182話 聖堂での事件
わたしは音に驚いて思い切り咽た。
一体、何!?
咳が収まり、顔を上げた。広場には砂煙のようなものが見えた。広場は石畳で砂はないはずなのに。
ちょうど聖堂が見えていた方だ。
立ち上がって、凝視するけど、その砂煙が邪魔をして何が起きているのかよく見えない。
「メル姉、何かわかりますか?」
「建物が崩れたわ」
メルヴァイナは淡々とした口調で答えた。
わたし達の他に周辺を歩いている人達も立ち止まり、何が起こったのかと同じ方を見ている。
建物が崩れたって、中に人はいなかったんだろうか……
もし、人がいて、怪我を負っているなら、治癒術師の出番だ。
行かないと。
メルヴァイナがわたしの腕に腕を絡めてきた。
「私にも状況がわからないから、行ってはだめよ」
わたしの考えていることはお見通しだったのだろう。わたしが動き出そうとしていたからかもしれない。
それはコーディにも伝わったのか、コーディがわたしの行く手を阻む。
「危険です。行ってはなりません」
コーディにも言われて、さすがに無理やり行く気はない。
でも、もし、遅れて誰かが死んでしまったら、もう助けることはできない。
それにわたしは怪我をしたところで死にはしない。わたしには再生能力がある。
火に巻かれればどうなるかわからないけど、火は出てないように見える。
「大丈夫です。勝手に行ったりしません」
そう言うと、メルヴァイナは絡めていた腕を放した。
砂煙が落ち着いてきて、うっすらと建物が見えてくる。
一見、大きな被害はないように見えた。
より視界がよくなってくると、聖堂の半分が崩れていることがわかった。
「聖堂が……」
フィーナの力のない声がした。
「兄様……」
コーディが呟く。ただ、コーディはここを動こうとしない。
あそこにはコーディの兄、ジェロームがいた。
コーディはわたしの護衛をしているから、行けないのかもしれない。本当は駆け付けたいんじゃないか。
もし、ジェロームに何かあれば……
ジェロームを心配しているふりをして、単に、コーディに嫌われたくないだけかもしれない。
こんな時なのに、嫌な自分を見てしまう。
でも、中にいた人達が全員助かってほしいというのは本当だ。
「メル姉、もう行ってもいいですか」
「ティムが聖堂に行っているわ。”あの聖騎士”が現れたそうよ」
今のメルヴァイナは真剣な様子だ。”あの聖騎士”を強調して言う。
確かにティムの姿は見えない。いついなくなったかわからなかった。
メルヴァイナの言いたいことはわかる。
シンリー村に現れた聖騎士と同じなら、強敵だ。
ただ、”あの聖騎士”は宰相の弟に繋がるかもしれない。言い方は悪いけど、動くのを待っていたのだ……ジェロームや無関係の人を巻き込まないなら。メルヴァイナの言う多少の犠牲……本当に犠牲者が出てしまえば……
「ジェローム様……」
決意を固めるように呟いたフィーナが聖堂に向かって駆けだした。
「お姉様! なりません!」
ロイがフィーナを追いかけるが、運動不足なのか、追いつくことはできない。
いや、それを見てる場合じゃない。
「メル姉!」
「私達から離れないようにしてください、メイさま」
「それはもちろんです」
わたしとメルヴァイナとコーディで、フィーナ、ロイを追いかけた。
敵の聖騎士がいるけど、誰も武器は持っていない。
普通、庶民が武器を持って街中をうろうろしていないからだ。
まだ、メルヴァイナやティムやコーディは戦えると思う。でも、騎士学校を卒業していても人間のフィーナでは勝ち目はない。
「フィーナ! ロイ! 待ってください!」
まあ、待つわけがないのはわかってたけど。




