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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ⑥
175/316

175話 シンリー村とシンリー村があった場所

翌朝になった。

あまり眠れた気はしない。

宰相の弟を捜す。それはいいのだ。もう決めたことだ。

ただ、昨日、コーディは全く口を利いてくれなかった。

そして、わたしの王国王都での滞在先はコーディの実家だ。

本当にどうしていいかわからない。

いつまでもベッドに横になっているわけにはいかない。

もう起きる時間だ。

今日は忙しい。

始めに、ドレイトン先生と剣術の稽古。

その後は、魔王国に転移したシンリー村を訪ねる。

更にその後に、王国のシンリー村があった場所に行く。

ベッドでだらだらしている暇はない。

剣術の稽古をし、メルヴァイナとシンリー村に向かった。

村は本当にあった。

王国にあった時と変わっていない。

本当に村ごと転移したのだ。

よくそんなことができたと思う。

むしろ、転移なんてしていないんじゃないかというほどだ。

それか、元々ここにあったとしかいいようがないほどだ。

村を見て回るけど、やっぱり変わったところはない。広場があって、教会があって、村長の家も、他の家々も変わらない。

デリアの家も全く変わらない。

デリアの家をノックすると、デリアが出て来た。

もちろん、当たり前だ。

「メイ、いらっしゃい。それにあなたも」

「デリア、なにか困ったこととかはありませんか?」

見た目では村自体は変わっていない。

でも、気候とか他にも何か変わったことはあるかもしれない。

「今のところはないわね。まだ、昨日来たところだから、何とも言えないけどね。あたし自身、移動したことが信じられないくらいよ。まだ、何が変わったかもわからないわね」

「わかりました。それと、時々、ここに来てもいいですか?」

「いつでもいいわよ」

デリアは屈託なく言う。

「――聞きたいことがあるのよ。魔王様がいらっしゃるのはどちらの方角かわかる?」

わたしにはどう答えていいかわからない質問だった……

わたしが魔王なら、わたしのいる方?

「魔王様の居城なら、この村の教会の向きの方よ。ただ、いつもそちらにいらっしゃるとは限らないわ」

代わりにメルヴァイナが答えてくれる。

「そうですか。教えてくださりありがとうございます」

「いいのよ。もう、私達は魔王様に仕える同じ国の民なんだから」

「そうですね」

「王国に未練はない?」

「ありません。王国にいる時からあたし達は魔王様にお仕えしているようなものです」

「それはいい心がけだわ。そろそろ私達は行かないといけないのよ。これから王国にしばらく滞在するつもりだから。私達はしばらく様子を見に来れないけど、誰かは見に来るわ。何かあれば、その誰かに伝えて」

「わかりました」

もう行かないといけないらしい。

デリアとあまり話してない気がする。

「メイ、いつでも来て」

「はい」

もう少し、ゆっくりしていきたいところだけど、これから王国へ行く。王国で彼らを待たせているかもしれない。

デリアも魔王国に移ってきたばかりで、することがあるかもしれない。

色々、話したいことや聞きたいことがあったけど、わたしはメルヴァイナと、この魔王国のシンリー村を後にした。


転移先は王国のシンリー村があった場所。実際には巨大な穴の縁にいる。

明るい状態で見ると、それは壮大な穴だった。

やっぱりかなり深い。

こんなところから落ちたなんて……

わたしもおそらく落ちても死なないだろう。

ただ、絶対にただでは済まない。

どんな状態になるか想像するだけで恐ろしい。

しかも、落ちて、誰にも気付かれなければ、抜け出せもしない。

王国の人が知ったら、本当にどう思うんだろう?

埋め直すのも大変そうだ。

ちなみに、わたしとメルヴァイナ以外ここには誰もいない。

誰もいないと呟いてしまう。

「そうですね。今は王国の者もここには来られないようにしておりますし」

「来られないように? 何か魔法で入れないようにしているんですか?」

「その通りです。メイさま」

ちょうどそんなことをメルヴァイナと話していた時、誰かが転移魔法を使って転移してくる兆候が目と鼻の先にあった。

コーディ達4人だろうかと思ったが、違った。

現れたのは、なぜかティムだった。

「どうして俺が来ないといけない」

現れたと同時に文句を聞かされた。

「ティム、どうせ暇でしょう? 偶には私達に付き合いなさい」

メルヴァイナの言葉にティムがそっぽを向く。

「それは肯定ね。いい子ね」

メルヴァイナがティムの頭を撫でる。

「止めろ。頭を触るな。だから、来たくなかったんだ」

文句は言うものの、ティムは帰ってしまったりはしない。

「そう言わないの。それより、あの子達は来ないつもりかしら?」

「ちゃんと約束したわけじゃありませんでしたし、時間も決めていませんでした。それで来るとは思えません」

「確かにそうですね。では、私達だけで行きましょうか、メイさま」

「はい。でも、どうやって行くんですか? 馬車もありません」

「飛んでいきます。あまり長時間飛びたくはありませんが。飛ぶなら、ライナスが乗せてくれればいいのに。本当に使えないドラゴンですね」

昨日は穴の上を飛んでいた。それと同じようなものだろう。

ただ、生身で飛ぶのはどうなんだろう。

気持ちいいというより、怖いという方が先に来そうだ。

すごいスピードで風の抵抗を受けまくる嫌な想像が頭を過った。

ちょっと、飛んでいくのは考えさせてほしい。

「大丈夫ですよ。高さが気になるのでしたら、目を閉じていてかまいません」

メルヴァイナはそう言うが、わたしは高さが苦手なわけではない。むしろ、高い所は結構好きだ。

「高さじゃないんです。スピードが問題なんです」

「そ、それは勿論、大丈夫ですよ、メイさま」

メルヴァイナの目が少し泳いだ気がする。

そんな最中、

「ここにいてくれてよかったわ」

とイネスの声が聞こえた。

振り返ると、いつの間にかイネスとミアの2人がいた。

コーディとグレンの姿は見えない。

「来たわね。それで、あの2人は逃げたのね」

「ええ、逃げたわ」

メルヴァイナとイネスが言うのは、コーディとグレンのことだろう。

何から逃げた?

……もしかして、わたし?

わたしとは会わないつもり?

ちょっと、ショックを受けていた。

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