180話 ロイとの再会 三
わたし達のここに来た目的が神官の護衛の聖騎士にすり替わる中、何をすればいいのかわからないわたしはコーディとティムとロイを見た。
ティムは我関せずを貫いている。コーディとロイはわたしと目が合うと苦笑いを浮かべた。
メルヴァイナはフィーナや聖騎士ではなく、ロイと話すべきじゃないかと思う。
フィーナはジェロームのことを、メルヴァイナはおそらく魔王国の騎士のことを話していて、わたし達は今や眼中にないようだ。
この調子だと、聖騎士が通り過ぎるまでわたし達は放置されそうだ。
聖騎士といっても、わたしが捜しているのは、勇者の護衛だった失踪した聖騎士達だ。
おそらく全員生きてはいない。
死体を乗っ取られたか、無理やり動かされているような状態だ。
わたしがそんなことになったら、死んでも死にきれなさそうだ。
そんなことを考えていたら、また、もう会えないアリシアの姿を思い出す。
「メイ」「メイさん」
コーディとロイが心配そうにわたしを見ていた。
「ちょっと考え事をしていただけなんです」
彼らにそう答える。
暗い顔をしてしまっていたのかもしれない。わたしとしたことが。
コーディもロイと同じようにわたしを心配してくれたのだろうか。
誰に聞いても、コーディはわたしを嫌ってなんてないと言われる。コーディ自身にも嫌っていないと言われた。
嫌いという言葉では生温いほど憎んでいるということはないと思いたい。
兄妹としてなら、傍にいてもいいと言われているんだ。
そうだ、それなら、わたしとメルヴァイナのようなものだ。
ただ、わたしにはコーディがどうしても兄とは思えないだけだ。
コーディとロイは逆に実の兄弟だけど、複雑そうだ。
この微妙な関係性は何なんだろう。
そんな時、ようやく、神官と聖騎士の姿が見えた。
広場にいた人達が広場を進む神官と聖騎士を静かに見ている。
さすがに相手が神官だからか騒いだりはしないけど、芸能人を見るようなものなんだろう。
わたし達の前を通り過ぎていく。
神官は3人、聖騎士は10人だった。
聖騎士の中にジェロームの姿を見つけた。
ジェロームがわたし達に気付いたかはわからなかった。
ただ、聖騎士の正装をしたジェロームは屋敷で会った時の軽い男というような印象は受けなかった。
しゃべってないからかもしれないけど。
フィーナの言う立派な騎士だ。しかも見た目もいい。
きっと外面がいいに違いない。
フィーナは騙されていると思う。
神官と聖騎士は広場に面した建物の1つに入って行った。
この広場で何か行事をするわけではないらしい。
入って行った建物をよく見ると、小さな聖堂のような建物だった。
周りの建物に混ざるとわかりにくい。
広場に集まっていた人々の多くが散っていく。
神官が目当てだったのか、聖騎士が目当てだったのかは不明だ。
「今日も素敵だったわ、ジェローム様」
フィーナの目当ては間違いなくジェローム一択だ。
別にジェロームに認識されなくてもいいらしい。陰ながらのファンのようなものだと思う。
「本当、ここの聖騎士達も中々、いいわね」
満足げにメルヴァイナが呟く。
「そうでしょう? 特にジェローム様」
「ええ、そうね」
「そう言えば、ジェローム様がわかるのね。確かに一番輝いているものね」
「一度、見たことがあるのよ」
「そうだったのね。やっぱり、ジェローム様は有名なのね」
フィーナとメルヴァイナの会話を聞きながら、わたしは、ちょっと、フィーナについて行けそうにない。
ジェロームのことになると、暴走し出す。
グレンのことが好きだったアリシアのようでもあった。
フィーナの熱が落ち着いてきた頃、
「おいしいお菓子を持ってきたの。一緒に食べる? あなたの弟も」
とメルヴァイナが提案する。
「ほんと? いただくわ。端に座れる場所があるから、移動しましょう」
手土産のお菓子は忘れ去られていると思っていた。




