152話 暗闇の聖騎士 二
ウィリアム、アーロ、それに、村の護衛の人達が村人を下がらせ、自分達は前に出る。
彼らの認識も聖騎士は敵だということだろう。
「それ以上、前には出ないでください! 今の皆さんではあの聖騎士と戦わせることはできません!」
リビーが彼らよりも前に出て、牽制する。
「文句は言わせませんよ! 先程の聖騎士の攻撃を認識できていなかったでしょう!? 皆さんはメイと村人を護って下さい!」
リビーがもう一歩、聖騎士に向かって大きく踏み出す。
すると、聖騎士が口を開いた。
「人に紛れているか」
仮面のせいか、籠ったような男の声だ。聞いたことのある声かは判然としない。
それに、魔獣が倒されて焦っているというようなことも感じられない。
「ヴァンパイアだな」
余裕さえ感じられる口調で聖騎士が言う。
ヴァンパイアを知っているなら、聖騎士はやっぱり只者じゃない。
聖騎士自身、人間とは思えない。
聖騎士が更に歩を進める。
教会周辺の明かりに照らされ、聖騎士の白い団服と白い仮面が浮かび上がる。
聖騎士なのに、不気味に思える。
単に聖騎士の恰好をしているだけかもしれないけど。
さすがに今、口を挟める度胸はない。
現に、リビーと聖騎士以外、黙ったままだ。
2人が話さないと、しんと静まる。
後、対抗できるのは、リーナくらいなんだろう。そのリーナはわたしと触れるか触れないかという距離にいる。
わたしが戦えず、自分の身も護れない魔王だからだろう。
リビーは、ウィリアム、アーロ、それに、おそらく人間ではない村の護衛達でも勝てないと判断している。
あの聖騎士は相当、強いんだろう。
「それならっ! どうするのでしょう!」
リビーは大きくジャンプし、聖騎士の前に躍り出る。
わたしは聖騎士の挙動をじっと見ていた。
聖騎士は剣を抜いて、リビーを迎え撃つと思ったが――
突然、聖騎士の姿が消えた。
慌てて聖騎士がいた場所の近辺に目をやるが、聖騎士はいない。
え? 撤退した?
と、考えた直後、軽い衝撃が伝わった。
倒れるほどではなく、体も何ともない。
ただ、聖騎士は撤退なんて、していない。
また、攻撃を受けたんだ!
わたし達を先に始末しようとしているのかもしれない。
「リビー、こちらの護りは私が担当致します」
リーナがリビーに呼びかける。
「リーナ様! よろしくお願いします!」
リビーとリーナが頑張ってくれている。
聖騎士は強敵だ。なのに、何もできない自分がもどかしい。
リビーは聖騎士の姿を見つけたのか、暗闇に姿を消した。
「リーナ、リビーは大丈夫?」
「はい、負けはしないと思います」
それは勝てるかはわからないということ??
リーナは、微妙に不安になる答えを返してくる。
「あの聖騎士、人間じゃないよね?」
そのわたしの問いにリーナは少し考えるような仕草をする。
「人間ではないとは言えません。体は人間のものかと思います。おそらく、再生能力はありません。”黒い剛腕の女”、彼女と同じ状態と言えるでしょう」
「アリシアさんと!? じゃあ、あの聖騎士は――」
わたしの言葉を遮り、
「アリシアと関わりがあるのか!?」
アーロがリーナに詰め寄る。
「詳しくはわかりません。私にわかるのは、あなたの妹とあの聖騎士は同じ状態になっているということだけです」
「やはり、アリシアの件と聖騎士の失踪は関係があるのか」
アーロはリーナへ追及はせず、考え込む。




