159話 わたしの孤独
まだ午前中で、教会にいた時間も思ったほど長い時間じゃなかった。
この村には、デリアに会いに、それに、ウィリアム、アーロと共にアリシアのことが何かわかればいいと思ったから来たのだ。
デリアには会えた。
でも、他はわからないまま。
何だか、わたしだけ、蚊帳の外のような気がする。
この村では信仰対象でもあるのに、役立たずな魔王だ。
わたしでもできることって……
そう言えば、神の御使い様はドラゴニュートかもしれないのだ。
ドラゴニュートは数が少ない。
それなら、全てのドラゴニュートは把握されているはずだ。
その中で、行方のわからないドラゴニュートがその神の御使い様じゃあ。
魔王国が裏で糸を引いていれば、本当のことなんて言わないだろうけど。
というわけで、することは一つだ。
わたしはすぐにリーナにこそっと声を掛ける。
「リーナ、一度、魔王国に戻ることってできる?」
「は、はい。できます」
小さな声でリーナが答えてくれる。
「あと、できれば、宰相に会いたいんだけど」
「わ、わかりました。会えるかはわかりませんが、伝えてみます。少々、お待ちください」
そう言うと、リーナはデリアの家を出て行ってしまった。
することは決まった。
一度、魔王国に戻る。
ただ、ウィリアムやアーロは連れていくことはできない。
デリアにも少し出掛けてくると伝えておかないといけない。
コーディ達には、声を掛けるつもりはない。
彼らには彼らのすることがあるんだろう。
わたしが邪魔をすることはできない。
どこか、孤独だ。
わたしだけ、出身国が違うというのでもなく、出身世界が違う。
自殺してしまったわたしの前の魔王もこんな気持ちだったんだろうか。
ウィリアムとアーロに護衛はいらないと伝え、既に出掛けているデリアに伝言を頼み、わたしも家を出た。
家を出たところで、名前を呼ばれた。
俯いていた顔を上げる。
まだあのヘルムを被ったままのコーディだ。イネス、ミア、グレンはいない。
今、会いたくなかった。
「何か用でしょうか?」
冷たいような言い方になってしまった。コーディが悪いわけじゃないのに。悪いのはわたしなのに。
でも、コーディの傍にわたしは要らない。
わたしは要らない……
恋人にはなれないし、妹というにも、やっぱりおかしい。
そんな関係にはなれない。
もう、彼らとは会わない方がいい。
当初の目的を忘れてはいけない。わたしは何としても、元の世界に戻る。
できるだけ早く、彼の前から立ち去りたい。
学校が変わって、疎遠になるようなものなんだ。だから……仕方がない。
コーディからの答えがないまま、わたしは歩き出す。
「メイ、あなたを騙すようなことになり申し訳ありません」
コーディの声が後ろから聞こえてくる。
「わたしは気にしていません。だから、気にする必要なんてありません」
もう嫌だ。わたしが嫌だ。
わたしは足早にその場を立ち去った。
コーディに対して、あんな言い方、あんまりだ。
わたし、最低だ。
色々助けてくれたのに。すごくお世話になったのに。
もう、わたしのことは忘れてくれればいい。顔だけ知っている人というように思ってくれればいい。
「あの子が鬱陶しいですか? 本当に困った子ですね。しつこいと嫌われますのに」
わたしの進路を塞ぐように、メルヴァイナが突然、立ち塞がった。
「メル姉、そんなことは……」
「無理しなくていいですよ。それより、魔王国に戻りたいのですね。リーナは先に戻っています。私と共に戻りましょう」
「はい、お願いします」
わたしはメルヴァイナと共に魔王国へと戻った。




