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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ⑤
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167話 シンリー村の転移

翌朝、朝食の席に、メイとメルヴァイナはいなかった。

イネスとミアからはまたもや何とも言えない視線を向けられる。

メイに何か聞いたのかもしれない。

グレンはいつもと変わらないので、ほっとする。

どうすればいいかなんて、わからない。

食事の後、タイミングよく現れたルカとリビーと共にリビーの魔法で転移した。

そこはシンリー村ではなかった。

近くに建物も木も何もない見晴らしはいいが、殺風景な場所だ。

おそらく、魔王国のどこかなのだろう。

それに、知らない者がおそらく50人はいる。

勿論、シンリー村の村人ではない。

一見、普通の人間に見えるが、おそらく、人間ではないだろう。

僕達の、というより、ルカの姿を見つけ、彼らが集ってくる。

「メレディス様、準備はできております」

彼らの一人がルカに言う。

ルカは鷹揚に頷き、僕達を見た。

「まずは村人を転移させる。それは君達に行ってもらう。村人と面識のある君達の方がいいだろう? 村人には近くの町の講堂にいてもらう。その後、彼らがこの場に村を転移させる。わかったかい?」

「俺達は、村の転移はしなくていいのか?」

グレンがぶっきらぼうに聞く。

「緻密な作業だからね。経験のある彼らが行う方がいい。君達は安全な所で方法を見ているといいよ。勉強になるから」

「村は部分毎に分けて転移させるとのことですが、あれだけの人数がいるのですか?」

「残念ながら、あの広さを転移させるには、必要だ。魔力にも限りがある。1人で一度に転移させられるのは、魔王様ぐらいだよ。それじゃあ、ここにポイントを作って、町に転移する」

僕達は転移のポイントを作成すると、ルカの転移魔法で転移した。

着いた先は比較的広い部屋の中だった。

リビーは転移していないので、ここにいるのは、ルカを含め、僕達5人だ。

「ここに順番に村人を転移させてもらう。僕はここにいる。リビーが合図を送るからそれに従ってほしい。1人で、大体、25人から35人ぐらいを転移させるといい。村人はできるだけ君達の周りに集めてから転移してくれたまえ。何かあっては取り返しがつかないからね。血塗れの惨状にはしたくないだろう? 十分に気を付けてくれたまえ」

転移魔法はある意味で、危険な魔法でもある。

失敗は許されない。

村人の命が掛かっているといっても過言ではない。

今は、これに集中しなくてはならない。

「わかりました」

「ここにポイントを作り、村へ行ってくれたまえ。頼んだよ」

僕達4人は転移のポイントをこの部屋にも作り、シンリー村へと戻った。

村の教会前には既に村人が集まっていた。

しかも既に4つにグループ分けまでされている。

「来ましたね! 村人全員確認しましたよ! 体調の悪い村人もいません! 王国にもバレていません! 準備万端です!」

リビーが自信満々、大声で告げる。

「最初は俺が行く」

グレンが名乗り出て、村人の元へと歩いていく。

グレンは躊躇なく、村人と共に転移していった。

ミアは緊張しているように思える。

ルカに脅されたからだろう。

「ミア、これまで通りにすれば、何も問題ない。今、この村に戻った時と同じように。ルカも僕達にできると思って任せてくれたんだ」

「は、はい! ボクもできます!」

ミアはしっかり村人を連れて転移した。

イネスも転移し、最後は僕だ。

最後のグループには、村長とその家族に、デリアやその甥もいる。

これで、村人は誰もいなくなる。

村人ももう覚悟を決めていたのか、特に騒ぎも起きず、円滑に進んだ。

「これから行くのは、魔王様の国なんですね。きっと素晴らしい国でしょう。本当に行っていいのかという思いはあります」

デリアの甥が独り言のように言う。

デリアは僕をちらりと見たが、それ以上に目を合わせてくれない。

僕にしても、彼らにしてもこんなことになるとは夢にも思っていなかった。

僕も村人を連れて、魔王国へと転移した。

全村人が無事に到着したとルカから聞いた。

念のため、ここが本当に魔王国なのか、ルカに尋ね、魔王国だという回答を得た。

現状、ここが魔王国なのかは、ルカの証言しかない。

僕達はルカに連れられ、再び、村人のいなくなった王国のシンリー村へと戻った。

村には既に、先ほど会った50人程の者達がいた。

村に印をつけていっているらしい。

1度に転移させられないので、区切って、その配置の通りに転移させるのだろう。

それぞれの区切られた区画が転移先で重なってはいけない。だから、緻密な作業と言っていたのだろう。

魔王国では家や土地毎、移動するということがあるのだと思う。

彼らはその専門の者達ということだろう。

これに関しては、ルカやリビーも全く手を出していない。

転移させていく段階になり、転移魔法により、村の一部分が地面毎、消え失せた。村の半分がなくなったのを見届け、僕達は魔王国の村の転移先の場所に転移した。

眺めていると、少しずつ村が現れる。

区画毎に順番に出現していく。

かなり労力の必要な作業だろう。

休憩を挟みながら、村全てが魔王国に現れる頃には、既に夕刻となっていた。

何もなかった土地に王国にあった頃と寸分違わぬ村の姿が見えた。

墓地や畑まである。

「後は村人だけだ。それは君達に頼むよ」

そう言うルカと共に再び、講堂へと向かう。

村人と会い、最初と同じように、転移魔法で移動先の村へと村人を転移させた。

遠くに見える景色は多少違うが、村はそのままだ。移動しているとは思えない程だ。

村人達も本当に移動したのか、本当に魔王様の国なのかと口々に言い合っている。

僕にもはっきり言って、未だに確証がない。

ここがどこかわからない。魔王国の地図も見たことがない。

傾いた日の光が作る長く暗い陰。

村の家々は変わっていない。村の人々も同じだ。

ただ、どこか不安になってくる。

本当にそうなのか?

全てを信じてはいけない。

よく観察して見極めなければならない。

魔王国は本当に安全なのか?

魔王国の民にはなったが、魔王国を知らなすぎる。

メイは魔王国にいて、本当に安全なのか?

魔王国の全てが虚構なのではないかとすら思えてくる。

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