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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第1章
18/316

18話 旅路

翌朝、さすがに置いて行かれることはなかった。

わたしが起きたとき、ミアはまだ、寝ていたし、イネスも部屋にいた。

部屋に運ばれた朝食を食べると、しばらく部屋にいた。

出発の朝なのに、割とゆったりとしている。現に日は大分昇ってきている。

日の出とともに出発ぐらいに思っていたので、拍子抜けだった。

ようやく出発の時、玄関ホールには、アリシアの姿があった。そして、ゼールス卿も見送りに姿を見せていた。ゼールス卿の横にはアリシアに面影の似た女性、きっとアリシアの母親だろう。

アリシアがわたしの傍に来る。

「メイさん、どうか、ご無事で。わたくし、昨日、あの後に、グレン様を訪ねました。想いはお伝え出来ませんでしたが、話せてよかったと思います。ありがとうございます。メイさんにお会いできて、とてもうれしく思います」

わたしにしか聞こえないように小声でアリシアがわたしに教えてくれた。

アリシアは前にしてくれたように、わたしの両手をその手で包んで、祈る様にする。

「わたしも、アリシアさんに会えてよかったです。お元気で」

「ええ」

アリシアはゼールス卿の横に並んだ。

「勇者様、我が屋敷にて、お迎えするという栄誉に預かりましたこと、恐悦至極にございます。ご活躍を心より願っております」

ゼールス卿がそう言うと、ゼールス卿を始めとする屋敷の人達が一斉に頭を下げた。

「フンッ。当然だろう」

グレンが尊大な態度で素っ気なく言う。

言うとすぐにくるりと屋敷の入口へと踵を返し、すたすたと出ていく。

コーディ、イネスは何も言わず、グレンに続く。

遅れて、わたしとミアがその後に続いた。

あれだけ盛大に送り出してくれているのに、それはないんじゃないかと思うが、なんとなく口に出せる雰囲気ではなかった。

グレンは一直線に何の躊躇もなく、馬車へと乗り込んでいく。

馬車は合計、4台あった。2台はおそらく荷物や食料などを載せているのだろう。その2台は造りが異なっている。

馬車の傍には、それぞれ馬を連れた聖騎士が十人いる。

わたしも馬車への乗り込む。

窓から屋敷の方を見ると、ゼールス卿やアリシア達が屋敷の前まで出てきており、同じように頭を下げていた。

馬車はすぐに出発した。

儀礼的で感傷も何もないような別れだった。


わたしはただ、黙って、馬車に揺られていた。

相変わらずの何とも言えない空気が流れている。

思っていた勇者パーティとは全然違う。

しかも、旅は馬車で、聖騎士の護衛付き。休憩時には、お茶まで出される。

これでは、旅行といっても差し支えない。

旅路は、一体、何が危険なのだろうというぐらい平和で、むしろ、退屈するぐらいだった。

「イネス、えっと、境界まではどのくらい掛かるんですか?」

「予定通りなら、10日の道程よ。実際に境界を越えるのは、その翌日になるわね」

10日か……

結構、長い。

よくわたし以外の全員、この状態で平気で旅ができるものだと感心する。

そして、沈黙に耐えられなくなったわたしは、当たり障りのなさそうなそんなことをイネスに尋ねた。

「境界の先には何があるんでしょうか?」

「わからないわ」

「境界の近くに魔王がいるんですか?」

「わからないわ」

「魔王はどのくらい強いんですか?」

「わからないわ」

「魔王の情報は何かないんでしょうか?」

「何もないわ」

「……」

……

そんなので魔王に勝てるのだろうか?

まさか、魔王が昨日戦った魔獣より弱いということは当然ながら、ないだろう。

何か、とんでもない魔法を使ったりするのだろうか。

それこそ、わたし達が一撃で全滅するくらいの魔法を。

強力な広範囲魔法とか使われたら、一発で全滅しそうだ。

「イネスは、強力な広範囲魔法は使えないんですか?」

「攻撃において、魔法はあくまで補助という位置付けなの。魔法だけで魔獣を倒すことも厳しいわ。いくら魔力が高いといっても、限界は見えているのよ。人が相手なら、有効ではあるけれど。ほとんどの人が生活魔法として、魔法を使っているの。日常生活で、火を起こしたり、水を発生させたりしてね。攻撃としては、決定打に欠ける威力しかない。メイが期待するような魔法は使えないわ」

わたしの魔法に対する過度の期待は打ち砕かれていた。

要は、この世界の魔法は補助にしかならない程度の弱さなのだということだ。

街中での戦いだから、控えていたとかそういうことではないのだ。

そもそもが弱い。

ただ、それなら、治癒魔法はどうなのだろう。

あれほどの傷を治した。しかも、広範囲に有効だった。

例外だから、当てはまらないのか。

このような例があるなら、魔王が攻撃で、広範囲に有効で強力な魔法を使わない保証がない。

というより、魔王というぐらいだから、それぐらいできそうだ。

「魔王なんだから、魔法に精通してそうですけれど、強力な広範囲魔法を使うかもしれないんですよね?」

「そうね。あり得るわ」

「魔法を組み合わせて、大爆発を起こしたりできませんか?」

「組み合わせる? 昨日、メイが指示していたようなこと?」

「そうです。あんな風にして、爆発を起こすんです」

「そんなことは行ったことがないわ。違う属性の魔法の場合、打ち消してしまって、意味がない」

「そうですか……」

できそうな気はする。でも、色々試してみないといけないだろう。

残念なことにわたしに4つの根源の魔法は使えない。試すなら、協力を仰がなければならない。しかも絶対に必要なのは、火だろう。

頭の中のわたしが大きくため息を吐く。


次の休憩の時、馬車から降り、伸びをする。

ずっと座っているのも、それはそれで辛い。

そこへ近づいてくる足音が聞こえた。

「おい! メイ!」

その足音の主、声を掛けてきたのは、なんと、グレンだった。

しかも、何気に律儀に名前を呼ぶという約束を守ってくれている。

偉そうな態度に変わりはないが。

「戦いで勝手なことはするな。昨日は偶々うまくいったに過ぎない。あんなものは作戦でも何でもない」

「わかっています。わたしは素人で、戦術とか、全くわかりません。わからなくても、このままではいけないということはわかりました。協力した方がいいと思っただけです。これからはグレンが連携できるよう、指揮を執ってください」

「それなら、二度とするな」

それだけ言って、馬車に戻ろうとするグレンに、

「待ってください、グレン」

すると、グレンが振り返る。

「わたしはメイ・コームラです。同行するというのに、ちゃんと自己紹介をしていませんでした」

「公爵家次男グレン・ヴィンス・ドレイトンだ」

「さっきの馬車での話、魔法を組み合わせるという、聞いていましたよね。できませんか?」

「……そんなことは聞いたことがない。黙れ」

「聞いたことがないから、できないんですか?」

グレンの表情に不機嫌さが増す。

「……無駄なことはしない」

「騎士学校の主席なのに、魔法の応用もできないんですか?」

「いい加減にしろよ。騎士は剣術主体だ」

「ですが、今後の旅で役に立つかもしれません」

「お前に何がわかる! 無駄といえば、無駄だ。いいな?!」

グレンは怒鳴り声を上げ、今度こそ、馬車へと戻った。

わたしも勇者パーティに加わり、旅を始めたが、やはり、グレンはわたしの思う勇者像には程遠い。

この旅もわたしの思う勇者の旅とは程遠い。

といっても、何度もあんな魔獣と遭遇して戦うのも嫌ではある。

それに比べれば、全然ましだ。

出発を告げられ、わたしも馬車に戻る。

休憩がないと気が滅入る。

気の休まらない車内の雰囲気。誰か盛り上げてほしい。雰囲気をよくしてほしい。

あの三人に期待はできないし、ミアは従者という立場らしく、彼らと一歩引いている。必然的に残りは私しかいない。

未だに不機嫌なグレン(いつも不機嫌そうだが)に、ずっと本を読んでいるコーディ、微動だにしないイネス、大人しく縮こまっているミア。

無理よ!

もう、寝るしかない。

わたしは目を閉じた。眠くはならないが、なんとか今の状況を少し忘れられる気がした。

共に助け合う仲間に、深まっていく絆。尊敬できる素晴らしい勇者。

このパーティでは、全て幻想だ。

わたしの頭の中だけの妄想。わたしの思い描く理想の勇者パーティの冒険。

恋をするぐらい素敵な勇者に、”勇者さまぁ”とか呼んでみたい。

本当に呼ぶかはさておき。確実に言えるのは、グレンにはありえないということだ。

夕方には、小さな街に着いた。

まだ、小さな街や村はこの先にあるらしい。

この街は外から見ると、頑強な壁に取り囲まれた見るからに要塞のような街だった。

今日はここで一泊する。

泊まる場所は、この街の有力者の邸宅だった。

ゼールス邸と比べてしまうと、明らかに見劣りする。

それでも、十分、立派ではある。

そこでも、勇者パーティということでわたしも含めて、歓待された。

この日も、ふかふかのベッドと豪華な食事付き。

こんなのでいいのだろうかと思ってしまう。

屋敷の主人一家の晩餐にわたしも招待されたので、一人の夕食ではなかった。

またしても、テーブルマナーが役に立った。恥を掻かずに済んだ。

ただ、従者であるミアは招待を受けていなかった。

晩餐の後、イネスがわたしの部屋を訪ねてきた。

「コーディとは随分仲がいいわよね」

イネスが聞いてくる。

そ、それって!

わたしは結構焦っていた。

コーディと抱き合っているのを見られている。

コーディとイネスが恋人なら、不快だろう。

やっぱり、気にしてたんだ。

しかも、わたしが旅に同行することになった。

余計に気にする。

「コーディは、もし、兄がいればこんな感じかなって思います」

かなりシスコンの、と心の中で追加する。

努めて冷静に答えたつもりだ。変に焦っていると疑惑を深めそうだ。

「兄……」

「はい、そうです。兄妹のようなものです」

「そう。わかったわ」

イネスはどうやら、納得してくれたらしい。

コーディもイネスの為に、もう少し、気を付けてほしい。

今日は色々、精神的な疲労が溜まった気がする。

イネスが部屋を出て行ってから、わたしはミアの耳を触らせてもらおうと、ミアの元を訪ねた。

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