199話 言いたい言葉
「わたしはもう寝ます。おやすみなさい」
わたしはマデレーンの部屋のすぐ隣の部屋に駆け込んだ。
残念ながら、鍵はないようなので、掛けられない。
今日は本当にもう無理だ。
もう寝る時間だ。
ずっと窓の外は明るいから、本当は時間なんてわからない。
でも、たぶん、深夜だと思う。
ちなみにトイレは問題ない。
ちゃんと、それぞれの部屋にあった。しかも、水洗で清潔。魔王国と同様に。
どうせなら、お風呂もつけておいてほしい。
わたしはベッドに横になる。
さっきまでの騒ぎは嘘のように静かになった。
鍵は掛かってないけど、誰も部屋には入ってこない。
入ってきてもいやだけど。
起きると誰もいないんじゃないかとか、目を覚ませば串刺しにされているとか、いやな想像が頭を過る。
シャーロットのことはわからないでもない。
コーディに傍にいてほしかっただけなのかもしれない。
あの人も強がっていただけで不安なのかもしれない。
よく考えると、わたしもシャーロットと同じようなことをしてる……
やっぱり、魔王のわたしの方が質が悪いかもしれない。
自分の行動に後悔しかない。
どうしたらいいの~
わたし、本当に何してるの~
ベッドの上で顔を隠すように丸くなる。
眠りたかったけど、ベッドに入ると、明るさもあって寝付けない。
コーディとジェロームはわたしのことを話しているかもしれない。よくない話を。
最悪な女だとか言われていたらどうしよう……
わたしは寝てしまっていたらしい。
どれくらい寝たのかはよくわからない。今何時なのかもわからない。
窓の外は相変わらず明るい。寝る前と同じだ。
たぶん、朝じゃないかと思う。
部屋の中は変わってないし、誰もいないし、わたしの体に剣が突き刺さっていることもない。
ベッドから下りて、小さすぎる洗面台で顔を洗って、髪を整える。
恐る恐る、袖の匂いを嗅いでしまう。た、たぶん、大丈夫だと思う。
マデレーンの気持ちがよくわかる……
よく寝たけど、状況は変わってない。
誰に会うにしても、気まずい気がする。
ただ、わたし一人になっていないか確認したい気もする。
ロイとフィーナが無事かも気になる。
行くぞと気合を入れて、部屋を出る。
そこには、コーディがいた。
傍には、壁に凭れて寝ているジェロームもいる。
「メイ、嫌な思いをさせてしまって、本当に申し訳ございませんでした」
「わ、わたしの方こそ、申し訳ありません……」
わたしの方がコーディに嫌な思いをさせたかもしれない。
「あなたが謝ることはありません。悪いのは、僕ですから」
「もしかして、ずっとここにいてくれたんですか? ちゃんと眠れたんですか?」
「兄が代わってくれましたので、眠りました」
「それはよかったです。あの、シャーロットさんはもしかして、グレンの妹ですか?」
「その通りです」
あ、やっぱり。
というより、何を聞いているんだろう。
はっきりと言えるシャーロットが羨ましい。
コーディ、好きです。
と言ってしまえればいいのに。
言うと決めたはずなのに、未だに言えていない。
言う状況じゃないけど。
いや、むしろ、本当に死ぬかもしれないから言うべきなんだろうか?
言い訳を探して、後回しにしているだけ。
本人を前にすると、どうしても言えない。
ロイやシャーロットはすごいと思う。
こんなにハードルが高いとは思わなかった。言うだけなのに。
「メイ」
「コーディ、あ、あの、朝食でも食べに行きましょうか」
「そ、そうですね。行きましょうか」
この微妙な会話、なんだろう。
朝食に誘う前に、他に何か言うことがあるんじゃないの!
と自分に怒る。
でも、言葉が出てこない。
「コーディ、それでいいのか?」
いつの間にか、ジェロームが起きていた。
「はい、問題はありません。異常もありませんでした」
「そうか。それなら、食べに行くか」
ジェロームは複雑な表情を浮かべていた。




