195話 二人の時間(ジェロームと)
結局、わたしは独りになってしまった。
独りになったのはわたしのせいだけど。
やっぱり、コーディにいてもらえばよかったかもしれない。
でも、ずっと護衛をしてもらうのも気が引ける。
長い廊下にドアが等間隔にならんでいる奇妙な光景。窓の外は明るいけど、外に出られない。
ここに閉じ込められているのが、わたし一人になったような気がする。
今出て来たドアの部屋の中にはジェロームがまだいるはずだ。
戻りづらいけど。
ここを離れれば、どこの部屋だったかわからなくなりそうだ。
独りだと、さすがに不安になってくる。
「まだいたか」
正にドアが開いて、ジェロームが出てくる。
「やはり、独りにするわけにはいかないからな。王女殿下の元まで送ろう」
正直言って、わたしは安心した。この空間に独りではなくて。
「ありがとうございます」
わたしは素直にお礼を言った。
「本当は弟がすべきなんだがな。どこに行ったのか……」
閉じ込められている同士なのに、ばらばらになってしまった。ほとんど、わたしのせいだ。
ジェロームと並んで、廊下を歩く。
「コーディが魔王国に行くのは、本当にいいんですか……」
「勿論、弟には王国にいてほしい。同じ聖騎士になってほしかった。今は……聖騎士に、とは言えないが。まあ、会えなくなるわけじゃない。譲歩して、だ」
「……」
沈黙が続く。
廊下を歩く音だけが聞こえている。
わたし達は玄関ホールの近くまで戻ってきた。
玄関ホールの一番近くの部屋がマデレーンが使っている部屋だ。
マデレーンがその部屋にいるはずだ。
ノックしてみるが、応答がない。
「王女殿下」と呼びかけるが、やっぱり応答がない。
仕方がないので、ドアが開くか確かめてみた。
ドアは開いた。
中には誰もいなかった。
「誰もいません」
ドアをそっと閉めて、ジェロームに知らせる。
「そうか。とりあえず、隣の部屋で休んでいるか?」
このまま休んでも眠れそうにない。
本当にわたし達二人以外いなくなってしまったんじゃないか。
また、不安になってくる。
「いえ、王女殿下を捜します。向こう側にいるのかもしれません」
「そうだな。全く勝手な行動ばかり」
ジェロームはそう言うが、人のことは言えない。
後、わたしの前では取り繕う気はないらしい。
姿を見なければ、立派な聖騎士という気が全然しない。
わたしを不安にさせない為? なのかはわからないけど。
「ジェロームさん、せっかくですから、ストレス解消に魔法でも打ち込んでみましょうか。テストも兼ねて」
どうせ、この屋敷はびくともしないだろう。
「それはいい。ああ、私のこともジェロームと呼んでほしい」
「あ、はい。それでは、玄関ホールに行きましょう」
その玄関ホールには、やっぱり誰もいなかった。
あの聖騎士が出て来ても嫌だけど。
「身体強化します。魔法も強くなるはずです」
身体強化の魔法は力が強くなったり、素早くなったり、その名の通り、身体が強化される。
その他に、わたしが使うと、魔法も強くなる。普通、魔法までは強くならないらしいけど、わたしが魔王だからなのかもしれない。
わたしはジェロームに身体強化の魔法を掛ける。
ジェロームは剣を抜き、2回続けて剣を振るう。そこから、衝撃波が屋敷の扉に向けて放たれる。
コーディが使っていたのと同じ風の魔法だ。
衝撃波は扉に確実に当たった。
ただ、扉は無傷だった。
扉の破壊音ももちろん、聞こえない。
うん、逆にストレス溜まりそう。
びくともしないことはわかってたけど。
もしも、という期待は儚く散った。
「予想はしていましたけど」
「まあ、そうだな」
ジェロームは剣を収める。ジェロームも予想通りと言った反応だ。
わたし達は、まあ、何事もなかったかのように反対側の通路へ向かった。
通路の一番目のエリオットのいた部屋をノックすると、
「どなたですの?」
マデレーンの声がした。
皆、消えてしまったわけじゃなくて安心した。ホラーだったら、一人ずつ消えていくような雰囲気だったから。
「メイです」
そう答えると、程なくドアが開いた。
開けたのはエリオットだ。
わたしとジェロームは部屋に入れてもらう。
マデレーンは部屋の隅にいる。匂いを気にしているのかもしれない。
「話はできたようですのね」
マデレーンはわたしとわたしの隣にいるジェローム交互に視線を向ける。
絶対に勘違いされている。
「あの、わたしが話したかったのは、ジェロームじゃありません……」
「? そうですの? それなら、そのフィニアスはどうしましたの?」
「……逃げられました」
確かに護衛は要らないとは言ったけど、早々にいなくならなくてもいいと思う。
早くわたしから解放されたかったみたいだ。
気まずい沈黙が訪れた。
 




