158話 神の使い 五
今の話では、結局、黒幕はわからない。
聖騎士がどう関わっているのかも、神の御使い様や公爵家の使者が何者なのかも。
あのドラゴンの像も謎だ。
闇魔法が使われているなら、それを使っているのは人間ではない。
魔王国が関わっていないというのは、本当なんだろうか?
最初はもっと疑っていたはず。
聖騎士を捕らえて、精神干渉も行えるはずなのだ。
まあ、それを教えられたのは、魔王国で、だけど。
「あの、ドラゴンの像は? 呪われているという話ですけど。呪いなんて、特殊な魔法ですよね?」
わたしは何気なく尋ねた。誰に、と特定はしていないけど、ルカ辺りが答えてくれたらいいと思った。
特殊な魔法とぼかしたけど、闇魔法のことだと、わかってもらえるだろう。
なんで、ドラゴンの像が呪いの像なのか、結局、デリアには聞けずじまいだった。
「どうして、あの像のことを!?」
村長が驚いた顔でわたしを見た。
「え、えーと、誰かが話しているのを聞いたんです」
デリアの名前を出すわけにはいかないととっさに誰かと言ったけど、あまりいい言い方じゃなかったと後悔する。
村長はその誰かがデリアだと思ったかもしれない。そうなら、デリアが責められてしまうかもしれない。
「あの像を拾ってきたのは、攫われた娘達でした。その娘達の様子はどこかおかしく、その後、像と共に姿を消しました。公爵家の使者より、攫われたのだと、知りましたが」
「神の御使い様が呪われた像だと言ったわけではないんですか?」
「村で呪われているようだと噂になっただけです。本当に呪われているのかはわかりません。神の御使い様を象った像ではあるのですが……」
「その像がどこで拾われたかわかりますでしょうか?」
ルカが優し気な口調で村長に問う。
「いいえ。娘達は覚えておりませんでした。像を拾って、その後、攫われたことも覚えていないのです」
「そうですか。その後、神の使いや公爵家の使者から接触はあったのでしょうか?」
村長は首を横に振った。
もう用済みということで、この村を滅ぼそうとしたのだろうか。
この村の役割って何だったんだろう?
勇者を行かせないこと? 何の意味があるのかわからない。勇者を行かせなくても、魔王国がこの国を襲うことはないだろう。
それとも、まだ、隠していることがあるんだろうか?
「ご協力、感謝致します。この村には引き続き、護衛を置きましょう。村で雇う必要はありません。私の部下を置いて行きます。ああ、些細に思えることでも、気のせいだと思うようなことでも、何か気付いたことがあれば、部下にお知らせ下さい」
ルカは軽く頭を下げると、
「それでは、失礼致します」
と言うと、教会の出口へ向かって優雅にゆったりと歩いていく。
教会は静まり、全員がただ、ルカを目で追っていた。
教会の扉が開き、ルカが出ていくと、その扉が閉まった。
取り残されたわたし達はどうすればいいのか?
で、黒幕は誰なのか?
この場に、わたしも参加させてもらえたけど、最後にちょっと話しただけだ。
村長が解散を告げ、村の人達が教会を出ていく。
「メイ、リーナ、あたし達も」
デリアが席を立つ。
デリアに呼ばれたわたしも席を立ち、村の護衛の4人をちらっと見た。
彼らが誰なのかはわかっている。
言ってくれてもよかったのに、と思わなくもない。
彼らはこの村の護衛を続けるのだろう。
わたし達の道はもう、違うのだろう。
わたしはデリアに促され、教会を出た。
リーナとウィリアムとアーロも一緒だ。
わたし達はデリアの家へと戻った。




