155話 神の使い 二
ライナスと村長、ルカとリビーのやり取りをただ、見ていた。
その4人以外のその場にいる全員がそうだっただろう。
口を出せないのか、出したくないのかよくわからない。
その4人の近くには5つの死体が転がっている。
そんな中、すぐ傍にいるリーナが4人の方へと歩き出す。
リーナがわたしにちらっと視線を送る。
一緒についてくるように言われているのだと理解したわたしはリーナを追いかけた。
「メイ、リーナ、近寄ると危ないわよ!」
デリアまで追ってくる。
わたしもあまり近づきたくはない。
「ライナスお兄様、ルカお兄様」
リーナが可愛い声を2人に掛ける。
「リーナ、遅れてすまなかった」
ライナスが優し気に言う。わたしに対しては絶対にしない口調だ。
「あの2人はリーナの兄なの?」
わたしの横に並んで、デリアがこそっとわたしに聞いてくる。
「いえ、違います。あ、でも、あの金髪の方は従兄だそうです」
「そうなのね。もう、何が何だかわからないわ。あたし達はとんでもないものに騙されていたのかもしれない……」
デリアも村の人達も、色々と疑問はあるだろう。
ライナスやルカやリビーは人間なのかとか、実際に人間じゃないけど、別に、異形になったりしたわけではない。
そういうことは多分、つつかない方が賢明だと思う。
そして、わたしにも疑問に思うことがいっぱいだ。
「私達や村の方々に犠牲は出ておりません。それよりも――」
リーナはそう言って、敵の死体に目を向ける。
「間違いなく、人間の死体です」
そう言って、ルカが転がっている死体の白い仮面を蹴る。
仮面の外れた顔は、黒ずんで、人相もよくわからない。腐敗してはいないけど、直前まで生きていた人間とも思えない。
アリシアと同じだ。
この村も全滅させられていたかもしれない。
この村を利用していて、いらなくなったから全滅させる――そんなことなのかもしれない。
やっぱり、あの聖騎士が黒幕なんだろうか。
わたしは、違うような気がする。
旅をしたのは、ほんの少しの時間だったけど、こんなことをする人達じゃなかった……
「私達はこの死体を調べてみます。お二人はどうぞ、お休み下さいませ。このようなことになり、さぞお疲れでしょう」
ルカがわたしとリーナに向かって言ってくる。
確かにわたしがここに突っ立っていても何も変わらない。
「村の方々も、本日はお休み下さい。明日、お伺いしたいことが多々ございますので」
ルカの声がよく通る。それでいて、穏やかな口調だ。
ただ、まるで、明日、詰問すると言っているようにわたしには聞こえなくもない。
この村は全くの無関係というわけではないんだろう。
「メイ、リーナ、家に戻ろう。あの二人はどうする?」
デリアはウィリアムとアーロに視線を向ける。
ウィリアムとアーロは普通の人間だ。二人も疲れているだろう。
「呼んできます」
わたしはそう言って、ウィリアムとアーロの元へ走った。
「ウィリアム、アーロ」
二人に声を掛ける。傍にいる4人の村の護衛の人達もわたしの方に顔を向ける。顔は隠しているので、表情はわからない。彼らは魔王国出身だろうから、わたしのことも聞いているかもしれない。
「あのような者を一瞬で倒すなんて、まるで格が違う。私達では歯が立たなかったよ」
アーロが困ったような顔をする。
仕方ないことだ。あの二人は人間じゃないし、魔王国でも上位種。あの二人に勝てたら、めちゃくちゃすごいと思う。
あの二人がおかしいのだ。
「あの二人は人間離れしてるから。それより、デリアがもう、家に戻ろうって。私達の護衛でもあるんだから」
二人が頷く。
村の護衛の人達に軽く会釈し、ウィリアム、アーロを連れて、デリア、リーナの元へと戻った。
村の護衛の人達とはそういえば、全く話したことはない。
ルカやリビーとは知り合いのようだった。
リビーやあの4人はルカの部下なんだろうか。
まあ、今は何も考えたくない。
また、何かが襲ってこないか不安はあるけど、ルカやライナスもいるから多分、大丈夫だろう。
後は明日、考えればいい。
もう、今日は寝る!
とそんなことを考えながら、デリアの家へと戻った。




