148話 村での調査 三
彼がどう動くのか、気になり、じっと彼を見てしまう。
まさか、襲ってきたりしないよね……
闇の中、小さな明かりに照らされる顔の見えない男。
結構、怖い。
しかも、わたしは攻撃魔法が一切使えない。
彼は黙ったままだ。声が出せないから、当たり前だけど。
心の中では、ヒィィィと慄いている。
でも、顔には出さない。
怯んじゃいけない。
普通にしていればいい。
「そ、それでは」
彼の元からすぐに立ち去ろうと早足になる。
聞いた話では村の護衛は後3人。その3人なら話ができるはずだ。
そんな時、村中が地面からの淡い光に照らされた。
綺麗な光景だった。
光は魔法の光だ。
そこでハッとする。
王国のほとんどの人は属性魔法しか使えない。
この光は火の魔法じゃない。属性魔法じゃない。
冷や汗が出てくる。
もしかして、わたしのせい?
探っていると思われたんだろうか?
振り返るのが怖い。
でも、後ろから攻撃されるかもしれない。
思い切って、振り向くと、彼がすぐ傍まで迫っていた。
今は、剣を持ってない。なんで、こんな時に持ってきてないの、わたし!
彼がわたしとの距離を一気に詰め、強引に抱き寄せて来た。
わたしはほとんど、彼にぶつかる様な形になった。
殺される……
覚悟した痛みは来ない。
彼の胸に、というか、防具に顔をぶつけた時は少し痛かったけど。
あと、すぐ後ろで変な音が聞こえた。
動物の唸り声のような、喉を鳴らす音のような、とにかく、嫌な音だ。
後ろを見てみると――
恐ろしい魔獣の顔のアップがあった。
あ……
わたしは魔獣の顔を見たまま、動けなかった。
思考も停止状態。
ただ、一向に魔獣からの攻撃はない。
やっと、少し冷静になれた。
わたしと魔獣の間には壁のようなものがある。
見えてはいるが、魔獣はわたしを襲えない。
属性魔法ではない魔法だ。
わたし自身は、村の護衛の男に引っ付いたままだった。
彼は魔王国の……
敵じゃない。本当に村の護衛だった。
彼はわたしを護ってくれたのだろう。
だから、リーナは村の護衛の彼らに対して特に警戒していなかったということなんだと思う。
顔に傷があるというのは嘘かもしれない。
彼らは人間ではないのだろう。
彼は黒い光線のようなもので魔獣を貫いた。
おそらく、闇魔法だ。
魔獣は倒れた。
倒した! と喜んだのも束の間、他にも魔獣がうようよいることに気が付く。
ほとんどの魔獣が教会を取り囲んでいた。
あの中には、デリアや村の人達、それに、ウィリアムとアーロもいる。
魔獣はセイフォードで戦った魔獣よりは小さい。それでも、人間と比べると大きい。
しかも、数が多い。
どこから、魔獣は現れたのか――
おそらく、さっきの淡い魔法の光は転移魔法だ。
どこからか、転移してきた。多分、意図的にこの村に転移させられてきた。
村の集会の日に、集会をする教会を狙っている。
全滅した村と関りがあるとすると、この村も同じように全滅させる気かもしれない。
神は助けてなんてくれない。
「助けてくれて、ありがとうございます。あの、村の人達をお願いします。わたしも治癒魔法と身体強化の魔法ならできます」
彼を見上げると、彼は頷いてくれる。
そういえば、わたしはいつまで彼に引っ付いているんだろう……
まあ、彼は強そうだし、彼の傍にいた方が安全そうだ。
でも、邪魔をしてはいけない。
わたしも戦いたい。
魔獣に向かって行ったところで、結末は予想できる。
「メイ、ご無事で何よりです」
かわいい声がわたしを心配してくれる。
リーナだ。
「それと、村の護衛の方、いつまでそうしている気でしょう? 村が襲われております」
リーナの言葉に、村の護衛の男は頷くと、わたしを放し、教会へと駆けて行った。
教会ではすでに他の護衛の人達が戦っている。
「リーナ、教会以外の家に残っている人達を助けに行かないと」
「それには及びません。すでに対応しております」
「それなら、わたし達も教会に。ウィリアムとアーロもいるから」
「はい、魔王様」
わたしはリーナと共に教会へと向かった。
教会は見えていたし、それを取り巻く多くの魔獣も見えていた。
村の護衛の人達がその魔獣を倒していく。
彼らなら、問題なさそうだ。
教会にも被害は出ていない。
わたし達が行っても、意味はないかもしれない。
というより、わたしは足手纏いにしかならない……
わたしは立ち止まり、今のうちに調べることがないかと考える。
「リーナ、この魔獣がどこから来たのか、わからない?」
「残念ですが、わかりませんでした……転移魔法を複数回使用し、複数の場所を経由させていたようなのです」
周りは魔獣だらけのすごい状況ながら、リーナはゆったりとした口調だ。全く危機感がない。
わたし、どうしよう……
や、役立たず!
ちなみに、わたし達に向かってくる魔獣ももちろん、いる。悉く、リーナが倒していた。
中々、凄惨な倒し方だ。魔獣の体が飛び散る。
わたしの周りは惨状だ。
結界のようなもので、わたしやリーナには全く当たらない。
わたしはこれくらいで怯えなくなった。
わたし一人なら、わたしが引き裂かれていたと思うけど。
「リーナ様! 片付け終わりましたっ! ここの方達は全員無事です!」
唐突に、一際、明るい声が聞こえてきた。
金髪を靡かせた女性が姿を見せる。
「貴女様は、魔王様ですか!? 初めまして! リビー・イーノと申しますっ! このリビーに何なりとお申し付けくださいっ!」
場違いに元気な声がわたしに向けられる。
「村の護衛の人達を手伝ってくれませんか。教会の周りの魔獣がまだ残っているんです」
「彼らは頑張っていますね! かしこまりましたっ! ちょっと、手を貸してきます!」
リビーは人とは思えないスピードで駆けて行った。人とは思ってないけど。
つい、追い払うようにしてしまった。
「リーナ、彼女とは知り合いなの?」
「ほとんど、知りません。同じヴァンパイアというだけでございます」
「そう。教会の中の人達は大丈夫かな」
「あの2人もおりますし、大丈夫でしょう。それに、彼らがしっかりと教会から村の者を出さないようにしております。出て来られると、面倒ですから」
誰も教会から出てこないのはそういうことだったんだ!
ウィリアムとアーロなら、魔獣を倒すために出てくると思っていた。
結局、わたしは見ているだけだった。
それからしばらくして、魔獣は村から一掃された。




