197話 強情な彼女
まだ廊下の果てには着かない。
ただ、わたしやジェロームの足音とは違う音がどこかから聞こえて来た。
立ち止まって耳を澄ます。
もう音は聞こえない。1回きりだった。
「どこから?」
わたしは独り言を言ってしまう。
「わからないな。ドアを開けていくしかないんじゃないか?」
独り言にジェロームが答えてくれる。
まあ、それしかないだろう。
おそらく、コーディかロイかフィーナだ。危険なことはない。
適当な近くのドアを思い切って開ける。
最初で当たりだった。
そこにはコーディがいた。
振り向いたコーディと目が合う。
「コーディ、こんな所にいたのか。彼女を置いて、どういうつもりだ?」
ジェロームがわたしの後ろから声を掛ける。
わたしはジェロームに場所を譲ろうと、少し避ける。
それなのに、わたしを押し出すように部屋に入れられ、ジェロームもまた部屋に入る。ジェロームはドアを閉めてしまう。
「どなたですのぉ~」と甘ったるい声が聞こえて来た。
部屋にいたのはコーディだけじゃなかった。
その甘ったるい声の主はベッドの上に座り込んでいた。
ふわっふわの金髪に緑の瞳の美少女だ。
何より驚いたのは、その美少女が下着姿だったことだ。上に布を羽織ってはいるけど。
彼女は全く気にする様子はない。
彼女はコーディの腕に抱き着いていた。
彼女の胸が当たっていると思う。
コーディの妹……? 王女殿下……?
わたしは、固まっていた。
コーディの恋人? 彼女がコーディの好きな女性?
「離れてくれ」
コーディの口調は好きな女性に言うにしては冷たい。
コーディが彼女にデレデレしている様子もない。
彼女は誰!? しかも、どうして、そんな恰好してる!?
どうしたらいいの!?
助けを求めるようにジェロームに視線を送るが、ジェロームは呆然としていて、わたしと目も合わない。
美少女はコーディに冷たくされても、やっぱり気にした様子はない。
少しは気にしようよ……
わたしはここから立ち去るべきなんだろうか?
部屋を出て、ドアを閉めればいい。それだけ。
でも……それはいや。
ここは引いてはいけない。
わたしが何とかしないといけない。
「コーディはわたしの護衛です」
コーディのもう片方の腕に抱き着いた。
そんな行動をしてから――
張り合っちゃだめだった……
彼女と同じことしてる。
一番、嫌われそうなことだ。
なんてことをしたんだろう……
さっきのコーディの言葉が頭の中で響く。
こういう場面を見たことがある。どちらも嫌われて、いいことなんて1つもないじゃない……
変な汗が出てくる。
ちゃんと考えて、行動しないといけなかった。わたしのばか……
頭の中のわたしが項垂れる。
「わたくしのお父様は公爵ですの。王族の次に身分が高いんですの。フィニアス様に相応しいのはわたくしですの」
美少女が何か言っている。
相手にしてはだめだということはわかる。
わたし達が喧嘩を始めてしまったら、余計に状況が悪くなる。
コーディの腕を放さないといけないと思う。思うんだけど……
わたしはコーディの腕を放していない。
居たたまれない。
もちろん、コーディの顔なんて、見れない。見るのが怖い。
後で、しっかり謝ろう。
「一度、わたしの護衛を引き受けたんです。だから、やり通すべきです。行きましょう、コーディ」
誤魔化すように、正当そうな理由を言う。
「それがどうしたと言うんですの? 遠慮してほしいですの」
美少女は怒るでもなく、にこにこしながら言う。
「彼は騎士を目指していたんです。最後までやり遂げるべきだと思います。騎士が簡単に裏切っていいんですか」
「わたくしにはそんなこと、どうでもいいんですの。フィニアス様から離れてほしいですの」
話してもだめそうだ。
かなり強情そうな彼女をコーディから引き離すのはわたしにはむりかもしれない……




