士の汚れは血じゃなくて、ケチャップだったに違いない。

そんなわけないけど。

とにかく、何もないはずだ。

メルヴァイナ越しに見る部屋の中はやっぱり薄暗い。

メルヴァイナは部屋に入らず、

「メイさま。入って来なくてもかまいません」

と声を掛けてくる。

すると、マデレーンがメルヴァイナの横を強引に通り、部屋に入った。

「驚かせないで下さいませ。何もないではありませんの」

マデレーンの声がして、メルヴァイナは無言で部屋に入る。

罠でもあると考えたのだろうか。

わたしは死体があるからわたしに声を掛けたのかと思ったけど、違ったようだ。

わたしも続いて、部屋に入った。隣の部屋の半分ほどの広さだ。

先に部屋に入っていたマデレーンとメルヴァイナの間から作業台のようなものが見える。

その作業台の向こう。窓があり、床まで着くほどの長いカーテンも閉まっている。窓ではなく、バルコニーへ出られるドアかもしれない。

その窓だかドアだかの近く、二人の人の姿が見えた。

一人は床の上、もう一人はカーテンに凭れ掛かり床に座っているようだ。

薄暗くはあるが、確かに人の姿がわかる。

二人は全く動かない。

何もないことはない。

マデレーンはどうして、何もないなんて言ったんだろう。

あの二人は寝ているだけで、この光景は普通なんだろうか。

まあ、研究をしているということなら、そういうこともあるのか?

「メル姉、あの二人は……」

「亡くなっていますよ。ここに入る前から、血の匂いがしていました」

メルヴァイナは手のひらの上に光源を出現させ、その光源を天井近くに放った。

部屋が光に照らされる。

同時に死体がはっきりと見える。

どちらも血塗れで、壁にも血が付いている。カーペットの敷かれていない床には血だまりができていた。

「ジャンお兄様……」

マデレーンが呟く。

床に倒れている人は黒髪、座り込んでいるような人は茶髪だ。

おそらく、茶髪の方が第3王子だと思う。

ジャケットは着ていないが、上品そうな装いだった。

もう一人は多少、武装している。第3王子の護衛かもしれない。

マデレーンは部屋が暗くて見えていなかったのか、何かの魔法で見えていなかったのか。

光に照らされ、マデレーンも認識したようだった。

わたしには全く面識のない人だ。

だから、悲しいという感情はない。

それよりも見つかったら、わたし達が殺したと思われるんじゃないか。

そんなことを考えてしまっていた。

マデレーンやエリオットにとっては兄なのに。

こういう状況を見るのが当たり前になりたくない。

状況的に、あの聖騎士がこんなことをしたんだろう。

「どうしたんだ? やはり、お兄様がいたのか?」

エリオットが恐る恐るといった様子でわたし達のいる部屋を覗いている。

誰もそれには答えなかった。

そういえば、エリオットの姿がなかった。

エリオットはおどおどと部屋に入ってきた。

「うわぁぁ!」

エリオットが大袈裟に声を上げ後ずさりし、壁に背中をぶつけた。

「エリオットお兄様、騒がないで下さいませ」

「だが、マデレーン、あ、あれを見て、そんなこと――」

ただ、マデレーン、エリオットの様子を見るに、驚きはしても、悲しんでいるというようには見えない。

「あなた達、この男は知っているの?」

いつの間にか、倒れている黒髪の男の側にいたメルヴァイナが尋ねる。

「知りませんわ。ジャンお兄様ともそこまで親しくはありませんもの」

「あの聖騎士がこんなことを?」

わたしは誰にともなく尋ねる。

「それがよくわからないのです、メイさま。第3王子を殺したのはこの死んでいる男のようなのです。その男は背後から斬られていますから、殺したのは聖騎士なのかもしれません」

「第3王子を殺したのは、あの聖騎士ではないんですか!?」

「ええ、そのようです。偶々、この男と聖騎士のどちらも第3王子を殺害しようとしていて鉢合わせたのでしょうか? それとも、聖騎士の目的が第3王子ではなかったのでしょうか?」

メルヴァイナは不思議そうに首を傾げる。

「と、とりあえず、ここを出よう。私達が見つかる訳にはいかない」

エリオットが切羽詰まったように言う。

「そうね。ここにいても、聖騎士の真意はわからないわ。ここに戻って来るとも思えないわね。第3王子は殺されてしまった以上、どうしようもないものね」

メルヴァイナは死体の側を離れた。

エリオットを先頭に部屋を出る。

「メイさま、どうしますか? あの子には会っていませんが」

わたしの目的はコーディと会って話すことだった。

でも、そんな気になれない。

今日はもう何かする気にはなれない。

「帰りましょう」

「わかりました」と答えたメルヴァイナはすぐに転移魔法を使った。

転移先は王城に向かう前にいた建物だった。

メルヴァイナはマデレーンとエリオットも一緒に転移させていた。

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