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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ③
212/316

212話 変な屋敷を出た翌日

朝早くに目が覚めた。

外はうっすらと明るくなってきている頃だ。

もう一度、眠る気はしなくて、わたしはベッドを出た。

まあ、だからと言って、何をすればいいかわからない。

フォレストレイ侯爵邸の豪華な客室。

あの変な屋敷ではない。

異空間というようなあの場所は時間の感覚もよくわからなかった。

あの場所はずっと昼だったから。

窓の外の薄暗い景色にもうあの空間ではないと実感する。

あれは昨日のことだ。

もうあの異空間ではない。

コーディは、ロイは、フィーナは、シャーロットは、無事なんだろうか。

マデレーンやエリオットは本当に亡くなってしまったのか……

とりあえず、服を着替え、外に出られる用意はしておく。

日が昇り、しばらくした後、メルヴァイナとライナスが訪ねて来た。

「今から、剣術の鍛錬だ。サボるとやらなくなる。自分の発言には責任を持て」

先に声を掛けて来たのは、ライナスだった。

ライナスはドレイトン先生からの指示に関してはしっかりと守るようだ。

「おはようございます。メイさま」

メルヴァイナは眠そうだ。わたしと別れた後、すぐには眠れなかったのかもしれない。

わたしも爽快な目覚めというわけではない。

しっかりと剣術の鍛錬をライナスにさせられた後、

「ルカお兄様とあの子達、この国の王城での任務を行うようですよ」

メルヴァイナの言うあの子達というのは、コーディ達のことだ。

わざわざこんなことを言うのは、メルヴァイナが興味あるからなんだろう。

そんなことを言われれば、わたしも無視できない。

王城か……

そこに手がかりがあるんだろうか?

こんな中途半端なところで諦めるなんて、絶対に嫌だ。

きっと、また、あの聖騎士達とは出会うと思う。きっと、宰相の弟に繋がると思う。

魔王国にまだ、戻れない。


メルヴァイナに知らない建物へ転移魔法で連れて来られた。

メルヴァイナが開け放った部屋の中にコーディが見えた。

顔がにやけそうになるのをぐっと堪える。

しかも、その部屋にいるのはコーディだけではない。

メルヴァイナの従兄のルカに、イネスやミアやグレンもいる。

メルヴァイナはルカと話をしていたけど、王城にわたし達も行くという話はルカに予めしていなかったらしい。

思いっきり、わがままでねじ込んでいた。

ルカはかなりメルヴァイナに甘いことはよくわかる。

ルカはそのわがままを受け入れていた。

わたしも王城に行けるようだ。

足を引っ張らないように、しっかりしないといけない。しっかり考える。

「――王城でのパーティー――」

ルカの言葉が聞こえてくる。

王城でのパーティーって、めちゃくちゃ、豪華で華やかなんだろうな。

メルヴァイナはコーディのパートナーにわたしを薦めてくれる。

豪華なホールでコーディと華麗に踊るわたし。すごくいい。

でも、現実にはダンスなんて踊れない。

そういう場でのマナーも知らない。挨拶もしないといけないだろう。

恥を掻くだけだ。わたしだけならまだしも、コーディにまで恥を掻かせそうだ。

「お城でのパーティなんて、無理です。ダンスも踊れませんし、マナーも他の参加者もわかりません」

わたしは無理だと言うしかない。

そもそも、ルカにも駄目だと言われてしまった。わたしの安全の為らしいけど。

更に、この部屋に4人が合流してきた。

一人は知っている。ヴァンパイアのリビーだ。

彼らはルカの部下なんだろう。

もう一人の女性は濃い緑の髪の真面目な印象の女性だ。

グレンの傍にいるのは、筋肉質なでかい男。

コーディといるのは、くたびれた感じの頼りなさそうな男。

ルカも大変じゃないかと思う。

突然、メルヴァイナがダンスの練習をしたいって、コーディを誘う。

メルヴァイナがコーディを引っ張って、部屋を出ていく。

リビーもミアと手を繋いで出て行った。

わたしはちらっとライナスと頼りなさそうな男を見る。

ライナスはため息を吐いて、歩き出す。わたしもライナスについて行った。

メルヴァイナはコーディを別の部屋へと連れ込む。

わたしももちろん、ライナスと共にその部屋へ入る。その後から、もう一人の男も入ってくる。

部屋の壁に凭れる。

ライナスともう一人、アーリンという男と壁際で並んでいる。

コーディとメルヴァイナがダンスを踊る。

わたしも踊れれば、コーディと踊れたのに。

パーティーでは無理でも、ここでなら。

コーディとメルヴァイナはダンスがうまい。比較対象はないけど、うまいと思う。

しかも、すごくお似合いだ。わたしの出る幕は全くない。

「メイさま、どうかしら?」とコーディとダンスを踊ったメルヴァイナがわたしをダンスに誘って来る。

「わたしは全く踊れないんです」

そう言うが、メルヴァイナは気にした様子はない。足を踏んでもいいと言う。

体験させてくれるということだろう。

メルヴァイナがわたしの手を取る。

それなら、少しくらいやってみてもいいかもしれない。

メルヴァイナが相手だと思ったが、メルヴァイナはコーディに丸投げした。

わたしはコーディの前に連れて来られた。

コーディはわたしと踊ってくれると言う。メルヴァイナに強制されてようなものだけど。

ここまで来たら、やるしかない。

こういうダンスは結構、密着しているイメージがある。

やるしかない。

これはダンスだ。

コーディもわたしと踊っていいと言ってくれた。

コーディのつま先のすぐ前まで一歩踏み出す。

思いっきり、コーディにぶつかり、密着した。

何か違う。

でも、わたしのことを少しでも意識してくれたら……

メルヴァイナの後じゃあ、かなり見劣りしそうだけど。

ただ、すぐにメルヴァイナにコーディから引き剥がされた。

もしかして、メルヴァイナもコーディを狙ってるとか?

メルヴァイナがコーディのことを気に入っているのはわかってたけど。

これが、女の闘い?

それにしては、わたしは相手になっていない。わたしに勝ち目がない。イネスにもだけど、メルヴァイナにも。

メルヴァイナにはダンスに誘われる。

わたしはメルヴァイナとダンス――なんてものじゃなかった。

すごい勢いでぐるぐる回される。

メル姉~と声を掛けてようやく解放された。

世界がぐるぐる回って、ふらふらする。

午後からにすると、アーリンは部屋を出ていってしまう。

諦めないとか、言ったところで、わたしにできることは本当に少ない。少ないと言うか、そもそもあるのかどうかもあやしい。

メルヴァイナは強くて、美人な上に、ダンスまでできる。

みんな、わたしが邪魔だと思ってるんじゃあ……

そんなことないなんて、やっぱり言えない。

そんなことはある。わたしは邪魔だと思う。

そう思うなら、ルカが言ったように魔王国で大人しくしているのがいいのだ。

でも、それもできない。

居たたまれない。

「あの、少し、部屋を出ていてかまいませんか」

と声を掛け、部屋を出た。

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