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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ①
190/316

190話 敵襲

ロイの姉のフィーナは迷っているようにおろおろとしている。

追いかけるべきか、そっとしておくべきかということだろうか。

ロイの想いはうれしい。でも、結婚はできない。それに、早すぎると思う。

そもそも、わたしは元の世界に戻りたいのだ。

第一、まだ、コーディが好きだ。

だから、やっぱり、ロイの想いに応じることはできない。

危険は多分、ないと思う。

わたし達をどうにかするなら、とっくにしている。

たぶん……

不気味だけど……何か出そうだけど……

わたしに集まる視線も居心地が悪い。

わたしも逃走したい……

居心地の悪い雰囲気を破ってくれたのが、はっきりと聞こえる足音だった。

ロイが走り去った所とは違う方、それは階段から下りてくる。

まあ、急に背後に何かがいたというよりはいい。

もう一人、誰かこの空間に閉じ込められていたんだろうか?

わたしがそっちに目を向けたくない理由は、足音と一緒に金属か硬い物が当たるような音もするからだ。

堂々とした足音が等間隔で聞こえてくる。

見ない訳にもいかず、目を向ける。

悪い予感はしていた。そう、予想はしていた。

どうして、ちょっと前のわたしは危険はないなんて思ったんだろう。

階段を下りて近づいてくるのは、一人の聖騎士だった。

顔が黒ずんでいるが、見覚えがある。ちょっと口うるさい人だったと思う。勇者の護衛の一人だ。

要は、敵だ。

しっかりと武装している。

同じく聖騎士のジェロームとは服装が違っている。ジェロームの服装は戦闘的なものではなく、儀礼的なものじゃないかと思う。防御より見掛け重視のように思うのだ。

階段を下り切った彼はゆったりとした足取りで進んでくる。

いつ彼が剣を抜き、襲い掛かって来るのかと身構える。

「ダレル!」

ジェロームが敵の聖騎士に呼び掛ける。

彼の名前を初めて知った。

同じ聖騎士だから、顔見知りだろう。

だけど、もう、彼は死んでしまっている。

勇者の護衛として旅した時の彼とは違う。

ジェロームの声に何の反応も示さない。

目の前の聖騎士は聖堂にいた聖騎士と同様に生気がない。

この屋敷の雰囲気と相まって、不気味だ。

彼はまっすぐにわたし達の方へ向かって来る。

もう他の用件で来たとは思えない。他の用件で来たわけがないのはわかってるんだけど。

わたし達を殺しに来たんだろうか?

今まで放っておいて? 食事まで用意して?

わたし達の元へと迫ってくる聖騎士に、コーディとジェロームが立ちはだかる。

「それ以上、近づくな」

ジェロームが鋭い声で警告する。

それでも聖騎士は止まらない。

「ダレル! 聞こえないのか! 何があった!? どうして無断でいなくなった!?」

「兄様、彼はもう――亡くなっています。兄様の声は届きません。体が動いているだけなのです。もう、ダレルという方ではありません」

コーディの言葉にジェロームは答えない。

ジェロームもわかっていたと思う。すでに他の聖騎士に襲われていたのだ。

ジェロームは剣を抜いた。

その時になって、ようやく聖騎士は立ち止まった。

聖騎士は剣を抜く。

コーディは何もない所から、黒い剣を生み出す。闇魔法の剣だ。

聖騎士はおそらく強い。

他の王族がいるからと出し渋っているわけにはいかないんだろう。

「メイ、身体強化をお願いできますか?」

「はい、すぐに」

わたしは急いで、コーディとジェロームに身体強化の魔法を掛けた。

「兄様、相手は強敵です。人間だと思わない方がいいでしょう。その身体強化の状態にすぐに慣れてください」

「中々、無茶を言う。だが、慣れてみせる」

ジェロームが言うや否や、聖騎士が踏み込んでくる。

ジェロームが剣で受け流し、その隙にコーディが聖騎士に黒い剣を振るう。

2体1で卑怯だとか言っていられない。

コーディや騎士のジェロームもそれには目を瞑っているだろう。

それで全員殺された、では意味がない。

聖騎士は剣ではなく、腕でコーディを黒い剣ごと押し返す。

人間技じゃないし、騎士の戦い方とも思えない。騎士のことをそこまで知らないんだけど。

聖騎士も身体強化されているようなものだ。

更にジェロームが聖騎士に斬り込む。

そこへコーディが10本ほどの黒い剣を出現させ、聖騎士の背後を狙う。

聖騎士はジェロームを蹴り飛ばし、体を捻って黒い剣を叩き落す。

剣を構えたコーディをも蹴り飛ばした。

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