162話 村の説得
僕達はルカと共に村へ戻った。
魔獣が襲ってきていたとは思えない程、村人達は落ち着いているように思う。
それはこの村が魔王信仰であるが故のようだ。
村人達にとって、魔王は神だ。
ライナス自身は否定していたが、ライナスの容姿は神の使いと同じ特徴を持つ。
その為、村人達は彼も神の使いだと信じているようだ。
つまりは、村人達にとって、神が護ってくれたということだ。
さすがにメイが魔王だとは村人達は知らないだろう。
それでも、ライナスが神の使いだということは、ある意味では正しいということになる。
どんな理由であれ、混乱状態になるよりはよほどいい。
ただ、これから、また、事を荒立てることとなる。
まずは信じてもらわなくてはならない。
この国がこの村を切り捨てたことを。勇者と同じように。
僕もルカに聞いただけの話だ。それでも、きっと、ルカの話は真実だろう。
この国はそういう国だから。
ゼールス卿でもこの村を庇うことはできないだろう。
助ける手段は魔王国へ逃がすことだけだ。
メイの為にも、必ず、説得しなくてはならない。
向かった先は、勿論、村長の元だ。
「嘘を申しており、申し訳ございません」
僕達は村長とはまともに会話をしていなかった。それに、僕達は今、転移先の宿に宿泊している。
さすがに嘘の名を名乗っていたことの謝罪は必要だろう。
「いいえ、フォレストレイ様! あなた様には、二度も助けていただきました。感謝してもしきれないぐらいです!」
村長は、すぐにも謝罪を受け入れ、興奮気味に言う。
「本日は、非常に重要な話があり、参りました」
ルカが興奮した村長を鎮めるように、冷静な口調で言う。
「は、はい。かしこまりました。あなた様ともう一方のお二人のことは村中、理解しております」
村長は、何を理解しているのか、敢えて言っていないが、ルカとライナスが神の使いだとかいうことだろう。
彼らを説得するにはそのことを利用するのが、一番手っ取り早いと思える。
「話というのは、王都の動きです。貴方方の話に出ていました第2王子が反逆の罪で捕らえられました。その第2王子とこの村とが繋がっているとして、同じく反逆の罪でこの村の者達の処刑と廃村が決まりました」
ルカははっきりと言った。
村長の口が半開きになり、声を発しない。
ルカは村長を見つめたまま、反応を待っているかのようだ。
「処刑ですか……?」
「残念ながら、その通りです」
「何かの間違えでは!? 反逆など、とんでもありません! こんな辺鄙な村に何ができると言うのでしょう!? 第2王子には会ったことすら……」
「ただ、使者とは会っていたはずです」
ルカは特に感情を出すことない。それが冷酷にも思える。
「それは……」
「私に言い訳をしたところで、国の決定は覆りません。そもそも、私はこの国とは何の関係もありません」
「ど、どうすればよろしいのでしょうか!?」
「この国の民として、国の決定に従うか、もしくは、逃亡するか、ではないでしょうか? ああ、事実、反逆するという選択もあります」
「……」
村長は言葉に窮する。
どれも辛い選択だ。
村長にとって、処刑が本当の事なら、このままここにいれば、処刑される。逃亡すれば、住処も仕事も失くし、路頭に迷う。反逆は……ありえないだろう。
ルカは未だ、魔王国のことは持ち出さない。
「ボク達の国に来るといいです!」
ミアが大きな声を上げた。
全員がミアに注目する。
「それしかありません。ちゃんと助けてくれます。だから、来てください」
ミアが村長に訴えかける。
「この国の出身ではないのですか?」
「ボクは魔王国の民です! ボク達の王は魔王様なんです!」
ミアは誇らしげに村長に向かって言ってのけた。




