201話 暗い街
わたしは確実に誰かに抱き着いている。
自分以外の誰かの体温を感じる。
ちゃんと顔を見ていないけど、声は確かにコーディだ。
わたしはベッドで寝ているわけでもない。
わたしの足は地面についていて、わたしは立っている。
たぶん、夢じゃない。
あれ? 本当にコーディ?
不安になってきた。
すすり泣く声は未だ、わたしの耳に入ってくる。
わたしが抱き着いているのは本当にコーディなの?
急にホラーとかのシーンが浮かぶ。
「ロイ~っ! お姉様が慰めてあげるわよぉぉ!」
そんな大声がホラーのような雰囲気を引き裂いた。
間違いなく、フィーナだ。
「お姉様、落ち着いてください。迷惑になります。私はもう平気ですから」
ロイの声も聞こえる。
泣いていたのはロイだったらしい。
ロイとフィーナが無事でよかった。
ん?
二人は近くにいる。
わたしは、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
そ、それに、わたしもお風呂に入ってない。
コーディは臭いなんて言わないと思うけど。
でも、本当は臭いって思ってるかもしれない。
「コーディ、わたしももう大丈夫です……」
「ああ、それなら、よかったです」
コーディがそう答えるけど、わたしを放してくれない。
わたしはどこかに行って、迷子になったりしない。
さっきはコーディと恋人同士になったような気がした。
きれいな街の夜景はないし、コーディの姿がほとんど見えないけど、雰囲気はよかったと思う。
なのに……
好きとは言えなかった……
今は心配されて放してもらえない子供の気分だ。
今すぐ、穴を掘って閉じ籠りたい。
それか、わたしがコーディの唇を奪えば、わたしを認識してもらえるんじゃあ。
でも、わたしの身長では……届かない……
何を考えているんだろう……
それより、ここがどこかとか、他の人達が無事なのかとか確認しないといけないことがあるのに。
「コーディ、ここがどこかわかりますか?」
「おそらく、僕達が元いた聖堂前の広場です」
コーディの声がすぐ上から聞こえる。
「皆、無事なんですか?」
「私達5人は少なくとも無事です。残念ながら、エリオット殿下、マデレーン王女殿下、シャーロット嬢はいらっしゃいません」
答えたのは、ジェロームだ。
「心配なのはわかるけど、メイを解放してくれるかしらぁ?」
闇の中から、メルヴァイナの声が届く。姿は見えないけど。
「その、傍にいると約束しましたから……」
コーディがわたしから腕を離し、わたしは自由になった。
近くで魔法の光が灯り、メルヴァイナとティムの姿が見えた。
コーディの姿も見える。確かに、間違いなく、コーディだ。
まだ、なんだか、恥ずかしい。
「そ、そう言えば、ここには街灯がないんですね。いつもこんなに暗いんですか?」
メルヴァイナに顔を向け、どうでもいいことを聞く。
「王都で街灯を見た覚えはないわね。王都の夜は結構、暗いのよ。つまらないわぁ」
やっぱり、わたし達は元の場所に戻ってきたらしい。
もう、あの変な空間の中じゃない。
「明日はあまり出られないんですよね? 確か、明日は喪に服する日ですよね」
「それはもう終わったわ。既に日付も変わってるわよ」
「終わった……そうですか……」
わたしはまだ、あの不気味な屋敷に転移させられた当日だと思っていた。
実際には1日以上経ってる。
まあ、もう、あまり驚かないけど。
1か月過ぎていた、というわけではなくてよかった。
「それと、昨日、発表されたんだけど、第4王子と第2王女が亡くなったそうよ」
メルヴァイナが軽い口調で言った。




