198話 強情な彼女 二
この完全に鬱陶しい展開をどうすればいいかわからないわたし……
「シャーロット嬢、これ以上、あなたに関わる気はない」
コーディがきっぱりと言い放つ。わたしに対して言ったわけじゃなさそうだけど、わたしにも言われている気がして、びくっとする。
コーディは彼女、シャーロットと知り合いのようだ。
わたしはなんとなーく、彼女の素性が想像できる。
「フィニアス様はわたくしと結婚するんですの」
シャーロットはコーディの話を全く聞いていない気がする。
そもそも、こんな不気味な屋敷ですることではないと思うんだけど。
シャーロットもここに連れて来られた被害者だろう。
そこはどう思っているのか?
色々、気になるけど、このままじゃあ何もできない。休むこともできなさそうだ。
シャーロットは一切、引く気はなさそう……
「あなたとは結婚しない。離してくれ」
コーディは冷たく言い放つけど、無理に引き剝がしたりはしない。
どこか遠慮がある。
彼女は公爵令嬢だ。だから、多分、ドレイトン公爵家じゃないかと思う。グレンやドレイトン先生の身内だと思う。
「シャーロット嬢、公爵令嬢として相応の振る舞いをすべきだ」
「これが公爵令嬢としての振る舞いですの。わたくしが正しいと言えば、正しいんですの」
話が全く通じていない。
どちらかが知らない言語で話しているようだ。
しかも、シャーロットは本気で言ってそうだ。
これ、どうしたらいいの!?
それにこんなことをしている場合じゃない。
すると、今まで動いてくれなかったジェロームが近寄ってきた。
コーディに何かを伝えたように思う。見えてないからわからないけど。
シャーロットが小さな悲鳴を上げ、ベッドの上で後ずさる。
怪我をしている様子はない。何かに驚いたような感じだ。
「シャーロット嬢、申し訳ないが、彼女の護衛をしないといけない」
コーディの言葉は全く申し訳なさそうに聞こえない。
わたしはコーディの腕を放した。シャーロットはもう離れているのだ。
コーディを連れて、この部屋を出ようと思ったところ、わたしの足は床を離れた。
コーディがわたしを抱き上げたからだ。そのまま部屋を出る。
ジェロームもその後から部屋を出て、ドアを閉める。
わたしを抱き上げたまま、コーディはずんずん廊下を玄関ホールの方に向かって歩いていく。
「シャーロット嬢は相変わらずだな。いや、前よりひどくなってないか」
ジェロームが歩きながら言う。
「いつもはグレンがいましたから」
「そうだな。まさか、こんな所にいるとは思わなかったが。シャーロット嬢も緑の瞳を持っているからか」
わたしは――身動き取れず固まっていた。
この年で抱き上げられるとは思わなかった。
重くないだろうか。
それより、恥ずかしくておかしくなりそう。
コーディにとっては荷物を運ぶようなものかもしれないけど。
かなり早足だったので、玄関ホールの手前まですぐに着いた。
コーディが立ち止まる。
「あの……」
わたしは思い切ってコーディに声を掛けた。
コーディがはっとしたようにわたしを見る。
コーディがわたしを床に降ろす。わたしの足はまた床に着く。
「も、申し訳ございません」
何に対してかわからない謝罪をされた。
護衛を投げ出したことか、シャーロットとのいざこざに巻き込んだことか、わたしを荷物のように運んだことか。
何だか、全然、頭が回らない。
もう、わたしはちょっと限界だ。
もう、眠りたい。




