165話 メイとの関係
「ここにいるのは、全員、魔王国の関係者なんですね?」
デリアが僕達を見回して言う。
「その通り。私達は同じ魔王国の民よ」
メルヴァイナがデリアを迎えるように、手を広げる。
「メイ、魔王国で不自由はない?」
「今の所、特にありません。ここにも戻って来られましたし、生活にも困っていません」
メイの言うように、魔王であるメイは当然のことながら、僕達も生活には困っていない。
この村人達に対してもまた、生活は約束通り、保障されるだろう。
「それなら、よかったわ。そう言えば、あの護衛の2人がここを発つと挨拶に来たわ。彼らも魔王国の方なの?」
「あの2人は違います。この国の騎士なんです」
「そうなの? 騎士が護衛? この王国の王族や貴族は魔王国のことを知っているの? 私達は何も知らなかったわ」
「この王国の人達は知らないはずです。あの2人は理由があって知っているだけです。あの2人は王国騎士として護衛をしてくれていた訳じゃないんです」
メイがデリアに説明するが、僕もなぜあの2人がメイの護衛をしていたのかよくわからない。
兄が騎士の任務を休んでまで、ゼールス領に来ていたのは意外だ。
友人であるアーロの為ということも勿論、あるだろう。ただ、兄は騎士の責務を重視すると思っていた。
「あの2人は貴族なの?」
「次期フォレストレイ侯爵と次期ゼールス伯爵なんです」
「……そ、そう。次期侯爵に、領主様の……床で寝させてしまったわ……そんな方を護衛にして大丈夫なの……?」
デリアはさすがに驚いたのか、呆然としている。
彼女はメイが魔王、魔王国女王だと知らないので、そう思うのは当然だろう。
メイはおそらく、自分が魔王だと知られることを望んでいない。
「ま、まあ、コーディのお兄さんだから……」
弱々しい声でメイが答えている。
兄とメイが話していた姿を思い出してしまう。仲の良さそうな2人の姿を。
兄を王国騎士として尊敬している。それはずっと変わらない。兄のような騎士になりたかった。
ただ、メイといるのが、どうして僕ではないのかと考えてしまう。
メイが幸せであるなら、それでいいはずだ。メイの傍にいるのが別の誰かでも。
でも、駄目だった。相手が兄でも。
メイの態度は、僕以外には変わっていない。
迷惑に思われているんだろう。
魔獣が襲ってきた時、抱き寄せたことを怒っているのかもしれない。
彼女を護る為だったとしても、するべきではなかった。
彼女を意識するようになって、妹だと思うことはできていない。
僕はメイに軽蔑されているのかもしれない。
「コーディ」
イネスの声にはっとした。
「全く聞いていなかったわね。しっかりしてよ」
それだけ言って、何を話していたかは教えてくれない。
兄とアーロのことを話していたはずだ。その後、誰かが何か話していた気がするが、聞いていなかった。
「それじゃあ、明日、魔王国で会いましょう」
メルヴァイナがデリアに言うと、メイを連れて、家を出ていく。
後に続いて、グレンも出ていく。
「コーディ、ミア、行くわよ」
イネスに促され、僕とミアも家を出た。
「私はまだすることがあるのよ。先に帰っていいわよ。メイを頼んだわ。それじゃあね」
メルヴァイナは僕達に一方的に告げ、転移魔法でどこかへ消えた。
「帰って、といっても、どこに帰ればいいのかしら?」
「どこでもいいだろ。あいつも好きな所でいいと言っていたからな」
イネスとグレンは諦めているように、いつもの調子だ。
転移魔法を使える種族は全て、こうなのだろうか?
すぐにいなくなる。
「お、置いて行かれた……」
メイが小さく呟いていた。
せめて、メイを魔王国に送ってから、することをしてほしい。
「彼女には困ったものね。メイ、悪いけれど、魔王国に転移はできないわ。近くのウィンビルという町でいいわね。コーディ、お願いするわ」
「わかった。ウィンビルに転移する」
イネスがすればいいのではないかと思ったが、誰がしても変わらないので、言われた通り、転移魔法を発動させた。
着いた先も暗いが、確実に室内だ。踏みしめる感覚も土から木の床に変わっている。
明かりを点けると、間違いなく、ウィンビルの宿の部屋だ。
「闇魔法だけじゃなくて、転移魔法も使えるなんて、すごいです」
メイが笑顔を向けてくる。
ただ、僕と目が合うと、気まずそうに、視線を外された。
「メイ、ボクも頑張って、転移魔法が使えるようになったよ。光魔法は使えないんだけど」
「そっか、ミアもすごい」
「ボクがメイを好きな所に連れていくよ」
「うん、ミア、期待してる」
メイとミアは以前と変わらず、楽しそうだ。
「メイはどうする? ここに泊まる?」
「はい、イネス、お願いします。この部屋の床でもいいので」
「それはだめよ。ベッドを使って。コーディを床で寝させればいいわ」
「こ、ここって、コーディの部屋なんですか?」
「そのはずよ。といっても、宿の一室だから、一時的に使っているだけ」
「そのようなことは困ります。ミア、メイと同室でお願いしたい」
極力、平静を保ったつもりだ。
「休むから出て行ってほしい」
口調が少し、冷ややかになってしまった。
メイと同じ部屋で寝るなどとんでもない。
しかも、それを想像してしまった。
イネスもわかっているはずだ。まだ結婚していないにもかかわらず、メイと同室などありえない。
僕は、4人を部屋から追い出し、一人になった。




