208話 僕の決意
「特にすることもなくて……この建物、出たくても出られませんでした」
こじんまりとした玄関ホールには、今、僕とメイしかいない。
「出るつもりだったのですか?」
メイは答えなかった。
僕は外へと通じるはずのドアの前まで移動し、ドアを開けようとした。
ドアは鍵のようなものはなさそうなのに、びくともしない。
昨日までいた屋敷と同じだ。ただ、違うのは上階から人の往来が見えていたことだ。
ドアが開かないだけではないかと思う。
ただ、僕もこのドアから出入りはしていない。
ルカ・メレディスの転移魔法でここに来たのだ。
つくづく魔王国のことはわからない。まだまだ、わからないことが多すぎる。
それでも、僕達は魔王国で生きていかなければならない。
その魔王国でメイを護っていく。
「メイ、僕は魔王国で騎士を目指します。メイ、いえ、魔王様、これまでのご無礼をお許し下さい」
「……はい」
小さな消え入りそうな返事があった。
「騎士として、魔王様の傍にいられるよう努力します」
「……あの……」
メイは何かを言い掛ける。何を言われるのか、臆病になる。
僕がいるのは迷惑だろうか。
「……」
メイは僕を見つめたまま、黙ってしまった。
「メイ、いえ、魔王様」
「これまで通り、メイと呼んでください。あまり、魔王とは呼ばれたくないんです」
メイの声が僕を突き放すように感じる。
「承知致しました、メイ様」
メイが僕から視線を外す。
「今回の任務が終わりましたら、しばらくお会いできなくなります。これまでのような関係ではいられなくなります。僕は騎士としてあなたにお仕え致します」
これでいい。
言葉に出してしまえば、もう引き返せない。
「コーディ……わたしは――」
言い掛けて、言葉が続かない。歯切れが悪い。
「……その……いつも迷惑を掛けてすみません。メル姉のところに戻ります」
メイと視線が合うことなく、メイは階段を上がって行った。
他に誰もいないかのように静かだ。
全ての部屋に防音の対策がされているのかもしれない。
1階は特に使用していないのか、誰も来ない。
1階のドアを使って出入りすることがほぼないのかもしれない。
「コーディ、ここにいたのか。食事に行く。お前も来い」
グレンが階上から声を掛けて来た。
階段を上がると、グレンの他にイネスやミアも揃っている。
「俺達は食事の後、訓練だ。コーディ、お前はどうなんだ?」
「まだ決まっていない」
「確かに変わった人だったものね。大丈夫なのかしら」
イネスが独り言のように言う。
「それは僕にもわからない。午後から打ち合わせる予定だ」
「今まで何をしてたんだ? 外にでも出ていたのか?」
「いや、メイと少し話を……僕はメイと距離を置く。メイにも伝えた。僕は魔王様の近衛騎士を目指す」
「そう。とてもいいと思うわ」
「お二人とも、騎士になるんですね。ボクは……」
ミアは焦るように考え込んでしまう。
「好きにするといいわ。同じにする必要はないもの。すぐに決めなくてもいいのよ。なりたいものがあるなら、協力するわ、ミア」
「俺も好きにする。俺は騎士にはならない」
「あら、そうなの? グレン、あなたは騎士になると思っていたけれど」
「俺の自由だろ」
「ええ、そうね」
「早く食べに行くぞ」
グレンが歩き出したので、僕達も後に続いた。




