174話 村の下
夕食後までメルヴァイナには会わなかった。
と言う訳で、早々に食べた夕食後にはメルヴァイナに会ったのだ。
「メイさま、村の転移が完了したようですよ」
わたしの部屋を訪れたメルヴァイナは第一声にそう言った。
「私はこれから様子を見に行くのですよ。村があった場所にはぽっかり穴があるだけになったようです」
1日にして、村があった場所には穴だけ。
超常現象……
ちょっと見てみたくなってくる。
明日、行こうとは思っていたけど。
「わたしも行ってはいけませんか?」
「かまいませんが、もう暗くなりますから、よくは見えないと思いますよ」
「それでもいいです。それと、明日も行ってみたいです。確認しておきたいことがあるんです。それと、村の転移先の様子も見てみたいです」
「わかりました。その後は、王都に行くということでよろしいでしょうか。ドラゴニュートを捜すのですよね」
「そうです! 宰相の弟のアーノルドさんを捜したいです。メル姉は何をしに行くんですか?」
「実は村の下で魔獣を作っていたようなんです。魔獣の骨が村の下からみつかったそうなんですよ」
メルヴァイナはこれまでと変わらない口調で軽く言う。
そうなんですねと一言で流してしまいそうになった。
「え? 村の下で魔獣?」
「そのようですね」
「それは、村の人達が関わっていたということですか?」
「村の人はおそらく関わっていません。利用はされていたと思いますので、間接的に関わっているということはあったかもしれません」
「そう、ですか」
「では、参りましょう! メイさま」
メルヴァイナがわたしに手を差し出す。
特に転移に手を繋ぐ必要はないはずだけど。
差し出されたからには、その手を取った。
「転移先に驚かないでくださいね。穴がありますから」
メルヴァイナの忠告をあまり理解できないまま、成り行きで頷く。
転移先でその意味を知った。
穴がある。
かなりの大きさだ。しかも、深そうだし、闇が溜まっているように黒い。
その上に、わたし達は浮いていた。
きっと、転移先が村の中だったからだ。その村の下に穴がある。
だから、転移先は空中になってしまったんだろう。
ちょっと怖い。
転移した直後は冷や汗が出た。
メルヴァイナが手を差し出してくれたのはこのためだったんだろう。
その黒い穴に一点の淡く小さな火が見えた。
「あれは?」
「行ってみますか? メイさま」
あれが何かの答えはくれない。行って確かめるしかない。
メルヴァイナが警戒するような様子はない。危険はないんだろう。
「はい、行きましょう」
メルヴァイナの言葉と共に降下を始めた。
闇の中に突っ込んでいく。闇に沈んでいくようで嫌な感じだ。
穴の底、火の周りには人が4人いた。
昨日も会ったところで、誰かわからないはずがない。
「そんなところで何をしているのかしらぁ?」
メルヴァイナが彼らに声を掛ける。
それまで、わたし達に彼らが気付いている様子はなかった。
彼らも来ているとは思ってもみなかった。
こんな真っ暗闇の中、どうしてこんなところに?
と思ったが、彼らもここの調査とかをルカから指示されたのかもしれない。
わたし達はようやく穴の底に到着した。
メルヴァイナが光を強くして、辺りを照らし出した。
メルヴァイナが言っていたように、魔獣の骨らしきものが見える。
村の下に眠っていたのはドラゴンじゃなくて、魔獣……
魔獣が下にいたなんて……
穴はかなり深い。
見上げても、暗くてよくわからない。地上との境目もわからない。
どこから出入りしていたんだろう?
出入口は埋めてしまって、転移魔法でしか行けないとか?
考えていると、ミアに声を掛けられた。
ただ、ミアの様子が少しおかしい。よろよろしている。座っていたから、足が痺れたのだろうか。
そんなことを思っていると、ミアは何でもなかったように穴に落ちたなんて言う。
わたし達も転移先は穴の上だったから、彼らもそうだったんだろう。
普通なら、死んでいるような高さだ。
ただ、痛みはある。つらいに決まっている。
ルカは何も言わなかったんだろうか?
彼らにひどいことはしないでほしい。
ヴァンパイアはかなり無茶をする。それを他人にも押し付ける。
あんな洗礼の儀をするくらいだ。
わたしがもっとしっかりしないといけない。
本当かはわからないけど、今はわたしが魔王だ。宰相に話も聞いてもらえる。
よく考えて、行動しないといけない。
わたしがここに来た目的は彼らにも話した。
わたしがどこか遠くの国から転移させられてきたというようなことは察してもらえたと思う。
実際、遠くの国の出身だと言ってある。
世界が違うのか、惑星が違うのか、わたしには未だわからないけど。
転移は転移なんだと思う。
メルヴァイナが穴の底は嫌だというので、彼ら4人と穴から出た。
わたしもこんな穴の中にいたくない。
穴を出ても、辺りは真っ暗。
ここにはもう、民家もない。
光を発するのは、メルヴァイナの魔法を除くと、空の星だけだ。
メルヴァイナとイネスは、村の人達が利用されていたということについて話している。
村の下の魔獣製造施設……
「それは前の魔王の為なんでしょうか。前の魔王が自殺したのは100年くらい前で、宰相の弟の失踪もそれぐらいみたいです」
わたしは口に出していた。
答えが得られないことはわかっている。
メルヴァイナの答えも予想通りだった。
ただ、気が済むまで王国に滞在してもいいのだとメルヴァイナは言った。
今の状態で投げ出したくなんてない。
全部人任せにはしたくない。
邪魔だと思われてるかもしれないけど。
しばらくして、わたしはメルヴァイナと魔王国へ一旦帰った。




