189話 ロイの気持ち
幻滅するほどの幻想を抱いていないわたしにはどうということもなく、やっぱり、わたしにはここを脱出する方が重要だ。
ここで死ぬ気は一切ないのである。
と言う訳で、脱出のために色々、試してみたい。
話し込んでいる場合じゃない。
メルヴァイナとティムが何とかしてくれるとか、そんな人任せなことはしたくない。
「あの、わたしはもう休んでもいいでしょうか?」
わたしは遠慮がちに言う。
会いたいと言っておいて、もう休みたいはなかったかもしれないとは思ったけど、仕方ない。
気疲れするというのも事実だ。すぐにでもベッドに飛び込みたい。もう眠りたい。
高貴な身分の人達に囲まれて、わたしだけ、庶民。実際には、魔王国の女王かもしれないけど。彼らを見ていると、わたしだけある意味、浮いている気がする。
「君達はここに来たばかりだったね。さぞ、不安だろう……しっかりと休み、精神を落ち着けるといい」
エリオットが痛まし気な表情でこちらを見る。
精神を落ち着けた方がいいのは、マデレーンとエリオット自身じゃないのかという気もしないではなかった。
「はい。ありがとうございます」
そう言うと、とりあえず、玄関ホールに戻った。
そこで振り返ると、なぜか全員、ついて来ていた。エリオットまでいる。
「あの、わたしは独りで大丈夫です」
「いえ、そのような訳にはいきません。このような場所で独りにはさせられません」
コーディが険しい表情で訴えてくる。
「ええ、そうですわ。心配して差し上げていますのよ」
「ああ、独りでは不安が増すはずだ」
マデレーンとエリオットが追随してくる。
「メイさん!」
ロイがわたしのすぐ傍まで小走りで来る。
「私がメイさんを護ります。メイさんがゆっくり休めるように。部屋の前で見張っておきます」
「大丈夫です。ロイもゆっくり休んで」
ロイに応えた後、わたしは部屋が並んでいる方を眺める。
とりあえず、どの部屋を使おうか?
あり過ぎて迷ってしまう。多すぎるのも考え物だ。
「メイさん、あの――」
力強い口調のロイとしっかり目が合う。
「言っておかなければ、私は後悔すると思いますので、聞いてほしいのです」
ロイは必死なような、真剣なような、でも熱でもあるようなふらふらした感じもする。
わたしはロイと目を合わせたままだ。
さすがに目を逸らすことはできない。
ロイに何を言われるのか?
緊張してくる。
ロイはわたしにひどいことを言ったりはしないと思う。
「メイさん!」
名前を呼ばれて、びくっとする。
「は、はい!」
「私はあなたを愛しく思っております! ここを出られたなら、私と結婚していただけませんか!」
何を言われたのか、一瞬、わからなかった。
これって、告白!?
わたし、初めてなんだけど。
いや、告白じゃなくて、プロポーズ!?
それも初めてだ。いや、それはそうか。
わたしなんかにそんなことを言ってくれる人がいるなんて。
でも、どう答えていいかわからなくて、オーバーヒート気味だ。
どうしたら……誰か教えて……
いや、わたしが好きなのは――コーディだ。
例え、コーディがわたしを好きになってくれなくても。
告白してくれたのはロイなのに、コーディならよかったと思ってしまった。
「き、急にこのようなことを……申し訳ございません」
ロイは部屋が並ぶ廊下の方へ走って行ってしまった。
ロイに返事もできていない。
返事はもう決まってるのに。
玄関ホールはしんと静まり返った。




