186話 不思議な屋敷
外はまだ明るい。窓から光が入ってきている。
ここに時間による変化があるのかはわからないけど。
ともかく窓の外は明るい。
なので、夜よりはまだましだ。
この屋敷は2階建てのようだ。玄関ホールの広さからフォレストレイ侯爵家の屋敷よりは小さそうだ。
1階から行くか、2階から行くかで揉めることはなかった。
わたしははっきり言って、どっちでもいい。
とりあえず、誰が言い出したか、1階から行くことになった。
多少、暗い部分はあるけど、灯りがなくても問題ない。
玄関ホールから少し進んだだけで、わたしは愕然とした。
屋敷が小さそうなんて、そんなことは全然なかった。
同じような窓とドアが整然と並んでいる。それはもう、果てしなく。終わりが見えない。
間違いなく、作り出された空間だ。
全員、声も出ない。
探検しようなんて、気は起きなくなる。
というより、既にやる気がない。
「私は夢でも見てるの? ジェローム様が傍にいるし、きっと、夢よね」
フィーナが呟く。
夢ならいい。けど、夢じゃないと思う。
「場所が移動したのではなく、眠らされたのでしょうか」
ロイも困惑した表情を浮かべながら言う。
同意したいけど、眠らされてなんていないと思う。
「よくできた夢ね」
そう言うと、ふいにフィーナが一番手前のドアを開けた。
止める間もなく、ドアはすんなり開いた。
すると、部屋の中から、
「どなたですの!?」
と金切り声が聞こえた。
「入らないで下さいませ!」
怯えたような女性の声が聞こえてくる。
「あなたは誰? 私の夢で何をしているの?」
フィーナが部屋の中の誰かに向かって問いかける。
夢じゃないことを訂正する気がないのは、夢だと思っていた方が幸せだから。
わたしからは部屋の中の様子が見えない。
部屋の入口の前にフィーナとロイがいるからだ。
部屋の中にいるのは、わたし達と同じように閉じ込められた女性なのかもしれない。
実は敵という可能性もないわけではないのか……?
というわけで、部屋の中を何とかして覗こうとする。
急にフィーナが振り返るので、できた隙間に向かって前のめりになり、部屋の中に侵入してしまった。
部屋にはぽつんとベッドがあり、女性はその上にいた。
赤みを帯びた金髪に緑の瞳の女性だ。
部屋には大きな窓があり、そこからの光で明るい。ちなみに窓の外は何もない。一面、白い。どうせなら、木でも植えておいてほしい。
彼女は怪訝な顔でわたしを見ていた。
「あの……ここから出る方法を知りませんか?」
居たたまれないので、そんなことを口走っていた。
「残念ですけど、ここからは出られませんのよ」
強がっているように見える。それに、ちょっと嬉し気だったりする。
「私、他の部屋も見てみましたの。ここと同じ部屋が並んでいるだけでしたわ。私、ここに連れて来られて、おそらく数日が経ちますの。ここに時間の概念があるかはわかりませんが。夜も来ませんし、窓の外はずっと同じ明るさですのよ」
彼女は急に饒舌に話し出す。
こんな所に一人だけなんて、かなり不安だったんだと思う。
「このような建物が市井にはよくありますの? とても不思議な造りですこと」
あるわけがないと言おうとして思いとどまった。
「わたしもこんな建物を見るのは初めてです」
もう、空間魔法が使われていることはわかった。でも、空間魔法なんて、説明できない。人間には使えない魔法で、この王国には存在していない魔法だ。
「そう。ところで、あなたは一人ではないようですけれど?」
「わたしの他に4人います。皆、入ってもいいですか?」
「許可しますわ」
彼女の許可をもらったので、全員、部屋の中に入った。
「え!? ちょっと! な、何ですの!? その方たちは!」
彼女は急に怒り出してしまった。
4人の内の誰かと因縁でもあったんだろうか。
ジェロームかな?
「私、お風呂に入っていませんのよ! 近寄らないで下さいませ!」
彼女は甲高い声で一しきり騒いだ。




