193話 流されたわたし
「メイ、体調が悪いのですか?」
コーディに心配されている。
何か言わないといけない。
頭が全然回らない。
急にふら~っとした。ふらついて、バランス感覚がおかしい。
これって、もしかして、眩暈?
本当に体調が悪くなったみたいだ。
くらくらするけど、意地で立っていた。
極度の緊張か、変な物を食べたか。さっき、誰が用意したかわからない怪しい物は食べたけど。
「部屋で休まれては? 私が運びましょうか?」
声を掛けてきたのは、ジェロームだ。
軽い感じの口調ではない。まだ、あの聖騎士のことを引きずっているのだろう。
「あなたにお聞きしたいことがあるのです」
ジェロームはそう言うと、わたしの支えとなるように手を差し出してくる。
「兄様、メイは――」
「コーディ、すまないが、少しだけ彼女と話がしたい。どうしても聞いておきたいことがある」
ジェロームがコーディの言葉を遮る。
ジェロームが聞きたいのは、やっぱり、あの聖騎士のことだろう。
わたしが知っていることなんて、ほとんどない。
もしかすると、魔王であるわたしよりコーディの方が知っているかもしれない。
ジェロームと話すことを断りたいけど、むりだと思うので、すでに諦めている。
「彼と話してくるべきですわ。そして、しっかりと言うべきことを言うべきですわ」
マデレーンが横からそんなことを言ってくる。
何だか、誤解されている気がする。
「何をもたもたしておりますの? 早くお好きな部屋で話してくるとよろしいですわ」
「急にこのような場所に連れて来られたのだから、無理をしない方がいい。そこの騎士、彼女を頼む」
マデレーン、それにエリオットまでそんなことを言う。
逃げ場のなくなったわたしは仕方なく、ジェロームの手を取る。
わたしは、流されてしまった。
なんで、ジェロームの手なんか取ったんだろう……
コーディにお願いすればよかった……今は護衛だから、嫌々でも付き合ってくれただろう。
それより、意地を張らず、コーディに凭れておけばよかったかもしれない。
なんて馬鹿なの……
泣きそうになっていると、
「兄様、僕も同席します。部屋で二人きりにさせることはできません」
コーディがジェロームに言う。
「わかった」
ジェロームはそれだけ答えると、廊下を歩き出す。
必然的に、わたしも歩かざるを得ない。
すぐ後ろをコーディがついてくる。
マデレーンとエリオットは何も言わずにわたし達を見送っていた。
ある程度、歩いて、マデレーンやエリオットと距離が離れたところで、部屋の1つに入った。
これだけ離れれば、声は聞こえないだろう。
部屋の中はマデレーンがいた部屋と全く同じだった。
外は相変わらず、明るい。
さっき、夜ご飯を食べたつもりだから、もう夜だと思う。
もう、寝てもいいんじゃないかな。
ベッドにちらっと視線を向ける。
すぐにわたしの視界は遮られた。
背の高いジェロームがわたしの前に立ったからだ。
わたしの背の低さが際立つから止めてほしい。




