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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ①
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196話 変な屋敷での捜索

「仕方ありませんわね。あんな男、忘れるといいですわ。もっと、有意義な過ごし方をすべきですわね。私は元の部屋に戻りますわ」

マデレーンが沈黙を破って、肩で風を切るように大げさに歩き出す。

「マデレーン、行ってしまうのかい?」

「お兄様、我慢なさって下さいませ。私は行きますわ」

「そんな……私はまた、独りになってしまうじゃないか」

「お兄様はお一人でも問題ありませんわ」

長い別れのようなどうでもいいやり取りを聞いていると、より疲れた気になる。

確かに永遠の別れにならないとは限らないけど。わたし達は強力な魔法を使う誰かに閉じ込められているんだから。

やっぱり、寝てしまうのが一番かもしれない。

起きてどうなっているかわからないというのが気に掛かりはする。

わたしとジェロームは部屋の出入口を開け、マデレーンを通した。

「あなた方も来るといいですわ」とマデレーンに声を掛けられ、わたしとジェロームはマデレーンについて行く。

マデレーンの部屋の前に着くと、

「聖騎士のあなたはその辺りにいるとよろしいですわ。あなたはお入りになって」

そう、わたし達に指示してきた。かなり雑な指示だ。

部屋に入り、ドアを閉めるとすぐにマデレーンが口を開く。

「有意義な過ごし方……有意義な過ごし方……そんな過ごし方ありませんわ! 死ぬというのに、何をするというんですの!」

愚痴だった。気持ちはすごくよくわかる。

考えがわたしと似ている気がしないでもない。

確かにもう特にすることはない。

ここから自力で脱出するのは難しそうだ。

こんな所で何日も過ごすのはつらいだろう。することがなくて退屈で、いつどうなるかもわからなくて、時間もよくわからない。

まだ、愚痴が言えるだけましかもしれない。

「ロイやフィーナは大丈夫でしょうか」

「まだ戻っておりませんわね。ですが、どこにいても変わりありませんでしょう? どこが危険ということもありませんわ。どこも等しく危険なのかもしれませんが」

わたしはただ頷いた。

「それにしても、弟達もお兄様同様、情けないですわね。逃げ出すなんて」

「そうですよね。わたしにも話させてくれてもいいですよね」

「当然ですわ。もう、あの聖騎士の方がよろしいのではなくて」

「え? ジェローム?」

「そうですわ。思い残すことがないように。いつ散るともしれぬ命なのですもの」

マデレーンの前にはやっぱり、死があるらしい。

後、色々と間違ってると思う。

「わたし、やっぱり、コーディを、フィニアス殿下を捜してきます」

「ええ、好きにするとよろしいですわ」

マデレーンに止められることはなかったので、部屋を出た。

部屋の外にはジェロームがいた。王女からその辺りにいるように言われれば、離れづらいだろう。

「どうした?」とジェロームから問いかけられる。

どう答えるか迷う。

コーディを捜しに行くって、ちょっと恥ずかしい気がする。

「何でもありません。わたしもこの屋敷を見て回ろかと思いまして」

「今から? 休むんじゃなかったのか?」

「目が冴えてしまって。ちょっと運動してから休みます。一人で大丈夫です」

わたしは言ってすぐに歩き出した。

何となく玄関ホールへと向かう。

ただ、ジェロームがついて来ていた。

「あの、一人になりたいんですが」

「そうは言ってもなあ。放っておく訳にはいかないだろう?」

わたしに聞かれても困る。

「それなら、王女殿下の護衛をお願いします」

「君の護衛は私の弟だ。私の弟ができない今、私が代わりをするしかないだろう」

それ以上、言うことが見つからない。

「でも、わたしの好きな所に行きますよ」

「どこへでもどうぞ」

わたしは玄関ホールから2階へと続く階段を上る。ジェロームはぴったりとわたしについて来る。

もう一度、何かが食べたいわけじゃない。

さっき食事をした食堂とは逆の方へ行く。

マデレーンの話によれば、2階は全て食堂だ。本当におかしな造りの屋敷だ。

毎回、別の食堂で食べられるけど、そんなことをする意味が全くない。

最初のドアを開けると、やっぱり食堂だった。

次のドアも、その次のドアもやっぱり食堂。

しかも、ドアはずっと続いている。

もちろん、わたしとジェローム以外、誰もいない。気配もなく、静かだ。

コーディは一体、どこに行ってしまったのか……

どこかの部屋にいるなら、見つけるのはかなり大変そうだ。

フィーナもロイを見つけることができたんだろうか。

もしかすると、コーディはロイやフィーナが向かった方へ行ったのかもしれない。

いっそ、大声で呼んでみればどうだろう?

とりあえず、続いているドアを順番に開けて行ってみる。

無駄な気はするけど。

ジェロームは何も言わない。護衛に徹してくれるらしい。

結構、ドアを開けたと思う。ずっと同じ食堂で変わりなかった。コーディもいない。

2階には誰もいないのかもしれない。

わたしは1階に引き返した。

マデレーンのいる部屋を過ぎ、その隣の部屋を覘く。誰もいない。

その隣も、そのまた隣も。

わたしは廊下の奥を眺めた。

果てしなく続いているような廊下。

さすがに無限ではないんじゃないか。きっと空間を作るのはかなりの魔力がいるんじゃないか。

それなら、果てはある?

よし! これは走るしかない!

ジェロームには何も言わず、走り始めた。ジョギング程度の速さだけど。

さっきジェロームと話していた部屋はどこかわからない。感覚的にはもう通り過ぎたはずだ。

わたしはわざと大きく足音を立てて走る。

そうすれば、コーディかロイかフィーナが気付いてくれるかもしれない。

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