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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ①
181/316

181話 ロイとの再会 四

広場の端の方にはベンチの代わりなのか、座るのに手ごろな整えられた岩が広場と同化するようにいくつか置かれていた。

その中の一つに座る。メルヴァイナとティム以外は近くの岩に座った。

そこからも聖堂がわかりにくいけど見えていた。

今日の目的はロイのはずなのに、ロイの声は一言、二言しか聞いていない気がする。

もう、フィーナに圧倒されて、黙っているしかなかった。

ティムからお菓子の入った袋を受け取り、メルヴァイナがお菓子を配ってくれる。

パイのようなもので、中からクリームやフルーツが覗いている。

作られて時間が経っていると思うけど、フルーツは新鮮そうだ。

「あの聖堂には噂があるのよね?」

わたしがお菓子にかぶりつこうとしていたところ、メルヴァイナがロイに尋ねた。

「申し訳ありません。私は詳しくないのです」

ロイがしゅんとしてしまう。

傍にロイ、それにコーディもいることを思い出し、わたしは大口でかぶりつくのは止めた。

「それなら、私が知っているわ。あの聖堂で祈願すると、病気や怪我が治ると言われているのよ。なんでも、治癒術師が奥にいて、その治癒術師の力を受けられるからだって。あくまで噂だけど」

ロイに代わって、フィーナが答えた。

「治癒術師!?」

わたしは思わず、口に出していた。

あの聖堂に宰相の弟がいるんじゃないかと思ってしまったけど、そんなに簡単に見つかる訳ないかと思い直す。

治癒魔法は光魔法の一種だ。純粋な人間には使えないはずだ。

ただ、あくまで治癒術師がいるというのは噂……本当かどうか疑わしい。

「治癒術師が気になるの? 残念だけど、噂は噂よ。私は信じてないわ。治癒術師が本当にいるのかも疑念があるのよ。だって、神話の話よ」

そんなフィーナの話を聞くと、わたしが治癒魔法を使えることが申し訳なくなってくる。

「聖堂に入ることはできるんですか?」

噂かもしれないけど、確かめられないかと考えてしまう。

「今は無理だけど、通常は開放されているわ。私も入ったことがあるから。治癒術師がいるいないに関わらず、祈りを捧げる場であることに変わりはないわ」

フィーナはジェロームのこと以外だと落ち着いて、ちゃんと説明してくれる。

「あら、フィーナ、治癒術師は存在しないと思っているの?」

メルヴァイナが意味ありげな笑みを浮かべている。

「それはそうよ。実際の治癒術師なんて見たことも聞いたこともないわ。王城にはいるっていう噂だけど、それも本当かどうか」

「あら、そうなの? でも、私もメイも治癒術師よ」

「え?」とわたしとフィーナの声が重なった。

「も~、びっくりするじゃない。そんな冗談やめてよ。一瞬、信じそうになったじゃない」

フィーナが冗談だと判断してくれてよかった。

メルヴァイナはそれには何も答えず、ただ、笑みを浮かべている。

メルヴァイナはなんてことを言うんだろう。わたしはセイフォードで懲りた。

癒しの聖女なんて、嫌である。

そう言えば、癒しの聖女の噂が王都まで届いてなくてよかった。

「楽しいでしょう?」

メルヴァイナがわたしに囁いてくる。

何が!?

と口から出そうになったけど、止まった。

「あれから、何度かこの辺りに来ているんですか?」

メルヴァイナから顔を逸らし、ロイに話を振った。

「いえ、これで2度目です。また、貴女に会えるなんて、運命のようです」

「本当ですね。運命のようです」

わたしは……話を合わせた。本当はロイに会いに来たんだけど。

「2回しか会っていないのに、仲がいいのね」

メルヴァイナは立ったままの状態で、お菓子をつまみながら言う。

「ほんと。ロイに家族以外で親しい人ができてよかったわ。それにしても、これ、おいしいわね」

フィーナは座っていたのに、立ち上がって、わたし達の所に来る。手に食べかけのお菓子を持ったままだ。貴族令嬢がそんなことをしていいのだろうか。

「そうだわ。この後、時間があるなら、私達の家に来ない?」

フィーナが家に誘ってくれる。気軽に誘ってくれるけど、多分、豪華なお屋敷だ。

フォレストレイ侯爵家に乗り込んだ時も緊張したけど、また、緊張しそうだ。トイレに行きたくなりそうだ。

「ぜひ、行かせてもらうわ」

メルヴァイナが勝手に決めてしまう。そんな気はしたけど。

それに、いずれは行こうと思っていた。コーディと。

ロイはコーディの実の弟だ。弟が育った家に、コーディと一緒に行くと約束していた。

わたしはコーディの様子を窺う。

コーディはどことなく強張った表情をしていた。

ずっと会っていなかった弟の暮らしている家に行くのは、コーディも緊張するのかもしれない。

これから、ロイとフィーナの家に行くのかと、急いでお菓子を食べきろうとしている時に、タイミング悪く、轟音が響き渡った。

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