213話 変な屋敷を出た翌日 二
部屋を出たのはいいけど、ここに来るのは初めてで、どこに何の部屋があるのかわからない。
勝手に部屋を開けていくわけにもいかない。
思わず出て来ちゃったけど、どうしよう……
部屋の前にいるというのも、おかしい。
とりあえず、1階に下りた。この建物が王都のどの辺りにあるのか確認しようと思った。
出ないように言われていたけど、外を覗くくらいならいいだろう。
もしかすると、見張りがいるかもしれない。
実際に1階に着いても、誰もいない。
玄関のドアを開けようとしたが、力を入れても全く開く気配がない。
まあ、そうだよね……
ドアをじっと見つめる。
こんなドアばっかり……
もう一度、試してみる。
押しても引いてもスライドさせてもだめだった。
諦めて、1階を探索することにする。誰もいないようだし。大きな建物でもないから、探索と言ってもすぐに終わりそうだ。
側に会った2つの部屋はどちらも応接室のようだった。
結局、入ってしまった。誰も中にいなくてよかった。
もう1つ部屋があったが、鍵が閉まっていて入れない。
その時、階段を下りてくる足音が聞こえた。
物陰に隠れて、誰が下りて来たのか、窺う。
階段を下り切ったその人物を目に留める。
「コーディ」
声が出ていた。
彼がわたしに気付いてしまう。
しかも隠れているような状態で気まずい。
「特にすることもなくて……この建物、出たくても出られませんでした」
仕方ないので、何か声を掛けないと思い、そんなどうでもいいことを言った。
コーディが試してくれるが、やっぱりドアは開かない。
その後、コーディがわたしの方を向く。
「メイ、僕は魔王国で騎士を目指します。メイ、いえ、魔王様、これまでのご無礼をお許し下さい」
コーディは真面目な様子でわたしに言った。
この王国でコーディは騎士を目指していた。魔王国でも騎士を目指すというのは当然だと思う。
ただ、魔王様なんて、呼ばないでほしい。
すごく距離が遠くなる気がする。
顔を知っているだけの知り合いみたいに。
「騎士として、魔王様の傍にいられるよう努力します」
わたしの傍にいてくれるというけど、それは護衛としてだろう。
魔王城で騎士達が警護している。その騎士達に気軽に話しかけられるかといったら、できない。
「メイ、いえ、魔王様」
コーディにそう呼んでほしくない。
「これまで通り、メイと呼んでください。あまり、魔王とは呼ばれたくないんです」
とっさに口に出していた。
「メイ様」
コーディがわたしをそう呼ぶ。
「今回の任務が終わりましたら、しばらくお会いできなくなります。これまでのような関係ではいられなくなります。僕は騎士としてあなたにお仕え致します」
わたしと親しくしたくない口実のように感じる。
わたしと会いたくないというような。
コーディは魔王であるわたしに気を遣っていただけだ。
それでも、ちゃんと、好きだと言いたい。
「コーディ……わたしは――」
好きだと言いたいのに、言葉が出てこない。
迷惑になるとわかってるから。
「……その……いつも迷惑を掛けてすみません。メル姉のところに戻ります」
わたしは急いで階段を上がった。
泣いてしまいそうだった。
わたしはメルヴァイナとライナスのいる部屋へと戻った。
二人はまだその部屋にいた。
「メル姉、すみません。体調が悪いので、今日は侯爵邸に戻ります」
魔王が体調不良になるのかという考えが頭を過ったけど。
「メイさま……わかりました。戻りましょう」
メルヴァイナはすぐにフォレストレイ侯爵邸まで転移してくれた。




