150話 リビーの追及 二
はっきり言って、居心地が悪い。
場の雰囲気が悪くなることを言わないでほしい。
それでなくても、魔獣の死体が散乱するような環境だ。
「そんなの、答えるまでもないでしょう」
デリアが冷静に、はっきりと言う。
「答えになってませんが、いいでしょう! では、こちらをあなたに!」
リビーはドラゴンの像をデリアに向かって、デリアが受け取れるように軽く放り投げた。
リビーはデリアが受け取れる絶妙な位置に投げていたが、デリアは受け取ることなく、避けた。
ドラゴンの像は軽い音を立てて、地面に転がった。
見たところ、壊れてはいないようだ。
ああ、一応、神の使いの像が……
いや、呪いの道具に近いのかもしれない。闇魔法が閉じ込められていたんだった。
何とも言えない感じで、転がったそれを見ていた。
微妙な空気が流れる。
バースデーケーキを受け取り損ねて落としてしまった感覚だ。
誰も動かず、それを見ている。
これはどうするべきなんだろう……?
わたしは――耐えられず、それを拾った。
近くでよく見ると、確かに、あの時の像だと思う。
「メイ!」
デリアが慌てたように、わたしの手から像を取り上げ、投げ捨てた。
再び、像は地面を転がることとなった。
わたしは驚いて、ただ、それを呆然と見ていた。
「神の使いであるドラゴンの像にこのような仕打ちをしてはいけませんよっ!」
放り投げてもいけない気がするけど……
それより、デリアはあの像を知っているんだろうか……?
あのいわくありげな像を。とはいえ、今は、ほぼ、ただの像のはずだ。
「デリア、どうしたんですか? ただの像だと思います」
「え、ええ、そうね……」
デリアの口調にさっきまでの威勢がない。
やっぱり、リーナの言う通り、この村には秘密があるんだろうか……
「この像は呪われている、とか?」
わたしはデリアに聞いてみた。
「……」
デリアは答えない。ほとんど、肯定しているようなものだ。
ということは、この像を知っているということだ。
どうして、デリアが……?
そういえば、リーナが信仰のことも言っていた。
リビーが神について聞いていたのも、そういうことだったんだ。
デリアは、というより、この村は、通常の信仰じゃないということだ。
「デリアの信じる神は、違うんですね」
わたしがそう言うと、デリアは身に付けていたペンダントを見せた。服の下に付けていたので付けていたことも気付かなかった。
わたしはそのペンダントの模様に見覚えがあった。
魔王国ではよく目にしていた。
わたしには単なる模様やオブジェのような認識だったものだ。
違いは色だけだ。
今、目にしているものは、黒を基調としている。
「魔王の象徴」
わたしは小声ではあったけど、そう口に出していた。
デリアは目を見開いて、わたしを見ていた。
わたしの呟きがデリアに聞こえていた!
「メイ! どうして、そんなことを知っているの!?」
「その、見たことがあったんです」
「……あたしを軽蔑する?」
「いえ、信仰は自由だと思います。争いにならなければ、という条件付きですけど」
なんとなく、気付いていた。
あまり知りたくはなかった。
イネスからかなり前に聞いたことがあった気がする。
魔王信仰……
魔王国ではほぼ、魔王信仰だ。
この王国では悪魔信仰に近いんだろう。
しかも、一応、魔王って、わたしなんだけど……
こんな、役に立たない神ってあるだろうか……
めちゃくちゃ申し訳なくなる。
「……そうなのね。このことは、黙っていてほしいわ」
「はい、それはもちろんです。黙っています。約束します」
わたしは力強く頷く。
「魔王様は――この王国では悪く言われるけれど、この国を脅かしたことなんて、実際にはないわ。魔王様こそが本当の神。この世に平穏をもたらす神なの。大聖堂を見たのでしょう? 中央にいるべき主神は魔王様。大聖堂は魔王様のいらっしゃる方を向いているの」
デリアは噛みしめるように語る。
「おお! それは私もよくわかります! 魔王様こそが神です! それは疑いようがありませんっ! 魔王様のおかげに私はあるのです!」
リビーは目をきらきらさせて、デリアを見つめていた。
「まさか、あなたも!? あたしがあるのも魔王様のおかげです」
デリアとリビーは急に意気投合した。
その魔王、目の前にいるんだけど……
わたしにどうしろというのか……
ああ、別に魔王という神がいるんだろうか?
いや、むしろ、そうに違いない。
というより、未だ、わたしが魔王だということも疑っている状態だ。
何が本当なのか、わたしには未だ、わからない。わからないことだらけだった。




