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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ⑥
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177話 再び、森の中 二

森の中に下り立つが、もちろん、見覚えなんてない。

ここを通ったかどうかなんてわからないし、転移してきた場所の詳細を思い出すこともできない。

目立つようなものはなかったから、森の一部というような認識しかない。

むしろ、こんな森を彷徨った記憶はできれば消し去りたいぐらいだ。

薄暗い森だけど、今はそんなに不気味だとかいう印象はない。

当然、謎の声も聞こえない。

普通の森だと思う。

「こんな所に転移してきたのか」

生意気そうな口調でわたしを憐れむようにティムが言う。いつの間にかティムと、イネス、ミアまでドラゴンから降りて来ていた。

乗ってきたドラゴンは消えていた。

「生きていたからいいの」

本当はそれでいいわけがない。

どうしてこんな世界に来なければいけないのか、理不尽すぎる。

森を彷徨っていた時の気持ちが蘇ってくる。

どこにぶつけていいかわからない怒りがある。

こんな所に来たくなかった。

この世界に来たくなかった。

わたしを元の場所に戻してほしい。

ここはわたしの世界じゃない。

わたしを帰らせてよ!

心の中で叫んでも、何も起きない。

ずっと同じ森の景色が見えているだけ。

泣き叫びたくなってくる。

そんなことをしても意味がないのはよくわかってる。

一緒に来てくれた4人を困らせるだけだから。

実際にそんなことはしない。

でも、何とも言えない感情が暴れそうだった。

「ほんとに意味がねぇな」

ティムがいらないことを言って来る。

だから、そう言ったじゃない!

と、頭の中のわたしが憤怒の形相で喚く。

そのおかげか、怒っても無意味、元の世界に帰れるわけじゃないと、もう一人のわたしが言う。

よほど、宰相の弟を捜す方がいい。

どうにもならないことぐらい、わかってる。

「もういいだろ? ここには何もねぇよ。転移魔法は時間が経てば形跡も消える。何も残ってねぇよ」

「わかってる。メル姉も言ってたじゃない? 偶にはこういうこともいいって。森林浴もいいじゃない」

「俺の故郷はこんなつまらない森ばっかだったけどな。今日は兄貴もいねぇし。帰るときは言ってくれ。俺は適当にしてる」

兄貴というのはコーディのことなんだろう。なぜかティムはコーディに懐いている。

ティムは森の中をどこに向かうつもりなのか、歩いて行ってしまう。

前は、コーディがいてくれた。

そのコーディは今はいない。

わたしは嫌われてしまったから。

はっきり、わたしに言ってくれればいいのに!

文句があるなら、聞くのに!

そう言いながら、そう言えば、わたしも何も言ってないと気付く。

「コーディとグレンが来なかったのはわたしのせいですよね」

「ん、んんん」

ミアが変な声を出す。相当、困らせてしまっているようだ。

「ルカ・メレディスから役目をもらったのよ。全然、急ぐ必要のないことだけど。魔王国での立場があやふやだから、できることは何でもしたいのよ。魔王国での地位を築けるように」

イネスの口調は相変わらず淡々としてるけど、わたしを励まそうとしてくれているんだろう。

ただ、わたしと一緒にいたくもなかったんだろう。

元々、彼らが来る必要はなかったのだ。

メルヴァイナが勝手に誘っただけだ。

わたし自身の立場もあやふやだ。

彼らをこれ以上、わたしのわがままに付き合わせてはいけない気がする。

それでなくても、魔王の眷属になんてさせられて、年も取らない。人間として暮らせない。これまでの生活はできない。

どこまでが本当かはわからないけど。

やっぱり――

「コーディに、はっきり言います」

ちゃんと全部片付けた方がいい。

コーディも本音を言ってくれるかもしれない。

当たって砕けろ、だ。

砕けちゃだめだけど、砕けるのがわかってる。

ここは逃げちゃいけない。

イネスやミアにもそのせいで迷惑を掛けている。

いつまでもはっきりしないままではだめだ。

後にしよう、後にしようと言っていたら、いつになるかわからない。

これから、すぐに王都に突撃しよう!

あれ? コーディって、王都にいるんだっけ?

王都に戻るとは、はっきり言っていなかった気がする。

「あ、あの、今、コーディは王都にいますか?」

「ええ。そのはずよ」

「うん。ボク達も王都に戻るつもりだったから」

コーディは王都にいるらしい。

少し、いないことを期待してしまった……

「カクゴができました。王都に行きます」

わたしはメルヴァイナにはっきりと告げた。

「わかりました。メイさま」

メルヴァイナが答えると、いつ呼んだのか、メルヴァイナの隣にティムが並んだ。

王都へは転移魔法で一瞬にして移動した。

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