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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ⑤
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164話 誇りある信徒

部屋の中に入ると、

「ボク達が今まで、自由に過ごすことに意味があったのですか? ボク、考えてもわからなくて――」

そう言って、ミアがルカを不安げに見つめる。

僕も同様に思っていた。多分、イネスやグレンも。

「誤解を与えて悪かった。言葉通り、自由に過ごしてもらってよかったんだよ。村長が任せるように言ってきたのだから、任せる方がいい。と言うことで、私達のすることはなくなった訳だよ」

「ほ、本当にそれでよかったんですか?」

「それで拒否するなら、仕方のないことだよ。そろそろ、行こうか」

魔王国にとって、拒否してくれる方がいいのだろうか?

魔王国に利はないと言っていた。

魔王の要望だから、仕方なくということかもしれない。だから、条件を付けて来たのだろう。

全ての村人が同意しないなら、後に不満や諍いとなるかもしれない。

僕達はルカの転移魔法でシンリー村へと戻った。

村からはもう、日は見えないが、東の空にはまだ、日の名残りがある。

陰が曖昧になり、刻々と、暗闇に近づいていく。

「ボスっ! 何もありませんでしたっ!」

突然、場違いな程の明るい声が響いた。

「わかった」

リビーの声に対して、落ち着いた一声でルカは答える。

リビーは僕達の後ろからついてくる。

村長の家を訪ねると、すぐに村長に迎えられた。

「結論は出ましたか?」

ルカが村長に優しく尋ねる。

村長は頷き、

「私達を魔王国に受け入れていただきたくお願い致します。これは、村の総意です。宜しくお願い致します」

そう言うと、頭を下げる。

「承知しました。では、明日1日で全て終わらせます。私達の指示には従っていただきます」

「はい、従います」

「まずは、明日の朝、教会の前に全ての村人を集めてください。最低限の荷物でかまいません。明日の夜までには村ごと魔王国へ移動させます」

「はい、必ず、そのようにします」

村長はルカに従順に応える。

「頼みます。では、また、明日の朝にお会いしましょう」

ルカは僕達を促し、村長の家を早々に出た。

はっきり言って、拍子抜けだった。もっと村人は難色を示すかと思っていた。実際、そういう村人はいたのかもしれない。他の村人には会っていないので、その背景はわからない。

ただ、メイの望みは叶いそうだ。

「今日はここで解散でいいかい? 好きな所で休むといい。明日の朝にシンリー村の教会の前に来てくれたらいい」

ルカは僕達にそう言うだけ言って、立ち去ろうとする。

「あの、兄のウィリアムとアーロはどこに?」

背中を向けるルカに尋ねた。

「彼らなら、私がセイフォードまで送ったよ。明後日には、王都へ送り届ける予定だ」

それだけ、答えると、ルカは転移魔法でどこかに転移した。

「ああ! ボス! 待ってくださいっ! それでは、おやすみなさい!」

リビーも慌てて、転移魔法を使った。

先程より、大分暗くなっており、いくつかの家からは微かに明かりが漏れている。

村に留まっても、意味はないだろう。

「あら、こんな暗いところで何をしているの?」

唐突に、メルヴァイナの声が近くから聞こえた。

近づいていたことには全く気付かなかった。

「今、ルカと別れたところです」

「ええ、そうね。それは知っていたわ。暇なら、私に付き合って」

メルヴァイナは、付き合わないという選択肢はないように言う。

彼女が踵を返し、歩き出すので、僕達は追いかけるしかない。

暗く、周囲は見えづらいが、彼女が向かう先の予想はできた。

その予想は合っていた。

着いた先はデリアの家だった。

メルヴァイナはノックもせずに、家の中へと入る。

「メル姉、急に出て行ってどうしたんですか?」

家の中から、メイの声が聞こえた。

「この子達を連れて来たのです」

メルヴァイナによって、開け放たれたドアは僕達に入るように強制しているようだ。

入りづらい……

家の中にはメイがいる。

僕は完全に嫌われてしまったのだろう。

「メイ! やっと、ちゃんと会えた! ボク達はお仕事中で秘密にしないといけなくて」

「ミア! わかってる。わたしも仕事の邪魔はしたくないから」

メイとミアは嬉しそうに言葉を交わす。

「メイまでこの村に来るとは思わなかったわ」

「イネス、わたしもこんなところで会うとは思いませんでした」

ミアもイネスも、メイとは何のわだかまりもなく、話している。

相手が魔王であっても、何も変わっていない。

僕もこれまでと同様に、メイに話しかければいい。応じてもらえるかはわからないけれど。

「早く入れ。いつまで俺を外にいさせる気だ」

グレンに押され、デリアの家の中に入る。ドアは勢いよく閉まる。

「お久しぶりですね。フォレストレイ様」

デリアが僕に声を掛けてくる。

彼女には以前からよく思われていない。僕に対する口調が若干、冷たい。

「お久しぶりです」

「フォレストレイ様、どこまで勇者の旅にメイを同行させたのかわかりませんが、メイは魔王国と既に関わっているようです。どういうことでしょう?」

デリアは完全に僕を責めている。

「責めている訳ではありません。魔王様の御許に赴くことはむしろ、幸福です。ただ、魔王様は生贄の勇者なんて、求めてはいません。村長が言いましたように、魔王様への侮辱です。勿論、悪いのは、この国でしょう」

「それは理解しました。おっしゃる通り、魔王国は生贄を求めてなどいませんでした」

僕が勇者の共だと知っていたから、魔王信仰の信条を守る彼女からすれば、魔王を侮辱する行為だということで、冷たかったのだろう。

ただ、それだけではないような、気もする。

「そう言えば、明日からは同じ魔王国の民ね。すぐに慣れないかもしれないけど、支援はあるわ。これまでの何処からかの寄付のように」

メルヴァイナが口を挟んでくる。しかも、胡乱な言い方だ。

寄付というのが、豊かに暮らせている理由だろう。

「それにはあまり頼りたくないですね。誇りある魔王様の信徒として、お手を煩わせるようなことはしたくありません」

「そう。それはいいことね」

メルヴァイナとデリアが話している時に、ふと、メイと目が合った。すぐに目を逸らされたが。

今のこのデリアの家の中は、余所余所しく、ギスギスしている。

どうして、わざわざ、僕達を呼んだのかわからない。

単に、メルヴァイナが居づらいだけではないのか?

という疑いが消えなかった。

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