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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ②
206/316

206話 作戦会議? 二

近くの部屋へとメルヴァイナに引っ張り込まれた。

相変わらず、力が強い。

おそらく、魔法で強化している訳ではないのだろう。ヴァンパイアという種族の特性だろう。

「あなたの兄と姉が亡くなったけれど、悲しんではいないのね」

メルヴァイナがそんなことを聞いてくる。

「ほとんど関りはありませんでしたので。他人と変わりません」

前にも似たようなやり取りをした。

「そう、それはよかったわ。心置きなく踊れるわね。一曲、踊ってくれるかしら?」

王国では男性から誘う。男性のような仕草でメルヴァイナが僕をダンスに誘う。

「魔王国でもダンスをするのですか?」

「そうねぇ。この国のパーティーで踊るようなダンスはあまり一般的ではないわね。他に娯楽は多いもの。でも、私は踊れるわよ。体を動かすことは得意なの」

メルヴァイナが更に手を差し出してくる。

「ほら、私に恥を掻かせるつもり?」

僕もメルヴァイナに向かって手を差し出す。

「実際のパーティーでは僕から誘います」

メルヴァイナが僕の手を取る。

「ええ、お願いするわぁ」

どこからともなく、音楽が聞こえてくる。どこから聞こえているかは不明だ。

僕もよく知る優雅な曲調の曲だ。

「曲が始まってしまったわよ」

渋々、メルヴァイナと接触し、踊りはじめる。

メルヴァイナは得意だというだけあって、非の打ち所がない。

懸念していた強引に引っ張られたり、足を踏まれるということはなかった。

「どうかしら? ライナス、あなたも踊ってみる?」

メルヴァイナはふいに、別の方向に向かって呼びかけた。

そこには、ライナスとアーリンと、更に、メイまでいた。

僕は何となく、メイから視線を外す。

「私は踊るつもりはない」

「あら? 踊れないの?」

ライナスはため息を吐く。

「それなら、”魔王様”とでも踊るといい」

「そうね。メイさま、どうかしら?」

ライナスに言われ、メルヴァイナがメイをダンスに誘っている。

僕が誘いたかったが、メイにとっては迷惑だろう。

「わたしは全く踊れないんです」

「そんなこと、気にしなくてかまいません。楽しく動けばいいのです。何度も足を踏んでも気にしなくていいのです。わざと踏んでもかまいません。というわけなの。コーディ、お願いね」

メルヴァイナがメイを僕の前に連れてくる。

「コーディ、本当にいいんですか?」

断られるかと思ったが、違った。

「勿論です」

すぐさま答える。

「本当に足を踏むかもしれません……というより、多分、踏んでしまうと思います。本当に踊ったことがないんです」

「ここでは気にしなくてかまいません。僕達しかいないのですから。最初からうまくする必要はありません」

「それじゃあ、お願いします。どうすればいいですか?」

メイとは多少、身長差がある。メイに負担を掛けないように僕が合わせる。メイの手を取る。

メイが軽く一歩、僕との距離を詰める。

メイと体が密着する。

体温が急に上昇したような気がする。

ただのダンスだ。

メルヴァイナとのダンスでは何とも思わなかった。

「メイさま、やっぱり、私と踊りましょう」

メルヴァイナがメイを僕から引き離し、抱き寄せた。

音楽が流れだすと、メルヴァイナとメイが踊る。ただ、メイの足は床に着いていない。

「メル姉~、ちょっと待ってください」

先程までとは違い、自由にぐるぐる回るメルヴァイナ。メイは目を回している。

「メル姉~、これ、ダンスじゃありません……」

「あぁ、申し訳ありません。メイさま。つい……」

ライナスはまた、ため息を吐く。

「もう気が済んだか? この男が待っている」

ライナスは横にいるアーリンに視線を向ける。

メルヴァイナとのダンスは今すぐしなくてもいいことだ。

アーリンと話し合わなければならない。

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