190話 敵襲
ロイの姉のフィーナは迷っているようにおろおろとしている。
追いかけるべきか、そっとしておくべきかということだろうか。
ロイの想いはうれしい。でも、結婚はできない。それに、早すぎると思う。
そもそも、わたしは元の世界に戻りたいのだ。
第一、まだ、コーディが好きだ。
だから、やっぱり、ロイの想いに応じることはできない。
危険は多分、ないと思う。
わたし達をどうにかするなら、とっくにしている。
たぶん……
不気味だけど……何か出そうだけど……
わたしに集まる視線も居心地が悪い。
わたしも逃走したい……
居心地の悪い雰囲気を破ってくれたのが、はっきりと聞こえる足音だった。
ロイが走り去った所とは違う方、それは階段から下りてくる。
まあ、急に背後に何かがいたというよりはいい。
もう一人、誰かこの空間に閉じ込められていたんだろうか?
わたしがそっちに目を向けたくない理由は、足音と一緒に金属か硬い物が当たるような音もするからだ。
堂々とした足音が等間隔で聞こえてくる。
見ない訳にもいかず、目を向ける。
悪い予感はしていた。そう、予想はしていた。
どうして、ちょっと前のわたしは危険はないなんて思ったんだろう。
階段を下りて近づいてくるのは、一人の聖騎士だった。
顔が黒ずんでいるが、見覚えがある。ちょっと口うるさい人だったと思う。勇者の護衛の一人だ。
要は、敵だ。
しっかりと武装している。
同じく聖騎士のジェロームとは服装が違っている。ジェロームの服装は戦闘的なものではなく、儀礼的なものじゃないかと思う。防御より見掛け重視のように思うのだ。
階段を下り切った彼はゆったりとした足取りで進んでくる。
いつ彼が剣を抜き、襲い掛かって来るのかと身構える。
「ダレル!」
ジェロームが敵の聖騎士に呼び掛ける。
彼の名前を初めて知った。
同じ聖騎士だから、顔見知りだろう。
だけど、もう、彼は死んでしまっている。
勇者の護衛として旅した時の彼とは違う。
ジェロームの声に何の反応も示さない。
目の前の聖騎士は聖堂にいた聖騎士と同様に生気がない。
この屋敷の雰囲気と相まって、不気味だ。
彼はまっすぐにわたし達の方へ向かって来る。
もう他の用件で来たとは思えない。他の用件で来たわけがないのはわかってるんだけど。
わたし達を殺しに来たんだろうか?
今まで放っておいて? 食事まで用意して?
わたし達の元へと迫ってくる聖騎士に、コーディとジェロームが立ちはだかる。
「それ以上、近づくな」
ジェロームが鋭い声で警告する。
それでも聖騎士は止まらない。
「ダレル! 聞こえないのか! 何があった!? どうして無断でいなくなった!?」
「兄様、彼はもう――亡くなっています。兄様の声は届きません。体が動いているだけなのです。もう、ダレルという方ではありません」
コーディの言葉にジェロームは答えない。
ジェロームもわかっていたと思う。すでに他の聖騎士に襲われていたのだ。
ジェロームは剣を抜いた。
その時になって、ようやく聖騎士は立ち止まった。
聖騎士は剣を抜く。
コーディは何もない所から、黒い剣を生み出す。闇魔法の剣だ。
聖騎士はおそらく強い。
他の王族がいるからと出し渋っているわけにはいかないんだろう。
「メイ、身体強化をお願いできますか?」
「はい、すぐに」
わたしは急いで、コーディとジェロームに身体強化の魔法を掛けた。
「兄様、相手は強敵です。人間だと思わない方がいいでしょう。その身体強化の状態にすぐに慣れてください」
「中々、無茶を言う。だが、慣れてみせる」
ジェロームが言うや否や、聖騎士が踏み込んでくる。
ジェロームが剣で受け流し、その隙にコーディが聖騎士に黒い剣を振るう。
2体1で卑怯だとか言っていられない。
コーディや騎士のジェロームもそれには目を瞑っているだろう。
それで全員殺された、では意味がない。
聖騎士は剣ではなく、腕でコーディを黒い剣ごと押し返す。
人間技じゃないし、騎士の戦い方とも思えない。騎士のことをそこまで知らないんだけど。
聖騎士も身体強化されているようなものだ。
更にジェロームが聖騎士に斬り込む。
そこへコーディが10本ほどの黒い剣を出現させ、聖騎士の背後を狙う。
聖騎士はジェロームを蹴り飛ばし、体を捻って黒い剣を叩き落す。
剣を構えたコーディをも蹴り飛ばした。




