172話 ウィンビルでの交流
わたしには転移魔法は使えない。
デリアの家や周りの家から漏れる光では心許ない。
わたしにどうしろというのだろう?
わたしでは魔王国に帰れない。
デリアの家に泊めてもらうべきだろうか。
そう考えていた時、イネスからウィンビルという町に転移するというようなことを言われた。
転移魔法なんて、使えるのだろうか?
後、ウィンビルがどこかわからない。
その間にも、コーディが転移魔法を使った。
一瞬で、部屋の中に移動した。
すごいと思った。ちょっと前まで普通の人間だったのに。
思わず、コーディを見てしまう。
それに気付いて、すぐに目を逸らした。
知らない間に闇魔法だけでなく、転移魔法まで使えるようになっていたなんて……
益々、わたしとは差ができてくる。
ミアも転移魔法が使えるのだと聞いた。きっと、イネスやグレンも。
イネスからはここに泊まることを提案される。
メルヴァイナが迎えに来てくれるかはわからない。それならここに泊まらせてもらうしかない。
部屋にはベッドが一つだけある。
この部屋の床でもいい。わたしが押しかけたようなものだから当然だ。
ただ、ここはコーディの部屋だったらしい。
速攻で、コーディに拒否されてしまった。
わたしが彼を襲うとでも思われたのだろうか?
出ていってほしいと冷たく言い放たれてしまった。
結構、つらい。
好きな人から冷たくされるのはつらい。
できるだけ顔や態度には出さず、部屋を出ていく。
ちょっと、表情がなかったかもしれない。
「メイ、ボクの部屋に来て。今日は一緒に寝よう」
ミアが満面の笑みで、わたしの手を引く。
何だか、ミアの方が年下なのに、わたしの方が年下のようだ。
「メイ、剣術はどう? 続けている?」
イネスが相変わらずの淡々とした口調で聞いてくる。
「はい。ウィリアムとアーロにも相手をしてもらいました。上達はまだまだですが」
「それはよかったわ。あの2人は立派な騎士だから」
イネスはそう言うと、自分の部屋に入って行った。
グレンは既に自分の部屋に入ってしまったのか姿が見えない。普段通りだと思う。
わたしはミアの部屋で過ごすことになった。
ミアには、闇魔法や転移魔法が使えるようになった経緯とか、王都を出てからどうしていたのかを聞いた。
その時、ドアの外から、
「メイさま、今、よろしいでしょうか?」
とメルヴァイナの声が聞こえて来た。
ミアに確認を取り、ドアを開けた。
メルヴァイナが部屋に入ってくる。メルヴァイナの後に続いて、イネスも顔を出す。
どうしてイネスが一緒かはわからないけど、メルヴァイナが来たということはわたしを迎えに来たのだろう。
「メイさま、遅くなり申し訳ございません。彼らと少しは交流できましたか?」
「少しは。コーディには追い出されましたけど」
「そうなのですか? 仕方ないですね。あの子のことはお嫌いですか?」
「え? 嫌いじゃないですけど。普通です」
わたしは嘘を言った。
コーディが好きだと気付かれたくない。もう気付かれているのかもしれないけど。
「今は、わたしが嫌われています」
自虐的だなと思いながら口にする。
「ちょっと色々あって、情緒が不安定なだけですよ」
「そう、でしょうか……」
「ええ、コーディがメイを嫌うはずがないわ」
「うん。そうだよ、メイ」
イネスとミアも否定してくれる。
でも、そんなはずはないだろう。
「メイさまには、好きな男がいるのですか?」
メルヴァイナがあまりに直球で聞いてくる。
コーディが好きだと、心の中で呟く。
口に出せるはずもない。
「そうですか。いるのですね。私はメイさまの幸せを願っています。それに、長生きしていただかないと魔王国としても困りますから、協力できることがあれば、いつでもしますよ」
少しでも顔に出ていたのだろうか。元々知っていたからかもしれない。
メルヴァイナは断定して話を進める。
わたしは、沈黙するしかない。
本当はコーディに抱き着きたいし、そんな光景を妄想してしまう。
更に嫌われてしまいそうだ。
それに、顔に出てしまいかねない。
だ、だめだ。
何も考えてはいけない。
本当にだめだ。
滅茶苦茶、葛藤していた。
「メイにもそんな人がいるんだ。ボクにはまだいないよ。いいなぁ」
「でも、わたしを好きになってはくれないから」
ミアの言葉に思わず、そんなことを口走っていた。
メルヴァイナとミア、それに、イネスでさえ、悲しそうな顔になってしまった。
結局、この日はメルヴァイナと魔王国へ帰ることになった。




