187話 不思議な屋敷 二
玄関ホールは荒れていたけど、ここは割ときれいだ。ベッド以外に何もないのですっきりしている。
ただ、窓にはカーテンもなく、寝るにはかなり明るい。
結局、部屋にいるのは、彼女の他に、わたしとフィーナだけだ。
部屋のドアは開けたままで、そのドアのすぐ傍に後の3人はいる。
彼女の気持ちはわたしにはよくわかる。
「私は第2王女マデレーンですの。これから、私も殺されるのですわ。叔父や兄達のように。あなた方も災難ですわね。私達はここから出られませんわ」
さっきまでの騒ぎは嘘のように、落ち着いて、というより、諦めたような口調だ。
緑の瞳だったから、予想していた通り、この王国の王女だ。王女は3人いると聞いている。
「兄も反対側の部屋におりますのよ。第4王子エリオットですわ」
本物の王子だ。どんな人なのか興味がわく。
コーディやロイも王子だけど、王子として育った訳じゃない。でも、第4王子はちゃんとお城で、王子として育っているだろう。
「あなた方もこのような所に連れて来られるくらいですから、相応の身分なのでしょう? お一人は聖騎士ですわね。言いたくないのであれば、構いませんのよ。殺される私達にはもう関係ありませんものね」
王女であるマデレーンを前にしても、それほど委縮しない。
彼女がちょっと弱っているというのと、慣れたというのもあると思う。
「私はエヴァーガン侯爵家のフィーナでございます。王女殿下」
「メイでございます」
さすがに隣国の女王とは言えない。なんて言おうか迷った末、結局、名前だけになった。
「そう。フィーナ、メイ、私達はどのように殺されるのでしょうね」
そんな殺されること前提は嫌だ。お姫様はなんてこと、言うんだろう。そんなこと考えたくもない。しかもわたしやコーディは中々死ねないのに。
「いいえ、王女殿下。そのようなことはさせません。私を含めて3名は騎士学校を卒業しております」
「期待はしておりませんわ。たったの3名で何ができますこと?」
「最期まで抗ってみせます」
フィーナの言葉には賛成だ。わたしには武器がないけど。
「それでは結局、痛めつけられて殺されるのでは? 一人ずつ連れ出されて、処刑されるのかもしれませんのよ」
そんな悲観的なことばかり言わないでほしい。
かと言って、大丈夫とも言えない。
「あの、それより、食べ物はどうされているんですか?」
と言う訳で、話を逸らす。と言っても、気になっていたことだ。ちょっと、こんな時にって、怒られるかもしれなかったけど。
「2階の食堂にありますのよ。食事は中々、絶品ですわ。体型を維持しないといけませんのに、困りますわ」
空間魔法で閉じ込める場合は、おいしい食事でもてなさないといけないというようなルールでもあるんだろうか。
「ですが、そろそろ、空腹ですわ。ご一緒しませんこと?」
「はい。わたしも空腹です」
「あの方々もついて来てもよろしいですけれど、離れていていただきたいですわ。それは譲れませんの」
マデレーンの要請に従って、マデレーンを先頭に、わたしとフィーナ、それに少し離れて、後の3人が続く。
階段を上り、2階に着くと、左右に分かれて、また、部屋が並んでいる。ずーっと遠くまで。
マデレーンは一番手前の部屋のドアを開ける。
「あの方々は隣の部屋へ。同じ食堂ですわ」
食堂、何部屋あるんだろう?
「僕はメイの護衛です。このような場所で傍を離れることはできません。僕は第6王子フィニアス。貴女の命令を聞くことはできません」
コーディがマデレーンに反論する。わたしを優先してくれるのはうれしい。仕事だからかもしれないけど。
「私の弟ですの? 王城にはいらっしゃらないから、会ったことがありませんわね。噂は聞いておりますけれど」
「私もです。姉フィーナとメイさんの傍におります。私は第7王子レックスです」
「そういうことですのね。連れて来られたのは王族。私の弟達は大切な女性達を巻き込んだのですわね。仕方ありませんので、そちらの端でしたら、いてもかまいませんわ」
マデレーンはコーディとロイが悪いように勘違いしている。聖堂に行きたいと言ったのはわたしだ。
「いえ、そう言う訳ではないんです。わたしが勝手に首を突っ込んだんです」
「王女殿下、彼ら二人は悪くありません」
「そう。まあいいですわ。席に着きましょう。晩餐ですわ」
席に着くが、テーブルには何もない。
もしかして、イメージして、食べた気になる?
そんなのいやぁ~
「あの、お料理は?」
フィーナが直球でマデレーンに聞いた。
「もうじき出て来ますわ」
マデレーンはそう言うけど、一体どこから出てくるんだろう? それはそれで怖い。何者かが運んでくるんだろうか。
色々な想像をしていた時、テーブルの上が淡く光り、豪華な料理が現れた。
料理は転移されてきた。
しかも、ちゃんとわたし達女3人の前には3人分。更に、テーブルの逆側に座った3人の前にも3人分。
スープ皿に触れると温かい。しかも、見た目でも、おいしそうだ。
今は、誰かに見られているのかもしれないとかそんなことは置いておいて、とりあえず、することは食べることだ。




