153話 5人の敵
アリシアと同じなら、あの聖騎士は死んでいるということなんだろうか。
でも、あの聖騎士は話をしていた。アリシアとは違って、意思があるように感じた。
聖騎士とリビーの姿が見えなくなり、この場はとりあえず、犠牲者は出ずに危機を脱した……
と、思ったのも束の間、再び、淡い光が教会のすぐ前に現れる。
すぐに身構える。何が起こるかはわかり切っている。
転移してきたのは、またまた、白い仮面をつけた男だ。
しかも、5人もいる。白い仮面をつけた男が5人。色々と怖い。
次は聖騎士ではない。
ただ、戦闘用の服に身を包んでいる。
魔獣退治の人か傭兵かといった雰囲気だ。
お揃いのもので顔を見せないのが流行なんだろうか?
と、そんなことを考えている状態じゃなく、リビーがいない今、誰が相手をするか。
戦えるなら、わたしが戦うけど、わたしには、全く攻撃に使えない魔力の高さと再生能力しかない。
時間稼ぎにもならなそうだ。
せめて、自分に身体強化の魔法がかけられれば、と思うけど、無理だった……
リーナや、まして、ウィリアム、アーロに戦ってほしいと、わたしから頼み辛い。
村の護衛の人達は村が雇っているから、わたしからは何も言えない。多分、魔王国出身だと思うけど。
ウィリアムとアーロには再生能力もない。村の護衛の人達にも再生能力があるかはわからない。
誰も動かない。5人の敵も動かないし、話さない。
村人達も傍にいる。なのに、誰もいないかのように静まり返っていた。
なんだか、動いたり、音を出したりすると、襲ってきそうに思う。
「あなた方、何をしているのですか? 敵がおります。メイと村人は引き続き、私が護りますので、ご安心くださいませ。心置きなく、戦えるでしょう?」
リーナがゆったりとした口調で、普段通りに優し気な雰囲気で言う。
でも、どうしても、戦えという命令に聞こえる。
「メイ、彼ら6名に身体強化の魔法をお願いできますか?」
リーナはわたしを見つめてくる。
6名ということは、普通の人間のウィリアムとアーロにも戦わせる気だ。
「無茶は言いません。いざとなれば、仕方ありませんので、私が出ます」
リーナにお願いされて断れるわけがない。
「私達に身体強化の魔法を頼む」
「私達が戦うしかない」
ウィリアムとアーロは戦う気だ。
2人に止めた方がいいとはさすがに言えない。
敵は5人もいる。
聖騎士よりは多分、少しは弱いと思う。人数が多いし、装備も聖騎士ほどじゃない。根拠は全くない。
どの道、わたしには言われた通りするしかない。
わたしは一歩前に出て、6人に向けて、身体強化の魔法をかけた。
声を出したり、動いたりしたが、敵は襲ってこない。
まるで、機械か何かのようにすら、思える。
はっきり言って、不気味だ。
襲ってこないで、じっと立たれていると言うのは、逆に何をしてくるかわからず、怖い。
むしろ、襲ってくる方が自然な気がする。
「いつまで様子を見ている気なのでしょう? あの人形に罠などの高度なことはできないでしょう」
リーナが背中を押す――というより、急かすように言う。
村の護衛の一人、さっき、わたしを助けてくれた人が、闇魔法を5人の敵に向けて、放つ。
剣の形の闇魔法は敵へと突き刺さろうとする。
その時に初めて、敵が動いた。5人の敵はそれぞれの黒い武器を振るい、剣の形の闇魔法を防ぎながら、わたし達の方に早足で歩き出す。
闇魔法でできた黒い剣がいくつか刺さるが、痛がる素振りは一切見せないどころか、躊躇も一切なく、こちらに向かってくる。
6人がほぼ同時にそれを迎え撃つ。
ウィリアムとアーロは身体強化での戦闘経験はあるけど、後の4人は――すぐに順応していた。
村の人達が見ている前で闇魔法なんて使っていいのかと思ったけど、よく考えると、わたしも身体強化の魔法を使っている。
それ以前に、魔獣とか転移魔法とかあの聖騎士とか明らかにおかしい。
そうしないとまずい状況ということだ。
互いの武器と武器がぶつかる。
敵の力はかなり強いのだろう。身体強化の魔法をかけていて、互角ぐらいだ。
村の護衛には女性と少年がいるが、二人で敵一人を相手にしている。
敵の黒い武器も闇魔法だろうか。
あっ、闇魔法なら――わたしでもどうにかなるんじゃない?
「わたしの光魔法でダメージを与えられない?」
リーナに言ってみる。
「なりません。今は身体強化以外の魔法は使用しないでください。それに、光魔法なら、リビーが既に試しております。今は耐えてください」
リーナに懇願されてしまった。
聖騎士とは違い、あの5人の敵は魔法を放っては来ない。それはできないのかもしれない。
それにあまり複雑な動きはできないんじゃないかと思える。
これまでの動きが単調だ。
意思がなく、操られているような動きだ。
死体を無理やり動かしている……
きっと、そうなんだろう。




