173話 相談役?
翌日、わたしは魔王国にいる。
王国のフォレストレイ侯爵家でもよかったけど、コーディもいないし、他人のわたしだけ滞在するのもどうかと思ったからだ。
朝から、ドレイトン先生と剣術の稽古を行った。
まあ、運動は必要であるし、多少は戦える方がいい。
わたしだけ全然強くなれないことを拗ねている訳ではない。
宰相の話では、この日に村全てを魔王国へ転移させるらしい。家も畑も全て。
転移魔法はそんなこともできるんだと驚いた。
突然、村が消えてしまうことになる。
神隠し? あ、でも、今回は村ごと。
王国の人が見れば、どう思うんだろう?
まあ、あの村自体あまり知られていないようだから、案外、何かあったようなという感じで終わるのだろうか。
村一つとなると、さすがにそれはないか。
と、自室で一人、そんなことを考えている。
昨日のことはなかったことにしたい。
考えないようにしていた。
メルヴァイナ、そして、イネスにコーディのことが気になっていると気付かれているんだろうか。
イネスとは前にも少し、フォレストレイ侯爵家でそういうことを話したから、その時から知っているかもしれない。
結局のところ、イネスはコーディのことをどう思っているんだろう?
何とも思っていない、ただの幼馴染だって、言っていたけど、本当なんだろうか?
わたしに遠慮してるとか?
わたしがコーディを好きだから、コーディからのプロポーズを断ったんだろうか?
イネスの気持ちがわからない。
わたしはやっぱり、彼らと会わない方がいいんだろうか。
本当にイネスがそれを理由に断っていたとしたら、コーディがわたしを恨んでも仕方ない。
だから、コーディから拒絶されて……
もしかして、ストーカーみたいに思われてる?
……確かに、行く先々にわたしがいる訳である。
わたしって、すごく迷惑?
はぁぁぁとため息を吐く。
ここには家族はいない。だから、わたしは彼らをその代わりとして考えていたのかもしれない。
わたしが彼らを振り回してる?
どうすればいいかわからないよ……
やっぱり、人間関係は大変だ。もう人間じゃないけど。
この日のわたしははっきり言って、暇だった。
きっと、他の皆は忙しくしているのだろう。
なのに、わたしにはすることがない。
転移魔法も使えないわたしでは役に立たないのだろう。
それもあり、すごすご魔王国に戻ってきてしまった。
全然だめだ……
元の世界に戻る手がかりなんて、全く見つかってない。
これじゃあだめなのに……
お昼ご飯の後、ベッドに転がっている。
この後、どうすれば……
広いベッドの上でごろんごろんと転がる。
前の魔王はどうだったんだろう?
自分から動かないとどうにもならない。
誰かがやってくれる訳がないし、勝手にほしい答えを教えてはくれない。
わたしはがばっと起き上がり、ベッドを降りた。
動くしかない。思った時に動かないと動けなくなる。
わたしは部屋を出た。
向かった先は宰相の執務室だ。
行き方は覚えた。
いきなり来て入れてもらえるのかと思ったが、あっさり許可が出て、すぐに招き入れられた。
「魔王様、本日はどうされましたか? シンリー村の村人の亡命の件でしたら、順調だと報告がございました」
「そうなんですね……」
宰相には会えた。笑顔なんて見せないような堅そうな宰相だ。
そんな宰相を前にわたしは早速、言葉に詰まった。
会えばなんとかなると思ったちょっと前の馬鹿なわたしを責めたい。
そう、前の魔王だ。
「あの、前の魔王は普段、何をしていたんですか?」
「何もされておりません。魔王様は最低限、魔力を供給さえしていただければそれでよいのです。魔王国の統治も私が代理で行えます。魔王様が希望されるのでしたら、そちらでも一向に構いません」
「わたしにできることはあるんですか?」
「正直に申し上げますと、魔王国の統治は今のあなた様では不可能でしょう。関わりたいとおっしゃるのでしたら、しっかり勉学に励み、経験を積んでくださいませ。王国の件でもよい経験になるはずでございます」
要は今は王国のことに集中するようにということだろうか。
確かにこんな中途半端で投げ出すようなことはしたくない。
明日は王国に戻ろうと決意する。
”神の御使い様”おそらく、宰相の弟に会うかもしれない。
「アーノルドさんには会いたくないんですか?」
前の魔王とも唯一会っていたという宰相の弟。魔王が自殺したぐらいに行方不明になった……
何があったんだろう?
「弟とさほど交流はありませんでした。必要とあれば、会いたいですが、そうでないのでしたら、会う必要もありません」
まあ、兄弟といっても色々だろう。宰相とその弟は親しくなかったのかもしれない。
どうして、宰相の弟は魔王国を出て行ったんだろう?
魔王と関係があったのなら、宰相の弟は魔王について重要な何かを知っているのかもしれない。
そう言えば、わたしがこの世界に飛ばされて彷徨った森はシンリー村に近い。そのシンリー村には”神の御使い様”が出没していた。
ただの偶然で無関係なんだろうか?
「魔王様」
わたしが考え事に耽っていたからか、宰相が声を掛けてくる。
確か、あの森でも、王と呼ばれた気がする。
それは夢の中だったかもしれない。本当に呼ばれたのかも、あやふやだ。
誰かが王と呼んでも、夢なら、全くないとも限らない。
元の世界の人がわたしをそう呼ぶことはありえない。
ただ、魔王国の関係者なら、ありえる。
もしかして、わたしを呼んだのは、この世界に呼んだのは、宰相の弟かもしれない。
「明日、王国に戻ります」
わたしは宰相に宣言した。これで、明日、絶対に行かざるを得ない。
「承知致しました。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
なんだか、最近、宰相が相談相手のようになってないだろうか?
という素朴な疑問を感じながら、宰相の執務室を出た。




