204話 作戦会議
「あら、ルカお兄さま。私達は行ってはいけないの?」
「メル、どこから聞きつけたんだい? いけないに決まっているだろう?」
「それくらい、いいじゃない。私達は退屈なの」
従兄妹のルカとメルヴァイナは親し気に話していた。
どこに行ってはいけないのか、聞き逃してしまった。
「魔王様を危険に晒す気かい? ライナス様、メルを止めてもらえないでしょうか?」
ライナスも姿を覗かせた。僕はライナスがいたことには気付いていなかった。
「それは無理だ。同じヴァンパイアだろう。自分でどうにかしてくれ」
ライナスに止める気はないようだ。
「メイさまも行ってみたいですよね? 閉じ籠っているのが安全とは限りませんし」
「それなら、魔王国に戻ってはどうだい? ここやフォレストレイ侯爵邸に閉じ籠っているより、更に安全だろう?」
「私達にはまだ王国ですることがあるの」
「それなら、その件をするといい」
「あら、その為に必要なのよ。私達も王城に行くわ。魔王さまの希望でもあるの。嫌なら、仕方ないから、私達でどうにかするわ」
「ああ、そう言われると……困ったなあ……勝手をされると」
王城に行くという話だったらしい。
許可されていない者が王城に入ることは勿論、できない。
ただ、彼らなら許可を受けずとも、簡単に入れそうだ。
そう考えると、警備は甘く思えてくる。
「じゃあ、君達、しっかり、魔王様を護衛するように。当然、当初の目的も遂行する」
ルカは僕達の方を向いてそう言った。
ルカとメルヴァイナの目的は同じではないようだ。
ルカに指示を出しているのは、宰相なのだろう。
それなら、メルヴァイナの目的はメイの希望なのだろうか、それとも、偶々、メイと同じだったか。
おそらく、僕達の目的とそう変わらないのだろう。
メイの目的は宰相の弟に会うことではないかと思う。
メイは申し訳なさそうな顔をしていた。
元々、王城には行かなくてはならなかった。
メイが気にする必要はない。
むしろ、メイが行くというなら、より対策はしておかなければならない。
前回もそうだったが、ルカを完全に信用することはできない。
それに、僕達が王城で調査をするより、経験のある優秀な者が行った方がいいように感じる。
リビーは向いていない気がするが。
拠点には他にも人はいた。
僕も王族だが、王太子と親しい訳ではない。むしろ、接触は避けて来た。
「お聞きしたいのですが、王城に内通者はいないのですか?」
「いない訳ではないとも。ただ、王太子の周辺にはいないのだよ」
ルカはそう答えるが、王太子に取り入るのはおそらく難しくないはずだ。
公爵に取り入る方がずっと難しいように思う。
元々、王太子を探るつもりがなかったのか、かつてはいたのか。
「王太子の周辺に少し前まではいたのだけどね。残念ながら、連絡が途切れたのだよ。ヴァンパイアではなかったが、上位種ではあったから、本当に残念だよ」
聞きたかったことを先回りしてルカが話した。
危険があるということだ。
ルカが請け負っているものは大概、そのようなものなのだろう。
「私達の邪魔をするのはドラゴニュートだという話じゃない。ライナス、あなたの身内でしょう? どうにかしなさいよ。あなたに無理なら、何かないの? 湿った暗い場所を好むというような情報とか」
「身内かもしれないが、会ったこともないような者のことは知らない。ただ、確かに、ヴァンパイアでは荷が重いかもしれないな」
「あら、落ちこぼれのドラゴンに言われてもね。そもそも、ドラゴンの姿になれないんだったわね。ドラゴンとすら呼べないわね」
王太子の予定や接触方法など、これから話を詰めていかなくてはならないはずだ。
種族間の喧嘩をしている場合ではない。
王城に入ること自体は問題ない。方法は色々とある。
フォレストレイ侯爵家の家名を使うか、僕自身の名を使ってもいい。
それにもしかすると、向こうから呼び出される可能性もある。
王弟や王子達が亡くなったことで、王位継承順位が変わる為だ。
王太子が関係している場合、次に狙われるのは僕とロイということになる。
僕の傍がもしかすると、一番、危険な可能性がある。
メイの傍でメイを護りたいと思うと同時に、今、メイと行動を共にするのは余計に危険に晒してしまうのではないかとも思える。




