154話 神の使い
何もできず、見ているだけ、というのも辛い。
つくづく役立たずだと思ってしまう。
よくわからない不気味な敵を相手に戦っている6人を見ていることしかできない。
足止めはできているけど、決定打がない。
敵の動きは単調だと思ったけど、自己防衛機能でもあるかのように、しっかりと攻撃を防いでいるように見える。
そんな時に暗闇から知った声が聞こえて来た。
「まさかこんなことになっているとは。驚きましたよ」
姿は見えないけど、間違いなく、ルカだ。
全く驚いているように聞こえない軽やかな口調で言う。
ルカが近づいたのか、その姿を確認できる。
ルカは一人ではなく、その隣にはなぜかライナスもいた。
メルヴァイナとティムは確認できないから、来ていないんだろう。
「君達、よくやってくれた。後は私達が代わろう」
優雅な仕草にゆったりとした足取りでルカが敵に近づいていく。
それに合わせ、ライナスも歩き出す。
ルカの放つ魔法の光が周囲を照らし出す。
2人は見かけはいいので、救世主のような雰囲気が演出される。わたしだと絶対にそうはならないけど。
「私達が相手です」
ルカがそう言うと、5人の敵がぎこちない動きで首を動かし、ルカを見る。
5人の敵は相手をしていた6人から急に離れ、一斉にルカとライナスに攻撃を加えた。
ルカとライナスは手にした剣で相手の武器ごと、切り裂いた。
血が飛び散るようなことはなく、ただ、5人の敵は倒れ伏した。
辺りは静寂に包まれた。
今、おそらく、この場にいる全員がルカとライナスに注目しているだろう。
魔法の光も相まって、神でも降臨したかのようだ。
「神の御使い様……」
村人の誰かの呟くような声がした。
そう言えば、神の使いのドラゴンは金色の瞳だと言っていた。
ライナスはドラゴニュートで、金色の瞳だ。ドラゴンの姿にはなれないけど。
ただ、ここからでは金色の瞳だということはわからない。
ルカの金髪がきらきら輝き、ライナスの淡い青色の髪が映える。
しかも、二人の白の装いがより神々しく見える。
「御使い様……?」
村長が前に出る。
「残念だが、そんなものではない。どうして、神の使いがわざわざこの村に来るというのか」
ライナスは村長に向かって、きっぱりと告げる。
あれだけ演出しておいて、否定!?
「あ、いえ、しかし――」
村長がしどろもどろになってしまった。
でも、わたしは思う。魔王が神なら、ライナスやルカは神の使いと言えなくはない。
魔王がわたしだとすると、少し違う気はするけど。
ライナスの言い方はいつものことながら、ちょっときつい。
責められたような村長が可哀そうだ。
ライナスには怯まない方がいい。
「こんなことで私達が神の使いだというなら、私達のどんな命令にも従うのか?」
「……ですが、あなた様の特徴は」
「私がドラゴンだと言うのか?」
「……」
ライナスの言葉に村長は何も答えない。
わたしは心の中で、ライナスはドラゴンの姿になれないけど、ドラゴンだろうと呟く。
「この村中を騙すのは容易いのだな」
「……私達は騙されていたのだと、おっしゃりたいのでしょうか」
「それ以外にどう捉える?」
「……」
「わかったのなら、口を噤んで、大人しく暮らしておけ」
「承知致しました。助けていただき、誠に感謝しております」
村長は恭しく頭を下げた。
「ボスー!! 遅いです! 大変だったんですからっ!」
急に場違いな明るい声が響き渡る。
緊迫した場の雰囲気をこれでもかとぶち壊すようだ。
リビーは無事だったらしい。怪我を負っているようにも見えない。
「あー、聖騎士はですね……に、逃げられました……面目、ないです……」
次は、急に低く暗い沈んだ声でこの世の終わりのように言う。
ちなみに村長は数歩下がりはしたが、どうすればいいのか戸惑ったような様子だ。
「それほどの相手だと言うことだね。そこで、イーノ、君にはあの4人をより戦えるように訓練を頼むよ」
「は、はいっ! ボス! 名誉挽回します! しっかり鍛えて見せますっ!」
元気を取り戻したリビーが食いつくようにルカに迫っていた。




