206話 作戦会議? 二
近くの部屋へとメルヴァイナに引っ張り込まれた。
相変わらず、力が強い。
おそらく、魔法で強化している訳ではないのだろう。ヴァンパイアという種族の特性だろう。
「あなたの兄と姉が亡くなったけれど、悲しんではいないのね」
メルヴァイナがそんなことを聞いてくる。
「ほとんど関りはありませんでしたので。他人と変わりません」
前にも似たようなやり取りをした。
「そう、それはよかったわ。心置きなく踊れるわね。一曲、踊ってくれるかしら?」
王国では男性から誘う。男性のような仕草でメルヴァイナが僕をダンスに誘う。
「魔王国でもダンスをするのですか?」
「そうねぇ。この国のパーティーで踊るようなダンスはあまり一般的ではないわね。他に娯楽は多いもの。でも、私は踊れるわよ。体を動かすことは得意なの」
メルヴァイナが更に手を差し出してくる。
「ほら、私に恥を掻かせるつもり?」
僕もメルヴァイナに向かって手を差し出す。
「実際のパーティーでは僕から誘います」
メルヴァイナが僕の手を取る。
「ええ、お願いするわぁ」
どこからともなく、音楽が聞こえてくる。どこから聞こえているかは不明だ。
僕もよく知る優雅な曲調の曲だ。
「曲が始まってしまったわよ」
渋々、メルヴァイナと接触し、踊りはじめる。
メルヴァイナは得意だというだけあって、非の打ち所がない。
懸念していた強引に引っ張られたり、足を踏まれるということはなかった。
「どうかしら? ライナス、あなたも踊ってみる?」
メルヴァイナはふいに、別の方向に向かって呼びかけた。
そこには、ライナスとアーリンと、更に、メイまでいた。
僕は何となく、メイから視線を外す。
「私は踊るつもりはない」
「あら? 踊れないの?」
ライナスはため息を吐く。
「それなら、”魔王様”とでも踊るといい」
「そうね。メイさま、どうかしら?」
ライナスに言われ、メルヴァイナがメイをダンスに誘っている。
僕が誘いたかったが、メイにとっては迷惑だろう。
「わたしは全く踊れないんです」
「そんなこと、気にしなくてかまいません。楽しく動けばいいのです。何度も足を踏んでも気にしなくていいのです。わざと踏んでもかまいません。というわけなの。コーディ、お願いね」
メルヴァイナがメイを僕の前に連れてくる。
「コーディ、本当にいいんですか?」
断られるかと思ったが、違った。
「勿論です」
すぐさま答える。
「本当に足を踏むかもしれません……というより、多分、踏んでしまうと思います。本当に踊ったことがないんです」
「ここでは気にしなくてかまいません。僕達しかいないのですから。最初からうまくする必要はありません」
「それじゃあ、お願いします。どうすればいいですか?」
メイとは多少、身長差がある。メイに負担を掛けないように僕が合わせる。メイの手を取る。
メイが軽く一歩、僕との距離を詰める。
メイと体が密着する。
体温が急に上昇したような気がする。
ただのダンスだ。
メルヴァイナとのダンスでは何とも思わなかった。
「メイさま、やっぱり、私と踊りましょう」
メルヴァイナがメイを僕から引き離し、抱き寄せた。
音楽が流れだすと、メルヴァイナとメイが踊る。ただ、メイの足は床に着いていない。
「メル姉~、ちょっと待ってください」
先程までとは違い、自由にぐるぐる回るメルヴァイナ。メイは目を回している。
「メル姉~、これ、ダンスじゃありません……」
「あぁ、申し訳ありません。メイさま。つい……」
ライナスはまた、ため息を吐く。
「もう気が済んだか? この男が待っている」
ライナスは横にいるアーリンに視線を向ける。
メルヴァイナとのダンスは今すぐしなくてもいいことだ。
アーリンと話し合わなければならない。




